舞台裏ぶたいうらでいったい何なにが？ 五輪ごりん談合だんごう事件じけん 電通でんつう依存いぞんの果はてに

去年きょねん8月つきと10月つき、組織そしき委いの元もと理事りじが起訴きそされた一連いちれんの汚職おしょく事件じけんについて取材しゅざいした際さい、組織そしき委いが抱かかえていた構造こうぞう的てきな問題もんだいを指摘してきしていた。

▼森もり 泰夫やすお 元もと次長じちょう

「私わたしの感覚かんかくでは、電通でんつうと組織そしき委いは一体いったいではなく、立場たちばをわきまえて仕事しごとをしていた。ただ、全体ぜんたい的てきに組織そしき委いに多様たような専門せんもん人材じんざいがいないのは問題もんだいだと思おもう。局長きょくちょう級きゅうの大半たいはんは国くにや都との出向しゅっこう組ぐみだし、その下したも企業きぎょうからの出向しゅっこう組ぐみだった。ロンドン大会たいかいでも、次つぎのパリ大会たいかいでも、海外かいがいではメガイベントの専門せんもん家かと契約けいやくして知恵ちえを借かりるものだ」

電通でんつうとの関係かんけいのあり方ありかたについては、こう話はなしていた。

▼森もり 泰夫やすお 元もと次長じちょう

「大切たいせつなのは、スポーツイベントの主催しゅさい側がわが独立どくりつして、電通でんつう以上いじょうにスポーツビジネスを学まなぶことだ。電通でんつう丸まる投なげだと、いろんなブラックボックスができてしまう。『それじゃだめですよ、電通でんつうさん』と言いえるくらい、我々われわれスポーツに携たずさわる者ものもスポーツビジネスを知しらないといけない」

翌月よくげつの11月つき、森元もりもと次長じちょうの自宅じたくに特捜とくそう部ぶの捜索そうさくが入はいった。

そのほうが短たん期間きかんで確実かくじつに事業じぎょう者しゃを確保かくほできると思おもったからだ。

ところがこの頃ころ、森元もりもと次長じちょうの希望きぼうに反はんして、組織そしき委いの内部ないぶで事実じじつ上じょう競争きょうそう入札にゅうさつが行おこなわれる方針ほうしんが決きまっていた。

公費こうひが投入とうにゅうされている以上いじょう「スムーズだから」という理由りゆうでは随意ずいい契約けいやくは認みとめられなかったのだ。

「マイナーな競技きょうぎでは企業きぎょうから手てが挙あがらないかもしれない。入札にゅうさつが流ながれて間に合まにあわなくなる」

森元もりもと次長じちょうは入札にゅうさつ不調ふちょうのおそれを周囲しゅういに漏もらしていた。

2月つき以降いこう、森元もりもと次長じちょうはみずから動うごき、受注じゅちゅうを見込みこんでいた各かく企業きぎょうの担当たんとう者しゃと面談めんだん。

意向いこうを確認かくにんして回まわった。

内容ないようを電通でんつうからの出向しゅっこう者しゃに伝つたえ、一覧いちらん表ひょうは更新こうしんされた。

入札にゅうさつ参加さんかの意向いこうを反映はんえいさせるうち、「一覧いちらん表ひょう」は受注じゅちゅう予定よてい企業きぎょうを決きめる事実じじつ上じょうの「割り付わりつけ表ひょう」になっていった。

大会たいかいの成功せいこうを求もとめるあまり、公正こうせいさがゆがめられ一いち線せんを越こえてしまったとみられている。

森元もりもと次長じちょうの当時とうじの上司じょうしが、一覧いちらん表ひょうを見みて「電通でんつうが多おおすぎる」と指摘してきした。

また、発注はっちゅう方法ほうほうを提案ていあんし、運営うんえい上じょうの効率こうりつ面めんから“競技きょうぎごと”ではなく“競技きょうぎ会場かいじょうごと”の入札にゅうさつに決きまった。

