諫早はや湾わん干拓かんたく事業じぎょう 司法しほう判断はんだんのねじれにあす最高裁さいこうさい判決はんけつ

司法しほうの判断はんだんが相反そうはんするなか、国くには開門かいもんを命めいじた確定かくてい判決はんけつの効力こうりょくをなくすよう求もとめる裁判さいばんを起おこし、去年きょねん７月しちがつ、２に審しんの福岡ふくおか高等こうとう裁判所さいばんしょは国くにの訴うったえを認みとめ、確定かくてい判決はんけつを事実じじつ上じょう、無効むこうとする判決はんけつを出だし、漁業ぎょぎょう者しゃ側がわが上告じょうこくしていました。

最高さいこう裁判所さいばんしょ第だい２に小しょう法廷ほうていはことし７月しちがつ、双方そうほうの意見いけんを聞きく弁論べんろんを開ひらき、漁業ぎょぎょう者しゃ側がわは確定かくてい判決はんけつに従にしたがって開門かいもんするよう求もとめた一方いっぽう、国くには２に審しんの判断はんだんを維持いじして確定かくてい判決はんけつを無効むこうとするよう求もとめました。

判決はんけつは、13日にち午後ごご３さん時じに言い渡いいわたされる予定よていで、開門かいもんすべきかどうかについて相反そうはんする判決はんけつが出だされ司法しほう判断はんだんのねじれが続つづくなか、最高裁さいこうさいがどのような判断はんだんを示しめすのか、注目ちゅうもくされます。

諫早はや湾わんの干拓かんたく事業じぎょうとは

諫早はや湾わんは九州きゅうしゅうの有明ありあけ海かいの西側にしがわにあります。現在げんざい、干拓かんたく地ちにはおよそ670ヘクタールの農地のうちがあり、長崎ながさき県けんによりますと、35の農業のうぎょう法人ほうじんなどがたまねぎやレタスなど、30を超こえる品目ひんもくを生産せいさんしています。

干拓かんたく事業じぎょうの構想こうそうが持ち上もちあがったのは戦後せんごすぐの昭和しょうわ27年ねん。しかし、その事業じぎょうの目的もくてきは米べい作づくりや畑作はたさく、工業こうぎょう用地ようちなど、変遷へんせんを重かさねます。

昭和しょうわ60年ねんに防災ぼうさいや農業のうぎょうを目的もくてきとした現在げんざいの事業じぎょうが動き出うごきだし、平成へいせい９きゅう年ねん、全長ぜんちょう７ななキロの潮しお受うけ堤防ていぼうによって諫早はや湾わんの３さん分ぶんの１いちにあたる3550ヘクタールが閉しめきられました。

しかし、その後そのご、特産とくさんの二枚貝にまいがい「タイラギ」が不漁ふりょうとなったほか、養殖ようしょくのりが色いろ落おちし、不作ふさくとなった年としがありました。

このため、国くには１いちか月かげつほど排水はいすい門もんを開あける調査ちょうさを行おこないましたが、原因げんいんの特定とくていには至いたらないまま、中ちゅう長期ちょうきの開門かいもん調査ちょうさは行おこなわず、事業じぎょうを進すすめることを決きめます。

納得なっとくできない漁業ぎょぎょう者しゃらは、国くにを相手あいてに裁判さいばんを起おこし、争あらそわれてきました。

司法しほう判断はんだんのねじれ

開門かいもんの是非ぜひをめぐって、司法しほうの判断はんだんがねじれた状況じょうきょうになったのは、開門かいもんを求もとめる漁業ぎょぎょう者しゃと、開門かいもんに反対はんたいする農業のうぎょう者しゃが、それぞれ国こく相手あいてに裁判さいばんを起おこし、いずれも勝訴しょうそしたためです。

平成へいせい９きゅう年ねんに堤防ていぼうが閉しめきられる直前ちょくぜんから事業じぎょうに反対はんたいする市民しみんや漁業ぎょぎょう者しゃが国くにを相手あいてに事業じぎょうの差し止さしとめなどを求もとめていくつもの裁判さいばんを起おこしました。

このうち、漁業ぎょぎょう者しゃらが開門かいもんを求もとめた裁判さいばんで、平成へいせい22年ねんに福岡ふくおか高裁こうさいは、１いち審しんに続つづいて、堤防ていぼうを閉しめきったことと漁業ぎょぎょう被害ひがいとの因果いんが関係かんけいを認みとめ、３さん年ねん以内いないに開門かいもんするよう国こくに命めいじました。

この判決はんけつは当時とうじの民主党みんしゅとう政権せいけんが上告じょうこくせずに確定かくていし、国くにに開門かいもんの義務ぎむが生しょうじました。

これに対にたいし、今度こんどは開門かいもんに反対はんたいする農業のうぎょう者しゃらが国くにを相手あいてに開門かいもんを禁止きんしするよう仮処分かりしょぶんを申し立もうしたてました。

平成へいせい25年ねん、長崎ながさき地裁ちさいは「開門かいもんすれば干拓かんたく地ちの農業のうぎょうに被害ひがいが出でる」などと農業のうぎょう者しゃ側がわの訴うったえを認みとめ、国くにに開門かいもんを禁止きんしする決定けっていを出だしました。

これにより、国くには「開門かいもんしなければならない」という義務ぎむと「開門かいもんしてはならない」という義務ぎむの相反そうはんする２ふたつの義務ぎむを負おうことになりました。

