生まれた当時 高くはなかった評価
生まれた年の競り市では買い手がつかず、その次の年に1200万円で落札されました。
将来を見込まれた競走馬だと1億円を超えるケースも多くある中、幼い頃の評価は高くありませんでした。
牧場独自の取り組みで体力も精神力も成長
「筋肉が無くて、ひょろひょろっとした馬だった」と語るのが、購入した牧場の代表の岡田牧雄さんです。
岡田さんは、たとえ体が小さくても鍛えればいい体つきになるとして、デアリングタクトに期待を寄せていました。
岡田さんが取り組んだのが「歩けば歩くほど骨が丈夫になる」という、ほかの牧場ではほとんど見られないという“夜間放牧”でした。
“夜間放牧”は、野生に近い北海道の広大な牧場で一日のほとんどを屋外で過ごし、鹿の群れや、時には熊も現れるという環境の中で行われました。
野生動物から身を守ろうとする馬の体力や精神力が養われ、デアリングタクトは競走馬としての基礎を築いたということです。
本格的調教開始後 強烈な「末脚」が大きな武器に
その後、滋賀県栗東市にあるJRA=日本中央競馬会のトレーニングセンターに移ってから本格的な調教がスタートしました。
担当の杉山晴紀調教師は「しっかり食べるのでトレーニングが身になった。手を焼く馬はよく覚えているが、本当にスムーズにデビューできた。みんなこういう馬だったらいいのに」と振り返ります。
杉山調教師とのトレーニングで身につけたのが、最後の直線で見せる強烈な末脚です。
去年11月にデビューして以降、2連勝で迎えたことし4月の「桜花賞」では、最終コーナーから追い上げ、ゴール直前で先頭の馬をかわし、まずは1冠。
1番人気だった5月の「オークス」では、後方からのレースとなりましたが、最後の直線で先行していた馬を一気に抜き去り、63年ぶりとなる無敗での2冠を達成しました。
18日の秋華賞でも強烈な末脚を見せて、評価の高かったライバルたちを抜き去って快勝しました。
デアリングタクトが生まれた長谷川牧場を経営する長谷川文雄さんは、3冠達成後の取材に対し「大きな牧場が取るタイトルを私たちのような小さな牧場が取るのは大変なことです」と語りました。
生まれた当時は決して注目度が高くなかったデアリングタクトは、周りの人たちに支えられて成長し続け、歴史的偉業を成し遂げたのです。