路面見える自宅付近から田んぼに落ちるまで
栃木県足利市では、今月12日、大雨の影響で道路が冠水して家族3人で避難所に向かっていた車が水没し、翌日、この車に乗っていた山本紀子さん(85)が亡くなりました。
近くに住む島田茂さん(67)も避難所に向かう途中、同じ場所で川からあふれ出た水で、車ごと流されました。
島田さんの車に搭載されたドライブレコーダーには、立往生するまでの道路の様子などが記録されていました。
今月12日の午後8時40分ごろ、島田さんが自宅を出発した時点では雨が強く降っていて時折水しぶきが上がりますが、水はたまっておらず路面は見ることができます。
田んぼ沿いの道を曲がって避難所につながる道路をしばらく進むと、前方が一時見えなくなるほど水しぶきがあがるようになります。
さらに進むと、流された稲わらが道路上に散乱し、川からあふれた水が画面の右から左に流れていく様子が確認できます。
速度を緩めてその場所を通過すると、その先の道路は冠水していませんでしたが、しばらく進むと、ふたたび先ほどよりも勢いよく水が流れていて、どこが道路の端なのかはっきり分からなくなります。
そして、車は徐々に左に流されて田んぼに落ちると、まもなくヘッドライトも消えてしまいました。ここまで自宅を出てからわずか4分でした。
流されて田んぼに落ちたときには、車のアラーム音が鳴り続けていて、「死ぬかもしれない」といった声も録音され、緊迫した状況がうかがえます。
島田さん「死を覚悟 もっと早く避難していればよかった」
島田さんは、台風が接近していた今月12日の午後8時半ごろ、平屋の自宅が浸水しないか不安に感じ、妻とともに車で自宅を出ました。走り始めた当初は雨が降っていたものの、道路に水はたまっていませんでした。
しかし、現場付近にさしかかると川の方から大量の水が流れてきて田んぼ側に脱輪し、車を制御できない状況になったということです。島田さんたちは、流され始めたときにドアを足で蹴って開けて避難し、無事でした。
当時の状況について、島田さんは「辺りは暗く、道路が冠水してどこを走っているのか分からなかった。必死に車から出たら、胸の辺りまで水につかり、死を覚悟した。もっと早く避難していればよかった。これからは避難所に向かうには、どの道を通るのが安全なのかも確認しなければならない」と話していました。
一方、亡くなった山本紀子さんの長女によりますと、午後8時半ごろ、消防が避難を呼びかける声が聞こえたため、自宅にいた家族6人が2台の車に分乗して避難所に向かったということです。
山本さんは、長女が運転する車に乗っていましたが、車は途中で流され、あっという間に胸の辺りまで浸水したといいます。屋根をつかんで救助を待ちましたが、山本さんは低体温症になり亡くなりました。
山本さんは、常に笑顔で穏やかな母親だったということで、長女は「高齢の親がいたので避難しましたが、今回の台風の場合は、家の高いところに避難していればこうした事態を防げたかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちです」と心境を語りました。
近所の男性「避難するには通らざるをえない道」
亡くなった山本さんの近所に住む男性は「午後8時ごろ、消防団が回ってきて避難を呼びかけていた。それを聞いて自分も母親と一緒に近くの公民館に避難した。公民館に行くには、現場の道路を通らざるをえない状況でした」と話していました。
また、現場の足利市寺岡町の自治会長も「避難所に行くには山本さんが通った道を通らなければならず、避難所の場所を再考する余地があるのではないか」と話していました。