大会組織委員会によりますと、およそ200の国と地域から2000社ほどが来日し、メディア関係者の人数は先月21日の時点で1万6000人余りに上る見通しとなっています。
また、国内外のメディア関係者の70%から80%が大会までにワクチンの接種を受ける見通しだということです。
メディア関係者には、新型コロナの感染防止に必要なルールをまとめた「プレーブック」に基づく行動が求められ、原則として入国後14日間は公共交通機関を使えず、競技会場やあらかじめ提出した用務先にしか行けないことなどが決まっています。
一方、こうした行動制限については、アメリカのおよそ10のメディアが、「取材が制約される」として組織委員会などに連名で抗議の書簡を送るなど、一部で反発も起きています。
これに対し組織委員会は「現下の情勢に鑑みれば非常に厳しい措置が必要で、すべての参加者と日本居住者のために重要なことと考えている。取材の自由は尊重し、可能なかぎり円滑に取材が行えるようにする」とコメントしていて、取材活動と徹底した感染対策を両立できるかが課題となっています。
このうち、メディア関係者に向けたものは70ページ近くにわたり、日本入国後の検査や隔離、感染対策、それに取材方法など、さまざまな場面でのルールが定められています。 具体的には、 ▽日本に出国する前の96時間以内に2回の検査を行うことや、 ▽入国後14日間は公共交通機関を使えず、競技会場やあらかじめ提出した用務先にしか行けないこと、 ▽日本の滞在期間中はスマートフォンのGPS機能を活用して行動が把握されることになっています。 そのうえで、メディア関係者の役割ごとに検査の頻度が詳細に示されていて、選手と距離の近い、競技エリアで活動するカメラマンには毎日、検査が求められます。 また、選手などと接する可能性のあるメディア関係者は4日に1回、接する機会のない人でも7日に1回の検査が必要とされています。 ルールに違反した場合には、参加資格の剥奪や国外退去の強制措置に加え、制裁金を科されることがあると明記されています。
フランスのAFP通信は今大会、日本で取材活動に当たるスタッフ150人余りのうち、競技ではなく街なかを取材するおよそ20人の「先遣隊」を先月、編成しました。 「プレーブック」の運用が始まる7月以降に来日した場合、入国後14日間の活動計画書の提出が義務づけられ、その間の行動範囲は宿泊先と競技会場などに限定されてしまい、街なかを取材する時間が少なくなってしまうためです。 取材班を統括するヴァンサン・アマルヴィさんは、「先遣隊」を編成したねらいについて「日本の人たちがオリンピックをどのように受け止めているかを取材するためだ」と説明しています。 「先遣隊」の1人、ビデオプロデューサーのサラ・ライさんは先月中旬、香港から来日しました。来日前に新型コロナワクチンを2回接種し、日本の宿泊施設で14日間の隔離を終えたため、今月からは街中で自由に取材することができます。 今月中旬には、オリンピックに向けた準備風景を取材するため、地下鉄に乗って東京都庁を訪れ、周辺に張られたポスターなどを撮影しました。取材ではマスクを常に着用しているほか、持ち歩いている消毒液で手をこまめに消毒していると言います。 また、組織委員会が提供するスマートフォンのアプリに体温や体調を毎日入力しているほか、食事は混み合う昼どきはテイクアウトにするなど、感染対策に細心の注意を払っているということです。 ライさんは「ふだんとは違うオリンピックなので、ニュースもふだんと同じようなものは出せません。特別な話題を見つけるのは、私たちにとって挑戦です」と話していました。 AFP通信は、街なかを取材する「先遣隊」と、競技を取材するほかのメンバーが交わらないよう別行動を徹底しているということで「感染対策については万全の態勢で臨んでいるので、日本の人たちにとってのリスクはゼロに近い」と強調しています。
感染対策のため、スタッフの座席の間隔を空け、向かい合って座らないようにしているほか、それぞれが「プレーブック」で求められている定期的なウイルス検査を行ったかどうか確認するチェックシートを壁に張り出すなどしています。 また、感染リスクを減らすため、日本に派遣するスタッフの数を当初予定していた120人から3分の1の40人に減らし、撮影した映像の編集は日本ではなくオーストラリアにいるスタッフが行うことにしています。 行動範囲が制限される中、これまで10大会のオリンピックを取材してきたというリポーターのクリス・リーズンさんは、電話やインターネットで取材した情報を元に、東京の感染者数やオーストラリア代表の予定などについて、IBCの前からリポートを収録していました。 クリスさんは「今大会のような経験は初めてだ。競技の取材以外に、日本が新型コロナという試練にどのように対応し、立ち向かうのか注目している」と話していました。
オーストラリアのテレビ局、セブン・ネットワークのリポーターは、東京からの報告として、都内の新型コロナウイルスの感染者数が一日1000人を超えたほか、ロシアオリンピック委員会の7人制ラグビーのチームスタッフが感染し、ほかのメンバーがホテルで隔離されていることなどを紹介していました。 また、フランスの通信社の取材統括責任者は「多くの会場が無観客となる今大会の取材は、これまでとは全く違う新しい経験で興味深い。開幕までの準備がどのように進むのか、そして日本の人たちがオリンピックをどのように受け止めているのかなどを伝えていきたい」と話していました。 一方、オーストラリアのテレビ局、ナイン・ネットワークの記者は「すべての競技がスムーズに行われてほしい。世界にとってとても難しい1年間だったが、オリンピックは人々をまとめることができると思う。開幕がとても楽しみだ」と話していました。
そのうえで、コロナ禍で開かれる今大会について「行動基準が定められている時点で、多くのジャーナリストがストレスを抱えているというのは、想像に難くない。日本がどういう風にオリンピックを運営していくのか、街はどういった様子なのかを報道するのは海外メディアにとって必要なことなので、そこであつれきが起きるのは想像がつく」と述べました。 そうした中、海外メディアの役割について「海外から来た観客がSNSに投稿するということがないので、実はメディアの視点が日本の印象、東京の印象に大きな影響を及ぼすことは間違いない。海外の人がどう見ているのかということが東京にとってプラスになったりするので、あまり白い目で見ることなく、フラットな気持ちで迎えたい」と、その重要性を指摘しました。 そして「これまで幾度となく取材してきたジャーナリストであっても、こういった不自由な環境下での取材は初めてで、前回までのスタンダードを盾にいろいろ交渉をしてくると思う。知恵を集合させていくことが、オリンピック・パラリンピックの競技運営の財産になり、ひいては将来的に国際大会の運営のアイデアにつながっていくと思う」と述べ、メディアの取材と感染対策の両立を模索することはスポーツイベントの新たな形を生み出すきっかけになり得るという認識を示しました。
メディア向けプレーブックとは
「先遣隊」が街なかを取材 感染対策には細心の注意
豪州のテレビ局 派遣は予定の3分の1に 編集は自国スタッフが
来日した海外メディアからはさまざまな声
専門家「メディアの視点が日本の印象に大きな影響 フラットに」