7月、夏の甲子園出場をかけた奈良大会の決勝で顔を合わせていました。
天理が甲子園の常連校としての実力を発揮するのか、生駒が創部60年目で悲願の初出場を決めるのかが注目された試合でしたが、直前にまさかの出来事が待っていました。
生駒は投打ともに中心選手を欠いた結果、序盤から失点を重ね、打線もわずか2安打と振るわず、0対21で大敗。 甲子園出場を決めた天理の選手たちも複雑な気持ちで、喜ぶことができませんでした。
「試合が終わったあとは、喜ばずにすぐに整列しようと、チームメートに呼びかけました。お互いにメンバー全員がそろった状態で試合がしたかったというのが正直な気持ちでした」 生駒 元主将 熊田颯馬さん 「天理の選手たちが自分たちに配慮してくれたことへの感謝の気持ちが大きいです。できるならもう1回、みんなで集まって、全員で野球したいと思っていました」
アルプス席には『つなぐ 心ひとつに』ということばが書かれた横断幕が掲げられました。 生駒が天理に贈ったもので、天理が信条にする『つなぐ』と、生駒が大切にしてきた『心ひとつに』というスローガンを組み合わせました。
生駒 元主将 熊田さん 「形は違えど目指してきた甲子園に来て、天理を応援することができて、とてもうれしかったです。僕たちも一緒に戦うという気持ちで、感動を与えてもらいました」 天理 元主将 戸井さん 「アルプスから生駒の選手たちが見てくれている、応援してくれているという思いで戦いました。自分たちの全力のプレーで何か伝えられるものがあったと思います」
それが、引退した3年生たちによる練習試合です。 奈良大会の決勝の再戦となる特別な一戦は、天理の中村良二監督が、コロナで試合に出られなかった生駒の選手たちの無念さを思いやって提案しました。 この申し出を生駒も歓迎し、実現に至ったのです。
キャッチャーで4番を任されていた篠田莉玖さんもその1人です。 準決勝までの打率は5割を超え、チーム躍進の原動力となっていました。 しかし、決勝の前日に発熱し、新型コロナへの感染が確認されたため、甲子園をかけた大一番を欠場することになり、やりきれない思いでいっぱいでした。 野球部は奈良大会のあと新チームが始動し、篠田さんは引退していましたが、練習試合に向けて、受験勉強をしながら、キャッチボールやバッティング練習を行い、力をぶつけ合う準備をしました。
「決勝で試合に出られず、全員でプレーできずに高校野球生活が終わってしまったので、悔いがありました。こうした機会を設けてもらい、感謝の気持ちでいっぱいです。全員で心ひとつに頑張りたいです」
奈良大会の決勝とは全く異なり、1点を争う好ゲームになりました。 生駒は1点を追う6回、2アウトから3者連続ヒットで2点を奪って逆転し、4番の篠田さんに打席が回ってきました。
惜しくもレフトフライとなり、追加点を奪えませんでしたが、力を出し切れたことに、篠田さんから笑顔も見えました。 試合は、このあと天理がホームランなどで2点を奪って再び逆転しました。
さらに選手の1人は、その輪に生駒の選手たちも迎え入れようと、相手のベンチに合図を送っていました。 実は、奈良大会の決勝でも勝利まであと1人となったところで、マウンドに集まった天理の選手たち。 あのときは試合に勝っても喜ばないと決めましたが、今度は、野球をやりきれた喜びをライバルとともに分かち合おうとしていました。
そして、天理の勝利で試合が終わると、天理の選手たちに続き、生駒の選手たちも一斉にベンチから飛び出し、両チームの3年生全員で歓喜の輪を作りました。
「自分たちの最後の試合を縁のある生駒とできたことは、今後にもつながると思います。みんなで笑顔でプレーできて楽しかったです」 天理 中村良二監督 「試合前に3年生に『甲子園に出たチームとして負けは許されない、絶対に勝つよ』と言いましたが、終わってみると勝ち負け以上のものがあって、野球っていいなと改めて感じました」
「決勝は全員で戦えなくて、僕自身も悔いが残っていましたが、全員で笑って終わることができて、何よりもうれしいです。高校生活で一番楽しい試合でした。これからは、天理の選手たちの野球人生を応援したいです」 生駒 北野定雄監督 「みんなの力は本物になっていると感じました。ここまでたくましく成長してくれて本当にありがとう。ありがとう、それしかことばがないです。次の進路に向けて、野球で頑張ってきた逃げないという気持ちをまた見せてほしいです」
新型コロナに振り回されながらも、突きつけられた現実としっかりと向き合うことで、絆を深めてきた両チームの選手たち。 思いをつなぎ、心をひとつにした夏でした。 (大阪放送局 記者 並松康弘 / 奈良放送局 記者 平塚 竜河)
『つなぐ 心ひとつに』
決勝の“再戦”を計画
練習試合は1点争う好ゲーム
試合の最後には…
コロナ禍だからこそ 生まれた絆