テキサス州で行われている全米大学選手権の男子100メートルでは、5日の準決勝で追い風2.4メートルの参考記録ながら9秒96のタイムをマークし、7日は決勝のレースに出場しました。
決勝は、サニブラウン選手を含め9秒台の自己ベストを持つ選手が4人出場するハイレベルな争いとなり、サニブラウン選手はスタートではやや出遅れたものの得意の後半、大きなストライドで走り9秒97の日本新記録をマークし3位でフィニッシュしました。
サニブラウン選手は、追い風0.8メートルのなか、みずからの記録を0秒02縮めるとともに、おととし9月に桐生祥秀選手がマークした9秒98の日本記録を100分の1秒更新しました。
“将来を担うトップスプリンター” 世界が注目
サニブラウン アブデル・ハキーム選手は、ガーナ出身の父親と日本人の母親を持つ20歳。1メートル88センチの体格を生かしたストライドの大きな走りが持ち味です。
16歳だった2015年に、世界ユース選手権の男子100メートルと200メートルで2冠に輝き、200メートルではウサイン・ボルト選手が持っていた大会記録を更新するタイムをマークしたことで、将来を担うトップスプリンターとして世界的に大きな注目を集めました。この年、国際陸上競技連盟の新人賞にあたる「ライジングスター・アワード」を受賞しました。
2017年の世界選手権では、200メートルで史上最年少となる18歳5か月の若さで決勝進出を果たすなど、10代から目覚ましい活躍を見せてきました。高校卒業後はアメリカの強豪、フロリダ大学に進学して新たな環境で競技を続け、昨シーズンこそ右足を痛めてレースから遠ざかりましたが、復帰した今シーズンは先月、100メートルで日本選手として2人目の9秒台となる9秒99をマークし、日本記録の更新が期待されていました。
全米大学選手権 学生スポーツの最高峰
全米大学選手権は、アメリカの大学スポーツを統括するNCAA=全米大学体育協会が主催する大会で、1200以上の大学が参加する学生スポーツの最高峰の大会として知られています。
陸上だけでなく、アメリカンフットボールや野球、アイスホッケーなど多くの種目で人気が高く、バスケットボールでは日本の八村塁選手がNCAA1部のゴンザガ大学に所属しています。
今回、サニブラウンアブデル・ハキーム選手が出場している大会も、全米で中継されるなど注目度が高く、過去に日本選手が優勝した例はありません。出場している選手のレベルも非常に高く、男子100メートルではサニブラウン選手以外に、今シーズン9秒台をマークしている選手が3人おり、中でもナイジェリア出身でテキサス工科大学のディバイン・オドゥドゥル選手は、9秒94と今シーズン世界3位の好タイムをマークしています。
また、競技の日程も独特で、大会1日目に男子の準決勝種目をすべて行ったあと、1日空けて3日目に男子のすべての決勝種目を行うため、サニブラウン選手はわずか1時間半の間に400メートルリレー、100メートル、200メートルの3種目の決勝を走ることになり、スタミナや体の強さも勝負のポイントになります。さらに、今大会の会場となっているテキサス州オースティンの「マイク・A・マイヤーズスタジアム」は、アメリカでも屈指の高速トラックとして知られていて、2015年3月には桐生祥秀選手が追い風3.3メートルの中、9秒87の参考記録をマークしています。
全米大学選手権 過去の優勝者
全米大学選手権は1921年に始まりましたが、当初は100ヤードで競技を行っていて、1976年から現在の100メートルが行われるようになりました。歴史に名を刻む数々の名スプリンターたちがこのタイトルを手にし、その後、オリンピックや世界選手権など世界の舞台で活躍しています。
1981年に優勝したカール・ルイス選手は、その後、世界記録を打ちたて、オリンピックでは9つの金メダルを獲得しました。1990年優勝のリロイ・バレル選手は、ルイス選手と競い合い、2回、世界記録を更新しました。
また、おととしの世界選手権優勝のジャスティン・ガトリン選手は、2001年から2連覇を達成したほか、9秒69の自己記録を持つタイソン・ゲイ選手は2004年に優勝、現在、男子100メートルで世界ランキング1位のクリスチャン・コールマン選手も、おととし優勝しています。
留学生の選手も参加資格があり、過去にはオリンピックで4つの銀メダルを獲得した、ナミビアのフランク・フレデリクス選手が1991年に優勝したほか、同じくオリンピックで4つのメダルを持つ、トリニダード・トバゴのアト・ボルトン選手が1996年に優勝、最近ではリオデジャネイロオリンピックで200メートル銀メダル、100メートル銅メダルのカナダアンドレ・ドグラス選手が、2015年に優勝しています。