事件から18日で半年になり、全焼して解体工事が進められている第1スタジオの前には、午前中から国内外のファンなどが訪れ、静かに手を合わせて亡くなった人たちを追悼していました。
相模原市から父親と訪れた中学2年生の男子生徒は「この半年間、テレビで事件のことを見るにたびに胸が痛くなりました。アニメを見るきっかけをくれたのが京アニだったので、これからも全力で応援したいです」と話していました。
40代の父親は「この半年間は胸にぽっかりと穴があいたような感じで、スタジオが解体されてさら地になる前に手を合わせようと来ました。安らかに眠ってくださいと、それだけを願いました」と話していました。
また、8歳の娘を連れて大阪から訪れた20代の女性は「京アニには青春が詰まっているので、半年の節目に手を合わせに来ました。娘に新しい作品が見せられるよう、京アニに明るい未来が待っていてほしいと願っています」と話していました。
日本に留学している19歳の中国人の男性は「事件から半年たっても悲しみはことばにすることができず、尽きることもありません。犠牲者たちに感謝を伝え、できるだけの支援をしていきたいです」と話していました。
第1スタジオの解体工事はことし4月下旬まで行われる予定ですが、跡地の利用方法については何も決まっていません。
京都アニメーションの代理人の弁護士は、跡地の利用方法について「ご遺族や地元の関係者などとも協議し、諸般の事情を総合的に考慮して判断していきたい」とコメントしています。
遺族「悲しみは変わらない」
事件から半年となる中、亡くなったアニメーターの石田奈央美さん(当時49)の母親が取材に応じ、「時間がどれだけたっても、悲しみは変わらない」と胸のうちを語りました。
奈央美さんの部屋には、これまでに携わったアニメーション作品のDVDや原作の漫画などのほか、子どものころの思い出の品が数多く残されていて、母親は半年かけて遺品の整理を進めてきました。
母親は、「ふとしたときに小さいころのことを思い出して、部屋を片づけようと思ってもなかなか手がつけられません。時間がどれだけたっても、悲しみは変わりません。本人もものすごく無念だったと思います」と話しました。
また奈央美さんが働いていた第1スタジオは現在、解体工事が進められていますが、跡地の利用方法については決まっていません。
母親は、「ほかの場所ではなく、スタジオがあった場所に慰霊碑を建ててほしい。慰霊碑がないと、何十年もたったときにあの場所で大勢の人たちが一生懸命大好きなアニメーションを作っていたことが忘れられてしまう」として、会社側が地元の住民と調整して進めてほしいと話していました。
町内会長「跡地利用は住民の意見も考慮して」
第1スタジオの跡地について地元の町内会は先月、加入する23世帯の一致した意見として、不特定多数の人が訪れるような慰霊碑や公園を整備しないことなどを求める要望書を京都アニメーションに提出しています。
事件から半年を前に地元の因幡東町内会の安達欽哉会長が取材に応じ、「玄関の扉を開けると人がいたり、車を出すにも声がけをしてよけてもらわなければならなかったりするなど、住民も肩身の狭い思いをしてきた。子どもたちも外で遊ぶことができなくなってしまった」と事件後の周辺の状況を説明しました。
そのうえで安達会長は、「遺族のかたやファンが慰霊碑を建ててほしいという気持ちは理解しているが、この場所に建ってしまうといろいろな人が無制限に来てしまうことになる。私たちの日常生活を脅かすような場所にはなってほしくない」と話しました。
そして跡地の利用について、「遺族のかたや会社の意見が大事だと思うが、私たち地元の住民の意見も少し考慮してもらうため、話し合いに参加させていただきたい」と改めて要望していました。
過去の事件・事故現場の跡地 対応分かれる
多くの人が亡くなった事件や事故の現場に慰霊や追悼の場を整備するかどうかについては、対応が分かれています。
平成13年に大阪 池田市の大阪教育大学附属池田小学校で児童8人が殺害された事件では、全国からの義援金で亡くなった児童の名前が刻まれたモニュメントが学校に作られ、毎年、追悼の集いが開かれています。
また乗客107人が死亡した平成17年のJR福知山線の脱線事故では、跡地をめぐってさまざまな議論が行われ、発生から13年がたったおととし、JR西日本が兵庫県尼崎市の現場のマンションの一部に追悼施設を整備しています。
平成28年に相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害されるなどした事件では、同じ場所に建て替えられる施設に犠牲者を追悼するモニュメントが今後、設けられる予定です。
一方、平成20年に東京 秋葉原で7人の命が奪われた通り魔事件では、現場が町なかにあり、慰霊碑などは整備されていません。
専門家「行政など第三者が間に入るべき」
災害や事件事故の現場の跡地について研究している金沢大学の井出明准教授は「非常に難しい問題だが、慰霊のための場所が残らないと、集まって追悼する行為が成り立たないことは、これまでの研究で目の当たりにしている。悲劇を忘れないため、また遺族が祈りをささげる場所として、現場に慰霊碑をつくることは重要だと思う」と指摘しています。
そのうえで、「地域の住民には日常の生活があり、不安を払拭(ふっしょく)して折り合いをつけていくためにも、行政など第三者が間に入って議論を透明化して進めていくことが必要だ。京都アニメーションのスタジオが地域にとって大切な存在であることを住民に受け止めてもらい、納得のできる着地点を探していくことが重要になってくる」と話しています。