ドーナツ提供ていきょうは過失かしつか？ 老人ろうじんホームで入所にゅうしょ者しゃ死亡しぼう あす2審しん判決はんけつ

1審しんの長野ながの地方ちほう裁判所さいばんしょ松本まつもと支部しぶは去年きょねん3月つき、准じゅん看護かんご師しに過失かしつがあったとして罰金ばっきん20万まん円えんの有罪ゆうざい判決はんけつを言い渡いいわたしました。

2審しんで弁護べんご側がわは「ドーナツをあげると窒息ちっそくするという認識にんしきは職員しょくいんたちになかった」として改あらためて無罪むざいを主張しゅちょうした一方いっぽう、検察けんさつはおやつを確認かくにんする義務ぎむがあったとして、控訴こうそを退しりぞけるよう求もとめています。

准じゅん看護かんご師しが有罪ゆうざいとされると介護かいごの現場げんばが萎縮いしゅくしかねないとして、無罪むざいを求もとめる27万まん人にん余あまりの署名しょめいが東京とうきょう高裁こうさいに提出ていしゅつされるなど、医療いりょうや福祉ふくしに携たずさわる全国ぜんこくの関係かんけい者しゃの注目ちゅうもくを集あつめています。

判決はんけつは28日にち午後ごご3時じに東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょで言い渡いいわたされます。

これまでの捜査そうさと裁判さいばんは？

平成へいせい25年ねん12月つき、長野ながの県けん安曇あずみ野市のいちの特別とくべつ養護ようご老人ろうじんホームでドーナツを食たべた85歳さいの入所にゅうしょ者しゃの女性じょせいが心肺しんぱい停止ていしとなって病院びょういんに搬送はんそうされ、1か月かげつ後ごに亡なくなりました。

警察けいさつは、ドーナツを出だした准じゅん看護かんご師しがおやつの確認かくにんを怠おこたったために入所にゅうしょ者しゃがドーナツを詰つまらせたとして、業務ぎょうむ上じょう過失かしつ致死ちしの疑うたがいで書類しょるい送検そうけんし、検察けんさつも起訴きそしました。

裁判さいばんで弁護べんご側がわは一貫いっかんして無罪むざいを主張しゅちょうしましたが、1審しんの長野ながの地方ちほう裁判所さいばんしょ松本まつもと支部しぶは「ゼリーを提供ていきょうすることとされていたのに確認かくにんを怠おこたった」として、准じゅん看護かんご師しに刑事けいじ責任せきにんがあるとし、罰金ばっきん20万まん円えんの有罪ゆうざい判決はんけつを言い渡いいわたしました。

准じゅん看護かんご師しは控訴こうそし、2審しんでも無罪むざいを主張しゅちょうしていました。

今回こんかいの裁判さいばん 争点そうてんは？

1つ目めは「准じゅん看護かんご師しにおやつの形状けいじょうを確認かくにんする義務ぎむがあったか」という点てんです。

検察けんさつは「入所にゅうしょ者しゃに提供ていきょうするおやつは事故じこの前まえに固形こけいのものからゼリー状じょうのものに変更へんこうされていた。准じゅん看護かんご師しは固形こけいのものを提供ていきょうすれば窒息ちっそくなどで死亡しぼうする危険きけん性せいを認識にんしきしていたのに、おやつの形状けいじょうを確認かくにんする義務ぎむを怠おこたった」と主張しゅちょう。

弁護べんご側がわは「入所にゅうしょ者しゃは食べ物たべものを飲み込のみこむ機能きのうに問題もんだいはなく、准じゅん看護かんご師しにはドーナツをあげると窒息ちっそくするという認識にんしきは無なかった。当日とうじつ、手てが足たりなさそうだった介護かいご職員しょくいんを手伝てつだっておやつの提供ていきょうをしただけで、入所にゅうしょ者しゃに提供ていきょうするおやつが変更へんこうされていたことは知しらされておらず、確認かくにんする義務ぎむはなかった」と主張しゅちょうしました。

2つ目めは「入所にゅうしょ者しゃの女性じょせいの死因しいんが窒息ちっそくであるのか」という点てんです。

検察けんさつは「女性じょせいはおやつに提供ていきょうされたドーナツをのどに詰つまらせて窒息ちっそくして死亡しぼうした」と主張しゅちょうし、弁護べんご側がわは「脳のうのＣＴ画像がぞうなどから女性じょせいは脳のう梗塞こうそくを発症はっしょうしており、窒息ちっそくによって死亡しぼうしたのではない」と主張しゅちょうしています。

「事故じこが起おきたら有罪ゆうざいに…」介護かいご現場げんばに衝撃しょうげき

1審しんの有罪ゆうざい判決はんけつは介護かいごの現場げんばに衝撃しょうげきを与あたえました。施設しせつによってはこれまでの対応たいおうを変かえるなど、影響えいきょうが出でてきています。

東京とうきょう 葛飾かつしか区くの特別とくべつ養護ようご老人ろうじんホーム「葛飾かつしかやすらぎの郷さと」では、利用りよう者しゃに提供ていきょうするおやつの種類しゅるいを減へらしました。

これまでは、まんじゅうやカステラといった固形こけいのおやつと、ゼリーやヨーグルトといった柔やわらかいおやつの2種類しゅるいを用意よういし、ふだんは柔やわらかい食事しょくじを食たべている利用りよう者しゃであっても、おやつでは食たべたいものを選えらべるようにしていました。

