熊本くまもと 球磨くま川がわの氾濫はんらん流りゅう 秒速びょうそく3メートル以上いじょう 早期そうきに高台たかだいに避難ひなんを

熊本くまもと県けんの球磨くま川がわでは、6か所かしょあるすべての観測かんそく所しょで水位すいいが過去かこ最高さいこうとなり、人吉ひとよし市しでは2か所かしょで堤防ていぼうが決壊けっかいしたほか、球磨くま村むらや八代やしろ市しなど合あわせて11か所かしょで水みずが堤防ていぼうを越こえたり、堤防ていぼうのないところからあふれ出でたりしました。

河川かせん工学こうがくが専門せんもんの熊本くまもと大学だいがく大学院だいがくいんの大本おおもと照あきら憲けん教授きょうじゅは、現地げんち調査ちょうさや当時とうじの映像えいぞうなどから「氾濫はんらん流りゅう」と呼よばれる、川かわからあふれ出でた水みずの流ながれを詳くわしく分析ぶんせきしました。

このうち、川幅かわはばが急激きゅうげきに狭せまくなる中流ちゅうりゅう部ぶの球磨くま村むら渡わたし地区ちくで撮影さつえいされた動画どうがを解析かいせきした結果けっか、堤防ていぼうからおよそ100メートル離はなれた国道こくどう上じょうでは流ながれが秒速びょうそく3メートル以上いじょう、付近ふきんの水深すいしんは6.2メートルに達たっし、水みずの力ちからが住宅じゅうたくを押し流おしながすほどにまでなっていたことが分わかりました。

また、川かわ沿ぞいの住宅じゅうたくや店舗てんぽが全壊ぜんかいするなどの被害ひがいが出でた八代やしろ市し坂本さかもと町まちの荒瀬あらせ地区ちくでは、川かわの両りょう岸きしに残のこされた痕跡こんせきからカーブの外側そとがわにあたる左岸さがんの水位すいいが、右岸うがんより3メートルほど高たかい4.8メートルに達たっしていたことも確認かくにんされました。

大本おおもと教授きょうじゅは、遠心えんしん力りょくが働はたらき勢いきおいを増ました氾濫はんらん流りゅうが併走へいそうする勾配こうばいの急きゅうな国道こくどうを一気いっきに流ながれ下くだって集落しゅうらくを直撃ちょくげきし、建物たてものを倒壊とうかいさせた可能かのう性せいが高たかいと分析ぶんせきしています。

調査ちょうさでは、氾濫はんらん流りゅうが発生はっせいした人吉ひとよし盆地ぼんちから、その下流かりゅうにかけての広ひろい範囲はんいでは地域ちいき一帯いったいが川かわのようになり、大おおきな被害ひがいが出でたとみられるということです。

大本おおもと教授きょうじゅは、球磨くま川がわに限かぎらず、傾斜けいしゃの急きゅうな山間さんかん部ぶなどでは大雨おおあめの際さいに氾濫はんらん流りゅうによる住宅じゅうたくの倒壊とうかいや流出りゅうしゅつのおそれがあると指摘してきしたうえで「建物たてものの2階かい以上いじょうに逃にげる垂直すいちょく避難ひなんでは命いのちの危険きけんがある場合ばあいがあり、早はやい段階だんかいで安全あんぜんな高台たかだいなどへ移動いどうしておくことが大切たいせつだ」と話はなしています。

住民じゅうみん「津波つなみのようだった」

球磨くま川がわでは流域りゅういきの広ひろい範囲はんいで氾濫はんらん流りゅうによる大おおきな被害ひがいが出でました。

このうち、球磨くま村むら渡わたしの茶屋ちゃや地区ちくでは住民じゅうみんは避難ひなんして無事ぶじでしたが、28世帯せたいのうち、少すくなくとも21世帯せたいの住宅じゅうたくが流ながされるなどして全壊ぜんかいしました。

自宅じたくを失うしなった中神なかがみゆみ子ゆみこさん（70）は「川かわの流ながれはまるで津波つなみのようだった。過去かこの水害すいがいで住宅じゅうたくが水みずにつかったことはあったが、まさか目めの前まえで自宅じたくが流ながされるとは思おもわず、2階かいに逃にげていたら助たすからなかった」と話はなしていました。

