児童じどう養護ようご施設しせつで育そだった子こども「退しさ所しょ後ご 支援しえんなし」約やく20％ 厚あつ労ろう省しょう

一方いっぽうで、経済けいざい的てきな支援しえんや生活せいかつ相談そうだんなどを求もとめる声こえが多おおく、専門せんもん家かは「孤立こりつしている実態じったいが明あきらかとなっていて、支援しえんの仕組しくみを整備せいびすることが重要じゅうようだ」と指摘してきしています。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうによりますと、虐待ぎゃくたいや親おやの病気びょうきなどが理由りゆうで児童じどう養護ようご施設しせつや里親さとおや家庭かていなどで暮くらす子こどもは、平成へいせい30年度ねんど、4万まん4000人にん余あまりに上のぼります。

児童じどう福祉ふくし法ほうの下した、原則げんそくとして18歳さいになると自立じりつが求もとめられますが、進学しんがくや就職しゅうしょくなどで施設しせつなどを退しさ所しょしたあとに孤立こりつするケースが多おおく、継続けいぞくした支援しえんが必要ひつようだという指摘してきが出でています。

このため厚生こうせい労働ろうどう省しょうは、2019年度ねんどまでの5年間ねんかんに施設しせつなどを退しさ所しょしたおよそ2万まん人にんを対象たいしょうに、初はじめての全国ぜんこく調査ちょうさを行おこないました。

居場所いばしょや連絡れんらく先さきが分わからない人ひとが多おおく、調査ちょうさ票ひょうを渡わたすことができたのは35.7％にとどまり、対象たいしょう全体ぜんたいの14.4％に当にあたる2980人にんから回答かいとうを得えました。

それによりますと、「施設しせつなどを退しさ所しょした年齢ねんれい」は

▽18歳さいが60％と最もっとも多おおく、

▽19歳さいが10.4％、

▽15歳さいが7.4％、

▽20歳さいが7％でした。

また、「現在げんざいの状況じょうきょう」は、

▽「働はたらいている」が71％で、

▽「学校がっこうに通かよっている」が23％でした。

「働はたらいている場合ばあいの雇用こよう形態けいたい」は、

▽正せい社員しゃいんが51.8％、

▽パートやアルバイトが34.5％、

▽契約けいやく社員しゃいんや派遣はけん社員しゃいんが8.6％などとなっています。

また、児童じどう養護ようご施設しせつなどを退しさ所しょしたあとに施設しせつや公的こうてきな相談そうだん機関きかんからサポートを受うけたのは62.7％でした。

内容ないようについて複数ふくすう回答かいとうで聞きいたところ、

▽「日常にちじょう的てきな雑談ざつだん・相談そうだん」が36％、

▽「不安ふあんやトラブルなどの相談そうだん」が24.4％などと、

相談そうだんによる支援しえんが中心ちゅうしんとなっています。

一方いっぽうで19.4％は、「サポートは受うけていない」と回答かいとうしました。

「困こまっていることや不安ふあんなこと」については、複数ふくすう回答かいとうで聞きいたところ、

▽「生活せいかつ費ひや学費がくひ」が33.6％、

▽「将来しょうらいのこと」が31.5％、

▽「仕事しごと」が26.6％でした。

さらに月々つきづきの収支しゅうしについて聞きいたところ、

▽「収入しゅうにゅうと支出ししゅつが同おなじくらい」が31.4％で、

▽「支出ししゅつの方ほうが多おおく赤字あかじだ」と答こたえたのは22.9％に上のぼり、

生活せいかつに困窮こんきゅうする実態じったいが浮き彫うきぼりとなっています。

「過去かこ1年間ねんかんに病院びょういんを受診じゅしんできなかった経験けいけんがある」と回答かいとうしたのは20.4％に上のぼりました。

その理由りゆうで最もっとも多おおかったのは「お金おかねがかかるから」でした。

「今後こんご、利用りようしたいサポート」について聞きいたところ、「奨学しょうがく金きんや生活せいかつ費ひの貸付かしつけなどの金銭きんせん面めんに関にかんする支援しえん」や「住居じゅうきょや食事しょくじ面めんの支援しえん」、「悩なやみやメンタルヘルスの相談そうだん」、「退しさ所しょ者しゃ同士どうしが交流こうりゅうできる場ばや催もよおし」などが多おおくなっています。

調査ちょうさに携たずさわった北海道ほっかいどう大学だいがくの松本まつもと伊智朗いちろう教授きょうじゅは「施設しせつなどを出でたあと進学しんがくできなかったり不安定ふあんていな働はたらき方かたをしたりして、中なかには健康けんこう上じょうの問題もんだいを抱かかえながらも、相談そうだん相手あいてがいなくて孤立こりつしている実態じったいが改あらためて明あきらかとなった。現状げんじょうでは、制度せいど的てきには18歳さいを超こえると児童じどう福祉ふくし法ほうのケアの対象たいしょうではないという年齢ねんれいの壁かべがあるが、18歳さいになったからといって頼たよれる家族かぞくがいないという問題もんだいが解決かいけつするわけではない。施設しせつを離はなれたあとも重層じゅうそう的てきに支援しえんする仕組しくみを整ととのえるため、法ほう改正かいせいなどを通をつうじて制度せいどを作つくらなければならない」と話はなしています。

