このところの日本の金融市場は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた各国政府の大規模な財政出動や中央銀行による資金供給に加え、アメリカ大統領選挙の結果を見極めたいという投資家も多く、株価・円相場ともに比較的堅調な値動きが続いています。
東京株式市場は、祝日前の2日、日経平均株価が終値で2営業日ぶりに2万3000円台を回復して取り引きを終えました。
アメリカ大統領選挙の開票を控え、市場では、トランプ大統領と民主党のバイデン氏のどちらが勝利しても、新型コロナウイルスの影響を受けるアメリカ経済を下支えするため積極的な財政出動を図ると見られ、株価にとってはプラスに働くという見方が出ています。
また、併せて行われる上院と下院の議員選挙の結果、それぞれで多数派が異なる「ねじれ」が解消されれば、アメリカ政治の安定につながるとの期待も出ています。
その一方で、市場関係者が懸念しているのがすぐには大統領が決まらないリスクです。
今回の大統領選挙では、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、郵便投票の大幅な増加などで開票作業が遅れる可能性も指摘されています。
さらにトランプ大統領は、この郵便投票について「不正が行われている」と繰り返し批判していて、開票をめぐる混乱に懸念を示す投資家も少なくありません。
仮に法廷闘争にもつれ込んだ場合、株安と円高が進む事態も想定されるという見方も出ています。
このため、市場関係者の間では勝敗の行方だけでなく、大統領選挙の結果がいつ判明するのかにも注目が集まっています。
日本経済への影響は
アメリカの大統領選挙の結果は、日本経済にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
日本のエコノミストの間では、トランプ大統領とバイデン氏のどちらが勝利しても当面は景気刺激策がとられる一方、中国との対立の激化などが懸念されるという見方が多くなっています。
具体的な政策でみますと、トランプ大統領は、1期目に法人税率の大幅な引き下げなど、歴史的な減税を実行しましたが、さらに追加の減税を行うとしています。
一方、バイデン氏は企業や富裕層に対する増税の必要性を訴える一方、環境分野を中心に大規模な財政出動を行うとしています。
両候補とも新型コロナウイルスの影響が続く現状では、積極的な財政出動を優先するものとみられ、金融政策では大規模な緩和策が続くとみられています。
アメリカの7月から9月までのGDP=国内総生産の伸び率は記録的な落ち込みになった前の期の反動もあって、年率換算でプラス33.1%と大幅に改善しました。
アメリカ経済の回復傾向を受けて、日本では、9月の貿易統計でアメリカ向けの輸出が1年2か月ぶりに前の年の同じ月を上回りました。
特に、自動車の需要が回復し、日本国内での自動車の生産も9月は大きく伸びました。
日本経済がより力強い回復軌道に乗るためには、第2位の貿易相手国であるアメリカの経済状況が極めて重要です。
一方で、懸念材料として挙げられるのが、アメリカと中国の対立の激化が世界経済に与える影響です。
トランプ大統領とバイデン氏のどちらが勝っても、中国への強硬姿勢は変わらないという見方が大勢です。
米中対立の激化で世界経済が停滞すれば、日本にも悪影響は避けられません。
また、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた巨額の経済対策で悪化したアメリカの財政問題も懸念材料です。
アメリカの9月までの1年間の会計年度では財政赤字が前年度の3倍以上、3兆1320億ドルと過去最悪の水準に膨らんでいます。
いずれの候補が当選しても、当面、財政再建が大きく進展することは考えにくく、各国で公的債務が膨らむ中で、世界経済にとってのリスクになりそうです。
貿易・環境政策は
アメリカ大統領選挙ではどちらの候補が勝利してもアメリカと中国の対立が続くと見られる一方、バイデン氏が勝利すれば、ガソリン車から電気自動車へと移行するEVシフトを一段と進めるなど、環境政策は大きく変わる可能性があり、日本の自動車メーカーも対応を迫られることが予想されます。
トランプ大統領は、アメリカ第一主義を掲げており、国内の雇用を守るためとしてTPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱したほか、日本に対して農産品の関税の引き下げなどを厳しく迫る局面もありました。
さらに中国に対しては安全保障上の脅威だとして強硬な姿勢を崩していません。
通信機器大手のファーウェイへの半導体の供給を止めるための規制を始めたことで、取り引きのある日本企業にも影響が出ています。
一方、バイデン氏は、他国に高い関税をかけるトランプ大統領の手法に対して批判的な立場を取っていて、バイデン政権になれば、こうした政策が見直されるのではないかという見方も出ています。
ただ、バイデン氏も中国の不公平な貿易慣行に対して対抗するとしていて、どちらの候補が勝ってもアメリカと中国という世界の2大経済大国の対立が続くと見られ、日本政府は難しい対応を迫られることになります。
一方、環境政策ではバイデン氏が勝利すれば、大きく変わる可能性があります。
バイデン氏は環境問題に積極的で、トランプ大統領が離脱を表明した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰する方針を示しています。
また、自動車産業では、50万か所の充電スタンドを設置することなどで電気自動車の生産や購入を後押しする政策を打ち出していて、EV=電気自動車へのシフトが一段と進めば日本のメーカーは技術開発を加速させるなどの対応を迫られることも予想されます。