ホテルに集まったのは妊婦と赤ちゃんを連れた家族連れ9組です。
今回は「ためらわない避難」につなげるための1泊2日の訓練です。
他にどんなものを持ってきたのか、見せてもらうと…
「100円ショップで買った圧縮袋にオムツを6枚入れてきました。こうするとかさが半分くらいになるんです。あとは、オムツを捨てる『におわない袋』や着替えにガーゼ。それに常温でも飲める液体ミルクです。災害時のストレスで母乳が出なくなることも想定して試そうと思ってます」 参加者それぞれが客室に泊まった訓練。 一夜明けてから戸祭さんに感想を聞いてみました。 戸祭さん夫婦 「液体ミルクはふだん飲んでいないので飲んでくれず、結局母乳を与えました。家と環境が違うので興奮してなかなか寝つかなかったですね。ただ、同じ幼い子ども連れが集まるので、子どもが泣いても気を遣わずにすみました。こういう場所なら安心して避難できると思います」
災害対策基本法では、高齢者や障害者と並んで、特別な配慮が必要だとされています。 こうした人たちを受け入れる支援態勢や環境が整った避難所(=「福祉避難所」)は、阪神・淡路大震災をきっかけに必要性が叫ばれるようになり、全国におよそ2万5000か所あります。(2021年12月1日時点) ただ、その多くは、高齢者施設や障害者施設を利用したものです。 妊婦や赤ちゃんがいる家族専用の避難所がいくつあるのかは、国も把握できていません。 内閣府の防災担当者は「高齢者や障害者に比べて、受け入れる避難所は足りていない」と話しています。 法律で定められているのに、対応が間に合っていないというのが取材した印象でした。
震度7の揺れが2度襲った熊本県益城町に住む山本優美さんです。 当時、ふたりの娘は2歳と生後1か月。 山本さんの一家4人は、近所の人たちと一緒におよそ1週間、自宅近くにとめた車の中で避難生活を送りました。
畑に穴を掘って作った仮設トイレにも長女はひとりで行けず、仕方なく、すでに卒業していたオムツをはかせたと振り返りました。 山本さん 「もし避難所の体育館に行っても、生まれて1か月の次女をみんなが歩き回る床に置きたくないし、授乳をしていたので周りの目も気になったと思います。災害時は、子どもは何もすることがありません。でも、避難所などでは、親から『静かにしなさい』と怒られがちだと思います。おもちゃがあるなど子どもが安心できる場所、同じような子どもを連れた母親が集まる場所があるといいなと思います」
JR長岡駅から徒歩15分ほどの場所にある「子育ての駅 ぐんぐん」は、絵本やおもちゃが充実し、育児の相談もできるよう保育士が常駐しています。
もともとは雪が多く積もる冬でも子どもが遊べる場所を作ろうと市が整備した施設です。 災害時には市内に13か所ある「子育ての駅」を、妊婦や0歳児のいる家庭の避難所として利用することにしています。 備蓄を担当者に見せてもらうと…
担当者が「かゆいところにも手が届く」と表現する豊富さで、市の女性職員やママたちの意見を参考にそろえたということです。 さらに市では、災害時に母親や子どもの心のケアを行う市民ボランティアも養成していて、これまでにおよそ70人が登録しています。 「子育ての駅」を避難所として利用することを決めたのは今から6年前。 その前の年に熊本地震の応援に派遣された職員が、幼い子どもを抱えた家族が一般の避難所で苦労している様子や、子連れ専用の避難所を設置しても親子にとってなじみのない場所だったため、あまり利用されていない実態を見たことがきっかけでした。 長岡市子ども・子育て課 深澤寿幸課長 「長岡市は2004年に中越地震を経験しています。私も避難所を見回りましたが、当時、幼い子ども連れを見た記憶がありません。いま振り返ると避難所に来づらかったのかもしれません。ふだんよく行く場所だと避難するハードルは間違いなく下がると思います。幼い子どもがいる家族に限らず、いざというときに誰も取り残されないよう、環境作りを進めていきたい」
取材した私も1歳の子どもがいますが、こうした取り組みが広がって、安心して避難できる場所がもっと増えてほしいと思いました。 ただ、私たち自身がふだんから災害に備えておくことも大事です。 専門家にどんな備えをしておくべきか聞きました。
▽近所へのあいさつ 災害時もっとも素早く動いて助けてくれる可能性があるのは隣近所です。「赤ちゃんがいます」「いま妊娠何か月なんです」と周りの人に知ってもらう、あいさつから始めましょう。それだけで近所の人は、「配慮が必要な人がいるんだ」と認識できます。 ▽まずは「玄関まで避難」 いきなり避難と言われても腰が重くてなかなかできません。まずは必要な荷物を持って子どもと一緒に玄関まで避難してみましょう。ほかにも、避難場所まで行くつもりで公園まで散歩してみる。ふだんから“避難の素振り”をしておくと大きな効果があります。
▽ふだん使うものをちょっと多めに買っておく こちらは4歳と10か月の子どもがいる4人家族の備蓄品です。
▽分散して備蓄 備蓄品を家の1か所に置いておくと、災害時に部屋が壊れたりして取り出せなくなるおそれもあります。車のトランクにも備えを置いておくなど“分散備蓄”が重要です。 皆さんも、できることから試してみてください。
配慮が必要なのに…
2人の娘と1週間車中泊した人も
“ふだんの場所”を避難所に
ふだんからの備え どうすればいいの?
“近所へのあいさつ”と“玄関まで避難”
“多めの買い物”と“分散備蓄”
ママが子どもと避難したら大変だった話
真っ先に頭に浮かぶのが「避難所」だと思います。
「子どもが泣いたり騒いだりしたらどうしよう」
「母乳で育てているけれど、授乳室ってあるのだろうか」
でも大丈夫です。
親も子もためらわずに安心して避難できる。
そんな避難所づくりがようやく始まっています。
(NHK大阪放送局 記者 宗像玄徳)
※記事の最後に今からできる備えを紹介しています
避難はホテルへ