施設しせつ退しさ所ところの20歳さい女性じょせい 相談そうだんしずらくなり孤立こりつ

関東かんとう地方ちほうに住すむ20歳さいの女性じょせいは、虐待ぎゃくたいを理由りゆうに幼おさない頃ころに児童じどう養護ようご施設しせつに入所にゅうしょしました。

施設しせつでの生活せいかつを通をとおして、将来しょうらいは施設しせつの職員しょくいんになりたいと思おもうようになり、小学生しょうがくせいのころから保育ほいく士しの資格しかくをとるという夢ゆめを抱いだくようになりました。

しかし、高校こうこうを卒業そつぎょうしたあと、専門せんもん学校がっこうなどに進学しんがくするためには奨学しょうがく金きんを借かりる必要ひつようがあり、返済へんさいできるのかどうか不安ふあんが大おおきかったことから、進学しんがくを諦あきらめて就職しゅうしょくすることを決きめました。

また、1人にん暮くらしにかかる住宅じゅうたくの初期しょき費用ひようをためるため、高校こうこう3年生ねんせいになる頃ころには、これまで力ちからを入いれていた部活ぶかつへの参加さんかを諦あきらめて、早朝そうちょうや学校がっこう帰がえりなど多おおくの時間じかんをアルバイトに費ついやしました。

児童じどう養護ようご施設しせつの職員しょくいんは、就職しゅうしょくに向むけた相談そうだんにも丁寧ていねいに応おうじてくれて、女性じょせいは、近ちかくの老人ろうじんホームに正せい社員しゃいんとして就職しゅうしょくすることができました。

高校こうこうを卒業そつぎょうし、18歳さいで施設しせつを出でるときには、職員しょくいんから、「何なにかあったらいつでも連絡れんらくして」と言いわれていました。

1人にん暮くらしを始はじめて、光熱こうねつ費ひや病院びょういん代だいなどの思おもわぬ出費しゅっぴがあることを知しり、戸惑とまどうことも多おおく、相談そうだんしようと思おもったこともありましたが、関かかわりが深ふかかった職員しょくいんが退職たいしょくしてしまったり、連絡れんらくをするには施設しせつの代表だいひょうに電話でんわをしなければならなかったりして、相談そうだんしづらくなっていったといいます。

また、退しさ所ところ直後ちょくごに新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげんが出だされ、その際さいに「今いま、施設しせつでは、部外ぶがい者しゃは立ち入たちいり禁止きんしとなっているので、なるべく来こないで欲ほしい」と言いわれたことから、退しさ所しょしたあとはひとりでがんばらなければいけないと思おもうようになったということです。

女性じょせいは、当時とうじの心境しんきょうについて「料理りょうりも洗濯せんたくもすべて職員しょくいんがしてくれて守まもられていた環境かんきょうから、ひとりで全部ぜんぶ何なにもかもやらないといけない環境かんきょうになったことと、これまでのアルバイトとは違ちがう正社員せいしゃいんで働はたらくという、責任せきにん感かんの違ちがいもあってすごく大変たいへんでした。でも、私わたしはもう『施設しせつの子こじゃないんだ』ということを感かんじて、頼たよることも控ひかえた方ほうがいいと思おもっていました」と話はなしていました。

就職しゅうしょくした老人ろうじんホームでは、高齢こうれい者しゃと関かかわる仕事しごとはやりがいがあると感かんじる一方いっぽうで、職場しょくばの人ひととうまくコミュニケーションがとれないなど、人間にんげん関係かんけいで悩なやんでいましたが、誰だれにも相談そうだんすることはできませんでした。

徐々じょじょに眠ねむれなくなったり、食たべることができなくなったりしたほか、職場しょくばで吐はいてしまうなど体調たいちょうを崩くずすようになり、ことし3月つきから休職きゅうしょくを余儀よぎなくされ先月せんげつ、退職たいしょくしました。

現在げんざいは、まずアルバイトの仕事しごとを探さがしながら、貯金ちょきんもほとんどないため、住み込すみこみで働はたらける新あたらしい就職しゅうしょく先さきを探さがしているということです。

女性じょせいは、「施設しせつを出でた人ひとを対象たいしょうにした相談そうだん場所ばしょがあるということも教おしえてもらったのですが、場所ばしょが遠とおかったり、知しっている職員しょくいんがいなかったりして相談そうだんしづらいという風かぜに感かんじています。新型しんがたコロナウイルスの感染かんせん拡大かくだいも続つづいているので、仕事しごとがすぐに見みつかるかどうか分わからず、とても不安ふあんです」と話はなしていました。