大阪で聞いてみました。
「寒いけど食べちゃう。夏に熱いラーメン食べるのと一緒」(20代女性)
「暖かい部屋にいると冬でも食べたくなっちゃう。風呂上がりとか」(40代男性)
「がんばった自分へのごほうび」(20代女性)
大手メーカーが2016年に行った調査でも、98%の人が“冬でもアイスを食べる”と答えているということです。 今回、取材を行ったのは2月。大阪市内のスーパーマーケットに行ってみると、豊富な商品が並んでいました。
冬の売り上げは夏と比べて4対6にまで迫っています。 物価高の中でアイスの値上げも相次いでいますが、この冬も各月の売り上げは前年比10%以上伸びているということです。 ライフコーポレーション チーフバイヤー 野見山峻充さん 「伸び率は夏よりも冬の方が大きいです。冬は、家族で食べる箱物や単価の高いプレミアム系がとくに伸びています」
私たちが訪ねたのは「日本アイスマニア協会」の代表理事、アイスマン福留さん。
実は、冬アイスには長い歴史があると言います。 アイスマン福留さん 「冬のアイス市場を盛り上げようというメーカーの動きは1950年代からありました。クリスマスケーキの需要にあわせてアイスクリームのケーキを販売していました。ほかにもこたつに入ってアイスを食べるテレビCMがあったり、様々な取り組みによって需要が開拓されてきました」 そのうえで、流行が本格化したのは7、8年前だと指摘します。 総務省の家計調査でも、2011年から2021年までの10年間で冬場のアイスの支出額は1.5倍に増えました。 アイスマン福留さんは、背景の一つとしてSNSがあると言います。
そして“熱く”語ったのは、冬アイスの味。 「冬アイスは夏のアイス以上に、各メーカーが味わいにこだわっています。だからアイスマニアにとっては冬こそ旬なんです!」
各社が冬に力を入れているのは、単価の高い贅沢な味わいの商品。 さっぱり感が強い夏のアイスに対し、“濃厚さ”や“なめらかさ”を重視して差別化をはかっているといいます。 同じ商品でも冬は牛乳の成分を増やしているため、乳成分量による種類が「氷菓」から「アイスクリーム」に変わるものもあります。
「年間を通じて販売している商品も冬場だけは特別仕様にしています。乳成分量を増やして“濃厚”にしたり、製造過程で空気の量を調整して“なめらか”なものにしたりしています」 さらに、冬アイスは安定した売り上げが期待できると言います。 暖かい室内で食べられることもあって、夏と異なり天候の影響を受けにくいのです。 各社がしのぎを削って開発に力を入れています。
「『冬にアイスを食べてもらいたい』という思いで、弊社も含め各メーカーがいろんな挑戦をしてきました。お客様に驚きや感動を感じてもらえる商品が、各メーカーの努力によって出てきているのではないかと思っています」
日本の住まい環境の変化です。 以前よりも暖かい家に住むようになったから、アイスを求める人が増えたというのです。 冬の住宅で人間が感じる気温「体感温度」のデータがあります。
時代とともに建物の機密性が高まり、断熱材も発達したためです。 さらに、暖房器具の変化も。 水蒸気を発するストーブは少なくなり、室内が乾燥しやすいエアコンが普及しました。 2010年以降、日本のエアコン普及率は90%を超えました。 ちょうど冬アイスの人気が本格化し始める時期です。 暖かくて乾燥している冬の住宅。 まさにアイスが欲しくなる環境になっていたのです。
食行動に関する脳のしくみに詳しい山本隆教授です。
「寒い外に出ると体温を上げようとしてエネルギーが不足気味になります。その上で、帰宅して暖かい乾燥した部屋にいると、喉が渇いて冷たいものが欲しくなります。エネルギー源になる脂肪と糖を摂取できて冷たいもの。すべてをあわせ持つのが“濃厚なアイスクリーム”です」 人体が欲する冬アイス。 体だけでなく心にも良い影響があると言います。 冷たくて甘い物を食べると、脳内では快楽物質の「βエンドルフィン」が出てきます。 この物質が出てくると人は幸福感を得られるのです。 本当なのか実験してみました。
記者の額にセンサーをつけて、血流量を測ります。 血流を安定させるため、無表情を貫きながら、アイスを一口。 暖かい室内で、のども乾いていました。
食べた直後、確かに血流が低下しました。 自分へのご褒美として食べる人がいるのも納得です。
ストレスの大きいコロナ禍が、冬アイス人気に拍車をかけたと言います。 今とくに売れているのは、家族や友人とシェアできる小分けパックのアイスだということです。 大切な人と分け合える、ちょっとした幸せ。 ストレス社会を生きる私たちにとって、冬アイスは欠かせないものになっているのかもしれません。
“日本一のアイス好き”に聞いてみた
メーカーの戦略は…濃厚&なめらか
住まいの環境が変わった
人体は冬アイスを欲する?
ストレス社会を生き抜くために