第8回は、「投票者数のナゾ」。
選挙における投票者数は、日本ではまさに「基本の『キ』」と言える情報です。
ところが、アメリカ大統領選挙の投票者数を調べたところ、意外なことが明らかになりました。
投票者数はどれぐらい?
実は、正確には分からないんです。
と言うのも、アメリカでは50州のほとんどの州で、勝者が決まった時点で事実上、開票作業を終えるからです。
日本の選挙では、どんなに大差がついても最後の1票まで数え、各候補の得票数を発表しますが、アメリカではどちらかの候補が過半数を獲得して、勝者が決まればいいという「合理的」な考え方をしているそうです。
このため専門家によると、勝者が決まったあとは、誰に投票したか分からない「疑問票」を無視したり、候補者に適当に振り分けたりと、日本の常識では考えられないことも行われているということです。
前回2016年の大統領選挙でも、「公式の投票者数」とされる数字は複数発表されています:
1、選挙支援委員会 1億4011万人
(各州が連邦政府に報告した数字)
2、連邦選挙委員会 1億3667万人
(無効票の扱いなどが1と異なる)
3、議会下院 1億3679万人
(各州・各自治体がまとめた数字を足し上げた数字)
4、国勢調査局 1億3754万人
(国勢調査局が2年に1度行う調査に基づく推計)
このように、最も多い1と最も少ない2では、300万人以上の「誤差」があります。
また、アメリカの多くのメディアが引用している、フロリダ大学のマイケル・マクドナルド教授の「選挙プロジェクト」は各州が公表している投票者数をまとめるなどして、1億3885万人と、1~4のどれとも違う、独自の数字を発表しています。
そもそも有権者は何人いるの?
実は、これも正確には分かりません。
と言うのも、アメリカは日本と違って戸籍や住民票がないからです。
選挙権があるのは18歳以上の国民ですが、日本のように18歳になると自動的に投票できるわけではありません。
居住地の選挙管理委員会に事前に申請して、「有権者登録」をする必要があります。
引っ越したら、新たな居住地で改めて登録する必要があり、長い間投票しないと登録が消されてしまう場合もあります。
アメリカ国勢調査局は、前回2016年の大統領選挙で「有権者登録をした人」を、1億5760万人と発表しています。
「有権者数」と言うと、この数字が当てはまると感じるかもしれませんが、実はこの有権者登録も制度がない州もあれば、選挙のたびに更新しなければならない州などさまざまで、指標としては不正確だとも指摘されています。
このため、フロリダ大学の「選挙プロジェクト」は、次の2種類の数字をあげています:
1、各州の発表を足し上げて推計した18歳以上の人口 2億5006万人
2、1から市民権のない人や犯罪などで選挙権を失った人を除いた 2億3093万人
そして、移民など「居住者でも投票権のない人」が増えたことから、1からこうした人たちを除いた2を「有権者数」とする立場をとっています。
投票率は日本とどっちが高いの?
投票率は、「有権者数」に占める「投票者数」の割合のことです。
「選挙プロジェクト」のまとめによりますと、
2000年:54.2%
2004年:60.1%
2008年:61.6%
2012年:58.6%
2016年:60.1%となっています。
一方、日本の衆議院選挙の投票率は、
2000年:62.49%
2003年:59.86%
2005年:67.51%
2009年:69.28%
2012年:59.32%
2014年:52.66%
2017年:53.68%と、
2012年まではアメリカより高い傾向が続いていましたが、近年は低くなっています。
アメリカでは、国民が政治に満足していたり、事前の世論調査で特定の候補が大きくリードしていたりすると投票率が下がり、逆に接戦と見られている場合は投票率が上がる傾向にあると言われています。
過去50年間の大統領選挙で投票率が最も低かったのは、ビル・クリントン氏が再選を果たした1996年(51.7%)。最も高かったのは、オバマ氏が初当選した2008年(61.6%)でした。
今回は、接戦となっているのに加え、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、郵便投票を含む期日前投票が多くの州で利用しやすくなっているため、投票率は高くなるという見方が中心です。
アメリカ国民が次の4年間を託すのは、トランプ氏か、それともバイデン氏か?
大統領選挙については特設サイト「アメリカ大統領選挙2020」で、詳しくお伝えしています。
(国際部・佐藤真莉子)