
汚染水に含まれている放射性物質の大半はALPS(多核種除去設備)と呼ばれる専用の設備で除去されますが、取り除くことが難しい「トリチウム」など一部の放射性物質を含んでいる水を「処理水」と呼んできました。
処理水は6月29日現在でおよそ134万トンあり、敷地内に設置されている約1000基のタンクで保管されています。
タンクの容量は約137万トンで、今は保管できる容量の98%まで使っていて、東京電力は今のペースで汚染水が発生し続けると来年(2024年)の2月から6月ごろに満杯になるとしています。
※政府は放出方針決定後の2021年4月に、タンクの水を再び処理してトリチウム以外の放射性物質はすべて基準以下にした状態の水を「ALPS処理水」と呼ぶとしました。
水の一部として存在しているため、ろ過したり、吸着させたりして水から取り除くことが難しいのが特徴です。 トリチウムは通常の原子力施設でも発生し、日本を含む世界各地で現地の基準を満たすようにして、海や大気に放出されています。 自然界にも広く存在し、雨水や海水、それに水道水や私たちの体内にも微量のトリチウムが含まれています。 トリチウムはほとんどが水の状態になっていて、人や魚介類などの生物に取り込まれたとしても、水と一緒に比較的速やかに排出され、蓄積しないとされています。 ただ、生物の体内では一部のトリチウムがたんぱく質などの有機物と結合していて、この場合は、体の外への排出が遅くなることが知られています。 体への影響を考える上でのもうひとつのポイントが、トリチウムが出す放射線のエネルギーの弱さです。 空気中ではおよそ5ミリ、水中では最大でも0.006ミリしか進むことができません。 世界の放射線の専門家で作る「ICRP=国際放射線防護委員会」が公表している放射性物質の種類ごとの影響度合いの比較では、原発事故で主な汚染源となったセシウム137と比べて、水の一部となっている場合はおよそ700分の1、たんぱく質などと結合している場合はおよそ300分の1と低くなっています。※いずれも成人の場合
「トリチウムが体内に取り込まれてDNAを傷つけるメカニズムは確かにあるが、DNAには修復する機能があり紫外線やストレスでも壊れては修復しているのが日常。一番大事なことは濃度を低く保つことで、今回のように1リットルあたり1500ベクレルという低い基準よりもさらに薄まるのであれば、生物に対する影響は考えられず極めてリスクは低い」。
このため、放出する前にはトリチウム以外の放射性物質の濃度が国の基準を下回る濃度になるまで処理を続けます(二次処理)。 二次処理した水はタンクに入れてかき混ぜ、均質にした上で、基準を満たしているか実際に測定して確認します。 この作業には1回あたり2か月程度かかることから、作業は3つのタンク群に分けて行われ、連続して放出できるようにするとしています。 基準を満たしていることが確認できた水は、残るトリチウムの濃度が放出の条件としている国の規制基準の40分の1を下回るように、処理水の100倍以上の量の海水と混ぜ合わせて薄めます。 この水は、福島第一原発の岸壁付近に作られた「放水立て坑」と呼ばれる設備にためられ、一定の量を超えると海底トンネルに流れだし、沖合1キロ先にある放出口から海に放出されます。 東京電力は、大量の海水で薄めることで、確実に放出の条件とする濃度を下回るとしていますが、念のためしばらくは、立て坑にためた水に含まれるトリチウムの濃度をあらためて測定してから放出することにしています。
東京電力は処理水を海に放出した場合にどのように拡散するか、2019年の気象データを使ってシミュレーションし、最も影響を受けるケースとして原発周辺で漁業に携わる人が船の上で作業をしたり海産物を食べたりすることなどによってどの程度被ばくするか評価しました。
加えて、魚や藻類といった動植物への影響も評価しました。 指標としたのは「ICRP=国際放射線防護委員会」が示している「何らかの悪影響が生じる可能性がいくらかでもありそうと思われる値」で、処理水の放出による影響は、この値のおよそ300万分の1から100万分の1になったとしています。 これらの評価はトリチウムのほか、処理水に含まれる29種類の放射性物質による影響を足し合わせたものになっていて、結果として、トリチウム以外の影響の方が大きくなっているということです。 また、海水中のトリチウムの濃度が現在よりも高い1リットルあたり1ベクレル以上になる範囲は、原発周辺の2キロから3キロの範囲にとどまるということです。 ただ、その範囲内でもWHO=世界保健機関が示す飲料水の基準である、1リットルあたり1万ベクレルを超えることはなく、大きく下回るとしています。
このなかで東京電力は、放出設備などに異常が生じた場合、処理水の海への放出を即座に止める方針を示しています。 処理水が通る配管の2か所には「緊急遮断弁」と呼ばれる装置が設けられていて、海水の流量が少なくて十分に薄められない場合や異常な放射線が検出された場合には、自動的に水の流れが止まる仕組みになっています。 また、震度5弱以上の地震、津波注意報、高潮警報などが出された際には運転員が手動で放出を止めることにしていて、現在、緊急時を想定した訓練も行われています。 加えて、安全性の確認には処理水が放出されたあとに周辺の海で行うモニタリング、放射性物質の濃度の測定も重要です。
さらに放出開始直後は、国が行う測定の頻度を増やすなど集中的なモニタリングを行う方針です。 この中では通常の詳しい分析も行いますが、これには1回で2か月程度かかることから、検出できる濃度の下限の値を引き上げてより迅速に結果が出せる分析方法も新たに採用しています。 国や東京電力はこうしたモニタリングの結果をホームページで公開し、風評被害の抑制につなげたい考えです。
トリチウムって何?
処理水はどうやって海に放出する?
人や環境への影響は大丈夫?
安全性は確保できるの?