核軍縮の取り組みはこれまでNPT=核拡散防止条約を基盤に進められてきました。
50年前の1970年に発効したNPTはアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国を核保有国と認め、核軍縮の交渉を義務づける一方、その他の国々の核兵器の保有や拡散を禁じてきました。
しかし世界の核兵器の9割を保有する米ロの核軍縮は進まない上、NPTに参加していないインドとパキスタンが相次いで核実験に踏み切り、北朝鮮も条約から脱退を宣言して核兵器開発を加速させています。
さらにあらゆる核実験を禁じる「CTBT=包括的核実験禁止条約」もアメリカやインド、パキスタンなどで批准の見通しが立たず、1996年の採択から20年以上たった今も発効していません。
このため7年前の2013年以降、核兵器を持たないノルウェー、メキシコ、オーストリアはNPTや国連とは別の国際会議を相次いで開き、核兵器を法的に禁止すべきだという議論を活発化させてきました。
こうした中、核保有国と非核保有国の対立は激しくなり、2015年春のNPT再検討会議では核兵器の法的な禁止を求める国々に対し、核保有国は段階的な核軍縮を主張して、世界の核軍縮の方向性を決める合意文書を採択できない事態となりました。
そして2016年、オーストリアやメキシコなど50以上の国が共同で核兵器禁止条約の交渉の開始を求める決議案を国連総会に提出し、113の国の賛成多数で採択されました。
この時、日本は唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶を訴える一方、「核軍縮は核保有国とともに段階的に進めるべきだ」として、アメリカなどの核保有国とともに反対に回り、国内外で驚きをもって受け止められました。
その後、核兵器禁止条約の制定に向けた交渉会議は2017年3月に始まり、7月に122の国と地域の賛成で採択されましたが、核保有国に加え、アメリカの核抑止力に依存する日本やNATO=北大西洋条約機構の大半の加盟国は交渉に参加しませんでした。
一方、当初から条約の制定を推進してきた国際NGOのICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンは各国に直接働きかけるなど条約の実現に貢献したとしてこの年のノーベル平和賞を受賞しました。
核兵器 世界各国の保有状況は
世界の軍事情勢を分析しているスウェーデンの研究機関、ストックホルム国際平和研究所がことし6月に発表した最新の報告書によりますと、各国が保有している世界の核弾頭の総数はことし1月時点で1万3400発と推計されています。
前の年の調査の推計1万3865発から465発減少していて、報告書ではアメリカとロシアが核弾頭の解体を進めたことを理由に挙げています。
国別ではロシアが6375発と前年の6500発から125発減り、アメリカが5800発と前年の6185発から385発減っていますが、2か国の合計は1万2175発と全体の9割以上を占めています。
2か国に次ぐ3番目の保有国は中国で320発と前年の290発から30発増えたと推計され、報告書は「核兵器の近代化の真っただ中だ」と指摘しています。
4番目のフランスは290発で前年より10発減った結果、中国がフランスを抜いたとみられています。
5番目はイギリスの215発、6番目はパキスタンの160発、7番目はインドの150発、8番目はイスラエルの90発となっています。
また北朝鮮は前年から10発程度増えて30発から40発を保有しているのではないかと分析しています。
一方、報告書では米ロ両国が核弾頭やミサイル、施設などの近代化を進めている上、核兵器の役割を拡大させ、冷戦後の核軍縮の流れに逆行していると指摘しています。
さらに去年は米ロの核軍縮条約の1つが失効するなど核兵器の軍備管理が危機的な状況に陥り、地政学的な緊張も高まっているとして、警戒感をにじませています。
核兵器は世界に「拡散」 米ロ核軍縮の枠組みは崩壊の危機に
アメリカのオバマ前大統領が「核兵器のない世界」を目指すと演説してから11年。
世界には今も1万3000発余りの核弾頭が存在し、その90%以上をアメリカとロシアという2つの核大国が保有していると推計されています。
両国は、
▽INF=中距離核ミサイルの全廃条約と
▽START=戦略兵器削減条約という2つの条約をもとに核軍縮を進めてきましたが、この枠組みが今、崩壊の危機にひんしています。
INF=中距離核ミサイルの全廃条約はトランプ政権がロシアの核ミサイル開発を理由に破棄を通告し、去年8月、失効しました。
またICBMなどの戦略核兵器を制限してきたSTARTは10年前の2010年に引き継がれた後継条約の新STARTが来年(2021)2月に失効の期限を迎えますが、米ロ両国は新型の核兵器などを巡って対立し、協議は予断を許さない状況が続いています。
核軍縮をめぐる米ロの協議の一方で、核戦力を急速に発展させたのが中国です。
中国政府は核兵器の保有数を公表していませんが、世界の軍事情勢を分析しているスウェーデンのストックホルム国際平和研究所によりますと、核弾頭の数はことし去年の290発から320発に増え、ロシアやアメリカに次いで世界で3番目に多くなったと分析されています。
米ロの核軍縮条約に縛られない中国はアメリカ大陸に届くICBM=大陸間弾道ミサイルや日本や台湾を射程におさめる中距離ミサイルの開発など核戦力の増強を推進し、アメリカは強く懸念しています。
また核兵器の拡散も深刻でNPT=核拡散防止条約で保有を認められているアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国以外にもインド、パキスタン、イスラエルの3か国がすでに核兵器を保有していると見られるほか、北朝鮮も開発を加速させています。
このため核兵器を持たない非核保有国などの間では米ロを基軸とした核軍縮条約だけでは不十分だという声が根強く、核廃絶の実現に向けてはほかの核保有国も巻き込んだ新たな核軍縮の枠組みの必要性も指摘されています。