また、八代やしろ市し坂本さかもと町まちで営いとなんでいたあゆ料理りょうりのレストランが流ながされた福嶋ふくしま建治けんじさんは「今いままで経験けいけんのない水みずの量りょうと増ふえかただった。川かわは波打なみうっていて、上流じょうりゅうからほかにも家いえが流ながれてきたりして流ながれの破壊はかい力りょくは恐おそろしいと感かんじた」と話はなしていました。

水深すいしんと流速りゅうそくで氾濫はんらんの危険きけん度どを

川かわの氾濫はんらんによって住宅じゅうたくが倒壊とうかいしたり流失りゅうしつしたりする被害ひがいは、これまでにも繰り返くりかえされています。

平成へいせい27年ねん9月つきの「関東かんとう・東北とうほく豪雨ごうう」では、茨城いばらき県けんで鬼怒きぬ川がわの堤防ていぼうが決壊けっかいして近ちかくの住宅じゅうたくが全壊ぜんかいしたほか、去年きょねん10月つきの台風たいふう19号ごうでも長野ながの県けんで千曲川ちくまがわの堤防ていぼうが決壊けっかいし、氾濫はんらん流りゅうにより住宅じゅうたくが流失りゅうしつしました。

国土こくど交通こうつう省しょうによりますと、建物たてものが倒壊とうかいするかどうかは、氾濫はんらんした水みずの速はやさと浸水しんすいの深ふかさによって決きまり、シミュレーションでは一般いっぱん的てきな木造もくぞう2階かい建だて住宅じゅうたくの場合ばあい、水深すいしんが2メートル、流ながれが秒速びょうそく4メートルを超こえると家屋かおくが倒壊とうかいしたり流出りゅうしゅつしたりするということで、水深すいしんが大おおきければ、流ながれが4メートルに達たっしなくても倒壊とうかいのおそれがあります。

熊本くまもと大学だいがくの大本おおもと照あきら憲けん教授きょうじゅが、熊本くまもと県けん球磨くま村むらの渡わたし地区ちくで行おこなった現地げんち調査ちょうさでは、住宅じゅうたく地ちの浸水しんすいは6.2メートルに達たっし、動画どうがの解析かいせき結果けっかから氾濫はんらんした水みずの流ながれが秒速びょうそく3メートルだったとみられ、住宅じゅうたくは押し流おしながされやすい状況じょうきょうにあったことが確認かくにんされました。

大本おおもと教授きょうじゅは「一般いっぱんに住宅じゅうたく地ちは堤防ていぼうに加くわえ、道路どうろや家屋かおくなどがあるため抵抗ていこうが大おおきく流速りゅうそくが速はやくなりにくいが、今回こんかいは川かわと周辺しゅうへんが一体いったいになっているような状態じょうたいで、氾濫はんらん流りゅうの威力いりょくが増まし、被害ひがいが深刻しんこくになったと思おもわれる。水深すいしんだけでなく、流速りゅうそくも併あわせて川かわの氾濫はんらんの危険きけん度どを評価ひょうかする必要ひつようがある」と指摘してきしています。

ハザードマップに反映はんえいされず

氾濫はんらん流りゅうにより住宅じゅうたくが押し流おしながされるおそれがあるなど、危険きけん性せいが高たかい川かわ沿ぞいの区域くいきについて、国土こくど交通こうつう省しょうは「家屋かおく倒壊とうかい等とう氾濫はんらん想定そうてい区域くいき」に指定していし公表こうひょうしています。

「家屋かおく倒壊とうかい等とう氾濫はんらん想定そうてい区域くいき」は、氾濫はんらんした水みずの流ながれの力ちからが大おおきく、住宅じゅうたくが押し流おしながされたりする危険きけん性せいがあったり、土地とちが浸食しんしょくされ流失りゅうしつするおそれがあったりするなど、特とくに危険きけん性せいが高たかい場所ばしょについて、国くにや都道とどう府県ふけんが指定していしています。