開門かいもんを求もとめる漁業ぎょぎょう者しゃと、開門かいもんに反対はんたいする農業のうぎょう者しゃのそれぞれが、いずれも国くに相手あいてに勝訴しょうそしたためです。

国くには、相反そうはんする義務ぎむを負おったことで、３さん年ねん以内いないに義務ぎむづけられていた開門かいもんを先送さきおくりにします。

開門かいもんしてもしなくても、どちらかの義務ぎむに違反いはんして制裁せいさい金きんが課かせられる状況じょうきょうになり、国くには開門かいもんの義務ぎむに従したがわず、制裁せいさい金きんを支払しはらいました。

こうした状況じょうきょうを打開だかいするため、国くにが開門かいもんを命めいじられた平成へいせい22年ねんの確定かくてい判決はんけつを事実じじつ上じょう、無効むこうにするよう求もとめたのが今回こんかいの裁判さいばんです。

そのうえで国くには平成へいせい29年ねん、開門かいもんしない方針ほうしんを明確めいかくにしました。

国くには開門かいもんしないことを前提ぜんていに、漁場ぎょじょうの回復かいふくを目指めざす100億おく円えん規模きぼの基金ききん案あんを示しめしましたが、和解わかい協議きょうぎは決裂けつれつしました。

去年きょねん７月しちがつ、福岡ふくおか高裁こうさいは「漁業ぎょぎょう者しゃが開門かいもんを求もとめる前提ぜんていとなる漁業ぎょぎょう権けんはすでに消滅しょうめつしている」として、確定かくてい判決はんけつを事実じじつ上じょう、無効むこうにする判決はんけつを出だし、漁業ぎょぎょう者しゃ側がわが上告じょうこくしています。

今回こんかいの判決はんけつ 注目ちゅうもくは…

今回こんかいの判決はんけつでは、開門かいもんの是非ぜひをめぐる争あらそいが長引ながびく中なか、最高裁さいこうさいが司法しほうとしての統一とういつ的てきな判断はんだんを示しめすのかや、どこまで踏み込ふみこんだ意見いけんを述のべるのかが注目ちゅうもくされます。

まず、最高裁さいこうさいが漁業ぎょぎょう者しゃ側がわの上告じょうこくを退しりぞけ、国くにが勝訴しょうそした場合ばあいです。

国くにが求もとめたとおり、開門かいもんを命めいじた確定かくてい判決はんけつが事実じじつ上じょう、無効むこうになります。一連いちれんの裁判さいばんで開門かいもんを命めいじた唯一ゆいいつの判決はんけつの効力こうりょくがなくなり、司法しほうの判断はんだんは開門かいもんを認みとめない判断はんだんで統一とういつされることになります。国くにには「開門かいもんしなければならない」という義務ぎむがなくなり、「開門かいもんしてはならない」という義務ぎむだけとなります。

一方いっぽう、最高裁さいこうさいが２に審しんを取り消とりけし、漁業ぎょぎょう者しゃ側がわが勝訴しょうそした場合ばあい、開門かいもんを命めいじた確定かくてい判決はんけつの効力こうりょくが残のこることになります。この場合ばあい、開門かいもんの是非ぜひについて相反そうはんする司法しほうの判断はんだんが存在そんざいする状況じょうきょうは変かわらないことになります。しかし、今回こんかいの判決はんけつを出だす最高裁さいこうさいの第だい２に小しょう法廷ほうていは、ことし６月ろくがつ、漁業ぎょぎょう者しゃが開門かいもんを求もとめた別べつの裁判さいばんで上告じょうこくを退しりぞける決定けっていをし、

開門かいもんを認みとめませんでした。

２に審しんの福岡ふくおか高等こうとう裁判所さいばんしょで審理しんりをやり直やりなおすよう命めいじる可能かのう性せいもあります。この場合ばあいも、開門かいもんの是非ぜひについて相反そうはんする司法しほうの判断はんだんが存在そんざいする状況じょうきょうは変かわりません。しかし、開門かいもんの是非ぜひについて最高裁さいこうさいがどこまで踏み込ふみこんだ意見いけんを述のべるのか、注目ちゅうもくされます。

専門せんもん家か「ねじれの原因げんいんは…」

民法みんぽうが専門せんもんで、一連いちれんの問題もんだいに詳くわしい横浜よこはま国立こくりつ大学だいがく大学院だいがくいんの宮澤みやざわ俊昭としあき教授きょうじゅは、裁判さいばんが混迷こんめいしている理由りゆうについて「裁判さいばんはそれぞれの権利けんりが侵害しんがいされているかどうかだけを判断はんだんする制度せいどだ。しかし、諫早はや湾わんの問題もんだいでは、それぞれの利益りえきや権利けんりを調整ちょうせいして、地域ちいきが合意ごういしたうえで先さきに進すすむことが求もとめられている。裁判所さいばんしょは地域ちいきをどうしたらいいのかという点てんに踏み込ふみこんで判断はんだんすることができず、ここにねじれの原因げんいんの１ひとつがあると思おもう」と話はなしています。

また最高裁さいこうさいの判決はんけつについて「いずれの判決はんけつが出でたとしても、結局けっきょく、政治せいじが動うごいて利害りがいを調整ちょうせいしないと、紛争ふんそうは残のこり続つづけることになる。こうした紛争ふんそう状態じょうたいを解決かいけつするのは政治せいじの役割やくわりで、最高さいこう裁判所さいばんしょにはこの点てんについて何なにかしら言及げんきゅうしてもらいたい」と話はなしています。