第163回芥川賞と直木賞の選考会は、15日午後、東京で開かれました。
芥川賞の受賞が決まった高山羽根子さんは、富山市生まれの45歳。多摩美術大学を卒業後、会社勤めのかたわら30代半ばから本格的に小説を書き始め、10年前に(2010年)短編小説「うどん キツネつきの」が創元SF短編賞の佳作に選ばれてデビューしました。
芥川賞は、3回目の候補での受賞となりました。
受賞作の「首里の馬」は、沖縄の小さな資料館に中学生のころから出入りする女性が主人公です。沖縄の歴史や民俗と向き合おうとする女性の心情を、謎めいたコールセンターでの仕事で知り合った遠くにいる孤独な人たちとのやり取りや、台風の夜に迷い込んだ在来種の馬との出会いなど、印象的なエピソードを交えて描いています。
芥川賞の受賞が決まった高山さんはNHKの取材に対し、「びっくりしています」と今の率直な気持ちをひと言で表現しました。
高山さんは、東京都内で担当編集者とともに受賞の連絡を待っていたということで、「候補に選ばれて、ここまできたら頑張りようがないので落ち着かないところもありましたけど、受賞が決まってホッとしています」と喜びを語っていました。
そのうえで、「今は本当に大変な時期だと思うんです。本を読むのは体力がいりますが、少しでも時間があって本を読みたいなという気持ちになった時には、無理のない範囲で読んでもらえるとうれしいです」と話していました。
同じく芥川賞に選ばれた遠野遥さんは、神奈川県出身で東京在住の28歳。慶應義塾大学を卒業後、去年、「改良」で文藝賞を受賞してデビューし、現代人の孤独を冷徹な文体で描いた作風が高く評価されています。
今回、芥川賞は初めての候補での受賞となりました。
受賞作の「破局」は、母校のラグビー部の指導をしながら公務員試験の勉強をする、大学4年の男子学生が主人公です。常に善良であることを心がけ、自分が正しいと考える規範で他人を裁く一方、自身の欲求には忠実な主人公の内面のいびつさが、女性との交際をきっかけにあらわになり、“破局”へと向かっていくさまを、冷たく淡々とした筆致で描いています。
一方、直木賞は馳星周さんの「少年と犬」が選ばれました。
馳さんは北海道出身の55歳で、出版社に勤務したあとフリーのライターなどを経て作家になり、平成8年のデビュー作「不夜城」をはじめ、悪事や犯罪に手を染める人間たちのだましあいや裏切りをテーマとした作品を中心に、数々の話題作を発表してきました。
直木賞は今回が7度目の候補で、「不夜城」で最初に候補になってから23年を経て受賞を果たしました。
受賞作の「少年と犬」は、東日本大震災で飼い主を失った同じ犬が登場する6つの作品からなる連作短編集です。この犬を連れ帰った人たちの人生や、ことばが通じない中での人と犬との交流が丁寧に描かれ、最後に収録された表題作で、この犬の行動の謎が明らかにされます。
現在2頭の犬と暮らす馳さんは選考会を前に行われた取材会で、「私にとって犬はかけがえのない家族であり、無償の愛を与えてくれる存在です。作品を通じて人の愚かさと犬の純粋さを対比して描きつつ、人間と犬との魂のつながりを描きたかった」と話していました。