これをうけて、電通でんつうが他社たしゃと相談そうだんし、下請したうけに回まわるなどして、電通でんつうの記載きさいが表向おもてむき減へっていった。

森元もりもと次長じちょうが企業きぎょう担当たんとう者しゃを引き合ひきあわせるなどして、元請もとうけと下請したうけに振り分ふりわける形かたちで企業きぎょう間かんの話し合はなしあいが進すすめられた。

受注じゅちゅう調整ちょうせいは加速かそくし、この月つき、表ひょうが頻繁ひんぱんに更新こうしんされた。

さらに、電通でんつうの関与かんよは受注じゅちゅうする企業きぎょうの選定せんていだけにとどまらなかった。

入札にゅうさつの選考せんこうでは国際こくさい大会たいかいなどの運営うんえい実績じっせきを重視じゅうしするよう伝つたえたり、入札にゅうさつの際さいに業務ぎょうむの詳細しょうさいや条件じょうけんなどを業者ぎょうしゃ側がわに示しめす「仕様しよう書しょ」についても組織そしき委いに助言じょげんしたりして、組織そしき委いと一体いったいとなって入札にゅうさつ業務ぎょうむを取り仕切とりしきっていた。

その後そのご、テスト大会たいかいに関連かんれんする入札にゅうさつは26件けん行おこなわれ、大半たいはんが1社しゃのみの応札おうさつ。

ほぼ一覧いちらん表ひょうのとおりに企業きぎょうが落札らくさつした。

公金こうきんを使つかう上うえでの透明とうめい性せいや、より低てい価格かかくで契約けいやくを結むすぶことで税金ぜいきんの支出ししゅつを抑おさえられることなどから、国くにや地方ちほう自治体じちたいの調達ちょうたつは法律ほうりつで原則げんそく、一般いっぱん競争きょうそう入札にゅうさつとされている。

独占どくせん禁止きんし法ほうは競争きょうそうを促うながすことで企業きぎょうを成長せいちょうさせ、その結果けっか、消費しょうひ者しゃの利益りえきを確保かくほするという観点かんてんから談合だんごうを禁きんじている。

東京とうきょうオリンピック・パラリンピックの開催かいさい経費けいひは1兆ちょう4200億おく円えん余あまり。

半分はんぶん以上いじょうの7800億おく円えんは都とや国くにが負担ふたんし、公共こうきょう性せい・公益こうえき性せいの高たかいイベントだ。

しかし、広告こうこく会社かいしゃやイベント制作せいさく会社かいしゃの関係かんけい者しゃからは「企業きぎょうごとに運営うんえいが得意とくいな競技きょうぎがあり、そもそも競争きょうそう入札にゅうさつはなじまない」という声こえや、1度どに多おおくの競技きょうぎが行おこなわれるオリ・パラという特殊とくしゅ性せいから「電通でんつうだけでは担になえないから、各社かくしゃで振り分ふりわけなければならなかった」という声こえが聞きかれた。

発注はっちゅう側がわと受注じゅちゅう側がわがもたれ合あう形かたちですすめられた今回こんかいの談合だんごう事件じけんについて、専門せんもん家かは「あるべき距離きょりが保たもたれなかった」と指摘してきする。

一覧いちらん表ひょうを見みた森元もりもと次長じちょうの当時とうじの上司じょうしも「官かん」からの出向しゅっこう者しゃだった。

NHKの取材しゅざいに「表ひょうは運営うんえい実績じっせきのある企業きぎょうをまとめたものだと思おもった。なぜ受注じゅちゅう調整ちょうせいまでやったのかはわからない」と話はなした。

どうすれば今回こんかいの事件じけんを防ふせげたのか問とうと「電通でんつうの人ひとが入はいりこんでいたから　こんなことになってしまった。でも、電通でんつうの人ひとがいないとノウハウがないから。組織そしき委いはリスクを抱かかえていた」と答こたえた。

