
その佐々木投手にとって、WBCに向けた試金石となったのが、去年11月に行われた日本代表の強化試合でした。
その理由の1つがボールにありました。 この試合で使用したのは、WBCの公式球。 この公式球で変化球を投げる際の『指のかかり方』に扱い慣れているプロ野球のボールとの違いがあることが気がかりでした。
「縫い目が広い分、ボールが大きく感じて、変化球の変化の仕方や軌道が変わると思いました。指がかかりづらく、回転数が減ったり指が抜けたりしやすいです」
ここから、佐々木投手のWBCに向けた準備の日々が始まりました。
そして、その徹底した姿勢は、2月のキャンプイン後も続きます。
ロッテからWBCに参加する選手は佐々木投手のみのため、キャッチボールの相手は常にブルペンキャッチャーが務めました。 投手陣のノックでも、佐々木投手が「お願い」して、自分の順番がくるたびにボールを変えてもらいました。 さらに、練習の移動中やストレッチをしている時でさえもその右手にはWBCの公式球が握られていたのです。
(佐々木朗希投手) 「僕、(ボールを)持ってました?無意識です」
4日目には中1日でブルペンに入り63球。 2日明けて7日目には、40球を投げ込みました。 「とにかく数を投げる」という意識の中で、常にチェックしていたのが変化球でした。
すでに、このころにはWBCの公式球に対して確かな手応えを感じ始めているようでした。
「去年の強化試合のときより変化球を操れているという感覚があります。いまは違和感なく投げられていますし、変化球は合格点くらいまで来ていると思います」
この試合に、先発した佐々木投手は完璧なピッチングを見せます。 「右バッターにはスライダー、左バッターにはフォーク」を軸に投球を組み立て、初回を3者連続三振とします。 さらに、2回の先頭バッターは最年少三冠王の村上宗隆選手との対戦でした。
球速はこの日、最速の160キロをマークしました。 (佐々木朗希投手) 「初めての実戦にしてはまとまりをもって投げられました。去年のこの時期よりボールも荒れていないし、変化球でしっかり空振りをとれたのはよかったと思います。いい準備ができています」
それが、新たなスライダーの習得です。 この練習試合で空振りを奪っていた変化球のうちスライダーは昨シーズンまで投げていたスライダーに比べて、縦方向に鋭く曲がるボールでした。 佐々木投手は、公式球に慣れるための対策を進める中で、すでにさらなる高みを目指して歩みを進めていました。
「世界と対戦することで見られる違う景色もあると思うので、大会を利用してもう1つ大きくなってほしいと思ってます。世界でもナンバーワンになれる素質を持っていると思っています」
世界との戦いを通してその右手が新たにつかむもの何か。 期待は高まるばかりです。
「実戦で投げ続けることで自分のベストの投球に持って行きたいと思っています。世界のトッププレーヤーが集まる場所で、しっかり自分の力を発揮してチームの優勝に貢献したいです」
「ダルビッシュ有さんや大谷翔平さんと話したいです。オリックスの宮城大弥投手とどうやって話しかけようかと相談していて、彼は『プロテイン何味ですか?』から入ると言っていました。僕もなにか考えないと」 その笑顔は、憧れのスター選手を前にした野球少年そのものでした。
手になじむまで その手に
例年より早い調整 変化球に磨きをかける
合流前に最速160キロ!調整の成果が結果に
”世界一”をつかむために