しかし1審しんの判決はんけつで「准じゅん看護かんご師しはおやつの形状けいじょうを確認かくにんする義務ぎむを怠おこたった」と判断はんだんされたことを受うけて、固形こけいのおやつの提供ていきょうはやめ、柔やわらかいおやつだけの提供ていきょうに切り替きりかえたということです。

施設しせつの木下きのした万まん誠まこと生活せいかつ援助えんじょ部長ぶちょうは「利用りよう者しゃの方ほうにとっておやつは楽たのしみなので、『おやつくらいは形かたちのあるものを食たべたい』という要望ようぼうを聞きいています。提供ていきょうしたい気持きもちもありますが、安全あんぜんのことを考かんがえて柔やわらかいものしか出だせないので、申し訳もうしわけない気持きもちになります」と話はなしています。

また、利用りよう者しゃが食べ物たべものを気管きかんに入いれてしまう「誤あやま嚥えん」などの事故じこが起おきた後のち、再発さいはつ防止ぼうしのために、職員しょくいんが作成さくせいする書類しょるいの書き方かきかたを変更へんこうしたということです。

これまでは事故じこの原因げんいんとして考かんがえられることを職員しょくいんが推測すいそくして記入きにゅうしていました。

ところが、もし事故じこが起おきて刑事けいじ事件じけんとして捜査そうさを受うけると、書類しょるいに推測すいそくが記載きさいされていることによって、事故じこを事前じぜんに予測よそくできたのではないかと受け止うけとめられるおそれがあると考かんがえ、「原因げんいん不明ふめい」と書かくようにしているということです。

事故じこが起おきたら有罪ゆうざいにされるのではないかという怖こわさを感かんじるようになったといいます。

木下きのした部長ぶちょうは「介護かいごの仕事しごとは利用りよう者しゃの方ほうの喜よろこぶ顔かおを見みるのがやりがいですが、裁判さいばんを受うけて、現場げんばの職員しょくいんたちが介護かいごの途中とちゅうで事故じこが起おきたら自分じぶんが有罪ゆうざいにされるのではないかという怖こわさを抱かかえながら仕事しごとをするようになりました。おやつの提供ていきょうにとどまらず、利用りよう者しゃの方ほうから『こういうことをしたい』『こういうところに行いきたい』という声こえがあがっても、事故じこが起おきた場合ばあいのことを考かんがえて利用りよう者しゃの希望きぼうに応こたえて新あたらしいことに挑戦ちょうせんする気持きもちが低下ていかしてしまうと思おもいます」と話はなしています。

無罪むざい求もとめる署名しょめい 全国ぜんこくから集あつまる

准じゅん看護かんご師しが有罪ゆうざいになると介護かいごの現場げんばが萎縮いしゅくしかねないとして、全国ぜんこくの医療いりょうや福祉ふくしの関係かんけい者しゃなどから無罪むざいを求もとめる署名しょめいが裁判所さいばんしょに提出ていしゅつされるなど、2審しんの判決はんけつは注目ちゅうもくされています。

准じゅん看護かんご師しを支援しえんする団体だんたいによりますと、1審しんでは44万まん筆ぴつ余あまり、2審しんではおよそ27万まん筆ぴつの署名しょめいを集あつめ、裁判所さいばんしょに提出ていしゅつしたということです。

団体だんたいには全国ぜんこくから応援おうえんの寄せ書よせがきやメッセージが寄よせられ「個人こじんの刑事けいじ責任せきにんが問とわれるなら、介護かいご施設しせつで働はたらく看護かんご師しとして利用りよう者しゃへ安心あんしんしてケアを提供ていきょうできない」とか「看護かんご者しゃ、介護かいご者しゃはどこも人手ひとで不足ふそくを感かんじていて、なり手なりて不足ふそくが加速かそくすると思おもう」というものがありました。

今月こんげつ21日にち、2審しんの判決はんけつを前まえに開ひらかれた弁護べんご団だんの記者きしゃ会見かいけんで藤井ふじい篤あつし弁護べんご団長だんちょうは「介護かいごの現場げんばは人員じんいん不足ふそくに悩なやんでいる。介護かいご中ちゅうの事故じこで有罪ゆうざいになってしまうと、おやつは与あたえない、食事しょくじも胃いろうのようなものにするなど、介護かいごのレベルが下さがってしまう」と訴うったえました。

専門せんもん家か「判決はんけつ内容ないようによって 利用りよう者しゃに影響えいきょうのおそれも」

介護かいごの問題もんだいに詳くわしい淑徳しゅくとく大学だいがくの結城ゆうき康博やすひろ教授きょうじゅは「お年寄としよりの楽たのしみや自己じこ実現じつげんをかなえるのも介護かいごの役割やくわりの1つだ。お年寄としよりにとっていちばんの楽たのしみは食事しょくじであり、しっかりと安全あんぜん対策たいさくを取とったうえで固形こけいの食事しょくじを提供ていきょうするのは利用りよう者しゃの楽たのしみを保障ほしょうする介護かいごになる」と指摘してきしています。

そのうえで「現場げんばの職員しょくいんたちに『安全あんぜんだけ確保かくほすればいい』という考え方かんがえかたが浸透しんとうすると、本人ほんにんの希望きぼうを置き去おきざりにした介護かいごに徹てっしてしまい、結果けっか的てきにはお年寄としよりの生活せいかつの質しつが低下ていかしてしまう」として、判決はんけつの内容ないようによっては利用りよう者しゃの生活せいかつに影響えいきょうが出でるおそれがあると指摘してきしています。