関係閣僚会議は、岸田総理大臣をはじめ西村経済産業大臣や渡辺復興大臣らが出席し、22日午前10時すぎから総理大臣官邸で開かれました。
この中で岸田総理大臣は、処理水の放出をめぐり先月、IAEA=国際原子力機関から安全基準に合致していると結論づける報告書が出されたことも踏まえ、各国への説明を続けてきたことに触れ「幅広い地域の国々から支持の表明が行われ、国際社会の正確な理解が確実に広がりつつある」と述べました。
また21日の漁業者との面会について「政府の姿勢と安全性を含めた対応に『理解は進んでいる』との声をいただいた」と述べました。
そして「引き続き漁業者との意思疎通を継続的に行っていくことが重要だ」と述べ、安全性の確保や風評対策の進捗(しんちょく)状況を確認する場を新たに設け、漁業者に寄り添った対応を徹底していくよう関係省庁に指示しました。
このほか中国が日本産の水産物の輸入を規制する動きを見せていることなどを念頭に、国内消費の拡大や国外の販路開拓などの支援を強化していく意向も明らかにしました。
その上で処理水の海洋放出の時期について「気象や海象の条件に支障がなければ、今月24日を見込む」と述べ、気象条件などに支障がなければあさって放出を始めることを決めました。
さらに「廃炉および処理水の放出を安全に終えることや、処理水の処分に伴う風評への影響やなりわいの継続に対する不安に対処すべく、たとえ今後数十年の長期にわたろうとも、処分が完了するまで政府として責任を持って取り組んでいく」と重ねて強調しました。
NHK世論調査
NHKが今月11日から3日間、行った世論調査では東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出について適切かどうか聞いたところ、▽「適切だ」が53%、▽「適切ではない」が30%、▽「わからない、無回答」が17%でした。
処理水の放出時期 決定の経緯
福島第一原発では、2011年の事故で溶け落ちた核燃料デブリを冷却する水や、原子炉建屋へ流れ込む雨水などから、放射性物質の大半を取り除いた処理水がたまり続けています。
処理水には除去するのが難しい「トリチウム」などの一部の放射性物質が残るものの、敷地内で保管できる量にも限界があるため、どう処分するかが課題となり、国のもとに設けられた有識者らによる組織で、2013年から検討が始まりました。
2020年に有識者らは、処理水を基準を下回る濃度に薄めるなどし、▼海に放出する方法と、▼蒸発させて大気中に放出する方法のいずれかが現実的で、海に放出するほうが確実に実施できるとした報告書をまとめました。
これを踏まえ翌2021年に政府は、処理水を薄めて海に放出する方針を決め、東京電力に対し、2年後をめどに放出を開始する準備を進めるよう求めるとともに、IAEA=国際原子力機関による調査を受けることになりました。
そして2年後にあたることし1月、政府は処理水の放出開始時期を春から夏ごろを見込むと確認。
7月にはIAEAが処理水の放出計画は「国際的な安全基準に合致している」とする報告書を公表したのに加え、海に放出する設備も必要な検査に合格し準備が整いました。
ただ放出計画には、漁業関係者などから反対の声が出たため、政府は安全性の確保や風評対策を徹底する方針を繰り返し説明し、理解を求めてきました。
また周辺国にも反対や懸念の声があり、特に中国は「処理水」を「汚染水」と表現して強く反発し、日本産食品の輸入規制を強化する動きをみせていることから、日本政府は科学的根拠に基づいた対応をとるよう重ねて求めてきました。
政府は国内外へのできるかぎりの説明や情報発信は尽くしてきたとする一方、処理水を保管できるスペースはなくなりつつあり、これ以上は計画を先送りできないとして、放出開始を決めました。
韓国の魚市場では不安の声も
韓国・ソウルにある市内最大の魚市場、ノリャンジン(鷺梁津)水産市場では、処理水が放出されることに不安の声も聞かれました。
魚を売る店の男性は「以前より客足が半分以上減っている。店に来る人の10人のうち6、7人が放出について話すのでストレスを感じている」と話していました。
また日本産の魚介類も扱う別の店の女性は「お客さんが怖がっている。放出されたらもっと大変なことになるだろう。新型コロナによる影響が終わったのに、またこんなことがあるととても心配だ」と話していました。
韓国の関税庁によりますと、日本産の魚介類の輸入量は▽7月は2415トンで前の年の同じ時期と比べておよそ5%減少したほか、▽6月までの3か月間では、いずれも前の年の同じ時期を30%前後下回りました。
韓国メディアは「放出が近づく中で、国民の懸念が大きいことが影響しているようだ」と伝えています。
韓国では最大野党などが処理水を「核廃水」と呼び、放出に反対する一方、与党は「非科学的な主張で不安をあおっている」と批判しています。
こうしたこともあり水産市場の入り口には「不安を起こすデマはこれ以上容認できない」とか「水産物の安全に異常なし、安心して消費しよう」などと書かれた横断幕も掲げられ、水産業者が処理水の放出に敏感になっていることがうかがえます。