サウジアラビアの国営メディアによりますと、これまでの調べで、容疑者の一部がカショギ氏をサウジアラビア国内に連れ戻すため、総領事館で面会した際に、口論の末に小競り合いに発展し、その結果、カショギ氏を死亡させたということです。
また、サウジアラビア外務省は声明で「殺害」という言葉を使って関与を認めたうえで、殺人事件としてトルコ政府と協力しながら捜査を進める考えを示しています。
サウジアラビア政府は、ムハンマド皇太子の側近とされる情報機関のアシリ副長官や王室顧問などが事件に関与していたとして更迭したと発表しています。
一方、焦点となっていたムハンマド皇太子の関与については一切、言及していません。
サルマン国王は、情報機関の立て直しをムハンマド皇太子の主導のもとで行うよう命じており、皇太子をかばう姿勢を鮮明にしています。
サウジ政府の発表内容と意味
サウジアラビア政府が国営メディアを通じて発表した内容は次のとおりです。
▽容疑者たちはカショギ氏をサウジアラビアに連れて帰るためにトルコを訪れていて、当日、イスタンブールにあるサウジアラビアの総領事館で、カショギ氏と話をしていた。
▽その後、両者のやり取りは口論と小競り合いに発展し、その結果、カショギ氏が死亡した。
▽現場にいた容疑者たちがカショギ氏が死亡した事実を隠蔽しようとした。
▽サウジアラビアの検察はカショギ氏の死亡事件に関わったとしてサウジアラビア国籍の18人を逮捕し、裁きにかける。
▽サウジアラビア政府はいずれも情報機関のアフマド・アシリ副長官、アブドラ・シャイエ長官補、ムハンマド・ルメイフ長官補、ラシャド・マフマディ情報局長、そして王室のサアド・カフタニ顧問の合わせて5人を更迭した。
▽情報機関を再編するためムハンマド皇太子をトップとする委員会を設置した。
これらのサウジアラビアの発表からは、サウジアラビア政府がカショギ氏の殺害を指示していたわけではなく、死亡した直後も情報を把握していなかったという主張が伺えます。
またムハンマド皇太子が情報機関の再編を任されていることから、ムハンマド皇太子の責任について問題視しない形をとっていることがわかります。
更迭されたのは皇太子の側近
サウジアラビア政府が関与を認めたことを受けて更迭されたのは、サウジアラビアの情報機関のアフマド・アシリ副長官とサアド・カフタニ王室顧問など合わせて5人です。
アシリ副長官とカフタニ王室顧問は、ムハンマド皇太子の側近として知られています。
アシリ副長官は、去年までムハンマド皇太子が推し進めた隣国イエメンへの軍事介入を担う有志連合軍の報道官を務め、流ちょうな英語で海外のメディアに対し、空爆を続けるサウジアラビア政府の立場を擁護していました。そして去年、ムハンマド皇太子の後押しを受けて、情報機関の副長官に昇進しています。
また、カフタニ王室顧問は自身のツイッターで、ムハンマド皇太子が進めるカタールとの国交断絶など強硬な外交政策を支持する書き込みを繰り返しています。
一方、サルマン国王は、今回の問題を受けて、ムハンマド皇太子の主導のもと、情報機関の立て直しを命じています。
ジャマル・カショギ氏とは
サウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏は、サウジアラビアの政府系の新聞の編集長を務め、一時は王族の顧問も務めるなど政府に近い人物として知られた時期もありました。
おととし8月にNHKが取材のためサウジアラビアにあるカショギ氏の自宅を訪れた際には、世界有数の投資家であるワリード・ビンタラール王子と写った写真が飾られるなど、当時は王室との距離が近かったことをうかがわせます。
しかし、去年、ムハンマド皇太子が王位継承者に昇格して国政の実権を握り、みずからの改革に批判的なジャーナリストや知識人の拘束を始めると、カショギ氏は活動の拠点をアメリカに移しました。
そして、アメリカの有力紙「ワシントン・ポスト」にコラムを寄稿するようになり「サウジアラビアがこれほどまでに抑圧的だったことはなく、耐えがたい」などとサウジアラビアではタブーとされる政府批判を展開するようになります。
さらにサウジアラビアが軍事介入を続ける隣国イエメンの内戦をめぐっては「皇太子は暴力を終わらせ、イスラム教発祥の地のサウジアラビアの尊厳を回復しなければならない」と、介入を主導したムハンマド皇太子の強硬な外交姿勢を糾弾しました。
こうした中、今月2日、カショギ氏は結婚の手続きのためトルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館を訪れ、その後、行方が分からなくなっていました。
カショギ氏が殺害されたのではないかという疑惑が深まるなか、ワシントン・ポストは17日、カショギ氏が最後に執筆したとする論評を掲載しました。
このなかでカショギ氏は「アラブ世界の多くの国々では、市民が日々の暮らしに関わることさえ公に議論することができない」と指摘し、アラブ諸国で表現の自由が抑圧されている実態について危機感を募らせていました。