この区域くいきでは、自宅じたくにとどまる垂直すいちょく避難ひなんは危険きけんなため、流域りゅういきの自治体じちたいは避難ひなん場所ばしょや避難ひなん経路けいろを検討けんとうし地域ちいき防災ぼうさい計画けいかくの修正しゅうせいをするほか、ハザードマップに反映はんえいさせるよう求もとめています。

球磨川くまがわ流域りゅういきでは、2017年ねんに「家屋かおく倒壊とうかい等とう氾濫はんらん想定そうてい区域くいき」が指定していされましたが、今回こんかい、多おおくの被害ひがいが出でた人吉ひとよし市しと球磨くま村むら、それに八代やしろ市しの3つの自治体じちたいでは、いずれもハザードマップに記載きさいされていませんでした。

理由りゆうについて八代やしろ市しは「浸水しんすいの範囲はんいや深ふかさや反映はんえいさせていたが、家いえが流ながされるおそれがあるという認識にんしきがなく、氾濫はんらん流りゅうの想定そうてい区域くいきを住民じゅうみんに周知しゅうちできていなかった」としたほか、人吉ひとよし市しは「想定そうてい区域くいきが広ひろい範囲はんいに及およんでいて、浸水しんすい想定そうてい区域くいきと別べつの情報じょうほうを加くわえると、マップが分わかりにくくなるおそれがある」と話はなしています。

また、球磨くま村むらの中なか渡わたり徹とおる防災ぼうさい管理かんり官かんは「球磨くま村むらのような小ちいさな自治体じちたいでは、毎年まいとし、ハザードマップの更新こうしんに予算よさんを要求ようきゅうできるほど財政ざいせいも潤沢じゅんたくではないし、マンパワー不足ふそくが顕著けんちょで反映はんえいには至いたらなかった。ただ、今後こんごは今回こんかいの被害ひがいの教訓きょうくんを踏ふまえ、作り直つくりなおしたい」と話はなしていました。

一方いっぽう、国土こくど交通こうつう省しょう八はち代だい河川かせん国道こくどう事務所じむしょの山口やまぐち広喜ひろき調査ちょうさ課長かちょうは「氾濫はんらん流りゅうの情報じょうほうが反映はんえいできていなかったのは、私わたしたちの情報じょうほう提供ていきょうや支援しえんが十分じゅうぶんではなかったことも一因いちいんで反省はんせいする必要ひつようがある。次つぎの災害さいがいに備そなえ、氾濫はんらん流りゅうの想定そうてい区域くいきを周知しゅうちすることで、少すこしでも地域ちいき住民じゅうみんの避難ひなん行動こうどうにつなげて被害ひがいの軽減けいげんを図はかりたい」と話はなしていました。

スイスでは土地とち利用りよう制限せいげんも

氾濫はんらん流りゅうの危険きけん性せいをどのように住民じゅうみんに伝つたえればよいのか。

治水ちすい対策たいさくに詳くわしい九州きゅうしゅう大学だいがくの島谷しまたに幸宏ゆきひろ教授きょうじゅによりますと、海外かいがいではハザードマップに浸水しんすいの深ふかさだけでなく氾濫はんらん流りゅうの流速りゅうそくを記しるして、危険きけん性せいをより具体ぐたい的てきに伝つたえる取り組とりくみが行おこなわれているということです。

島谷しまたに教授きょうじゅは「ヨーロッパの国々くにぐに、例たとえばスイスでは自治体じちたいにハザードマップの作成さくせいと土地とちの利用りよう計画けいかくに反映はんえいさせることが義務ぎむづけられている。その際さい、浸水しんすいの深ふかさだけではなく、氾濫はんらん流りゅうの流速りゅうそくを考慮こうりょして危険きけん区域くいきが設定せっていされ、危険きけん度どに応おうじて住宅じゅうたくや小しょう学校がっこうなどの建設けんせつを禁止きんししたり、制限せいげんしたりするといった対策たいさくがとられている」と話はなしています。

そのうえで、島谷しまたに教授きょうじゅは「今後こんご、日本にっぽんでも氾濫はんらん流りゅうの危険きけん性せいがあるところでは土地とちの利用りようや開発かいはつを制限せいげんすることも検討けんとうしていく必要ひつようがある。そのためにも国くにや自治体じちたい、それに地域ちいきの連携れんけいが重要じゅうようになってくる」と指摘してきしています。