こうした幹部かんぶの発言はつげんに対にたいして、元もと職員しょくいんは冷さめた分析ぶんせきをしている。

▼組織そしき委い元もと職員しょくいん

「東京とうきょう都とや省庁しょうちょうからどんなに偉えらい人ひとを組織そしき委いに集あつめても、スポーツイベントの専門せんもん知識ちしきはない。上うえは『どうなっているんだ。ちゃんとやれ』と言いうが、何なにもわからないから助言じょげんを求もとめても『現場げんばで考かんがえろ』としか言いわない。現場げんばには不安ふあん感かんがあって、そこに大変たいへん頼たよりがいのある相談そうだん相手あいてとしての電通でんつうがいた。当然とうぜん電通でんつうも相談そうだんに乗のれば自分じぶんたちのビジネスになることはわかっていた。組織そしきの設計せっけいから間違まちがっていた」

組織そしき委いには業務ぎょうむが適切てきせつかを監視かんしし内部ないぶ監査かんさを行おこなう「監査かんさ室しつ」が設もうけられていたが、清算せいさん法人ほうじんによると、主おもな業務ぎょうむは書類しょるいの形式けいしき的てきなチェックにとどまっていたという。

「大会たいかい成功せいこう」に向むけて電通でんつうに過度かどに頼たよった組織そしき委いは、入札にゅうさつの形骸けいがい化かを許ゆるし、不正ふせいを見抜みぬくことができなかった。

一連いちれんの贈収賄ぞうしゅうわい事件じけんに続つづき、談合だんごう事件じけんで元もと幹部かんぶが起訴きそされ、閉幕へいまく後ご、異例いれいの事態じたいが続つづいている東京とうきょう大会たいかい。

国民こくみんの期待きたいと信頼しんらいに応こたえられた大会たいかいだったと言いえるのか、大おおきな疑問ぎもんが残のこる結果けっかとなってしまった。

また、電通でんつうなどは事件じけんを受うけ、中央ちゅうおう省庁しょうちょうや全国ぜんこくの自治体じちたいから入札にゅうさつの指名しめい停止ていし措置そちを受うけ、大おおきな代償だいしょうを払はらうことになった。

電通でんつうグループは「この事態じたいを重大じゅうだいかつ厳粛げんしゅくに受け止うけとめております。関係かんけい先さきの皆様みなさまにご迷惑めいわく、ご心配しんぱいをおかけしておりますことを深ふかくお詫おわび申し上もうしあげます」などとコメント。

外部がいぶの有識ゆうしき者しゃで構成こうせいされる調査ちょうさ検証けんしょう委員いいん会かいを設置せっちしたほか、電通でんつうの榑谷たに典のり洋よう社長しゃちょうが月額げつがく報酬ほうしゅうの30％を6か月かげつ返上へんじょうするなどグループや電通でんつうの役員やくいんら5人にんに報酬ほうしゅうの一部いちぶの返上へんじょうを求もとめるなどしていることを明あきらかにした。

指名しめい停止ていしはことし5月つきの「G7広島ひろしまサミット」など今後こんごの大だい規模きぼなイベント運営うんえいにも影かげを落おとしている。

今回こんかいの事件じけんの十分じゅうぶんな検証けんしょうなしには実効じっこう性せいのある再発さいはつ防止ぼうし策さくは生うまれない。

日本にっぽんで再ふたたび大だい規模きぼなスポーツイベントが開催かいさいできるのか、再発さいはつ防止ぼうしに向むけての取り組とりくみが求もとめられている。

談合だんごうやカルテルを結むすんだ企業きぎょうなどに対にたいして自主じしゅ申告しんこくを促うながそうと、2006年ねんから導入どうにゅうされた。公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいの調査ちょうさが始はじまる前まえに最初さいしょに不正ふせいを自主じしゅ申告しんこくした企業きぎょうは、課徴かちょう金きんが100％免除めんじょされ、刑事けいじ告発こくはつも見送みおくられる。2番目ばんめ以降いこうに申告しんこくした企業きぎょうも調査ちょうさへの協力きょうりょく度合どあいなどによって課徴かちょう金きんが減額げんがくされる。

去年きょねん3月つき末まつまでに1395件けんの申請しんせいがある。