北朝鮮は、韓国の脱北者団体が先月、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長を批判するビラを飛ばしたことに強く反発し、段階的に対抗措置をとるとしていて、16日は、「南北融和の象徴」ともいわれた南西部ケソン(開城)にある共同連絡事務所を爆破しました。
こうした中、キム委員長の妹で韓国に対する政策を統括するキム・ヨジョン(金与正)氏は17日午前、談話を発表し、韓国政府が15日、事態打開のためムン・ジェイン(文在寅)大統領の特使としてチョン・ウィヨン(鄭義溶)国家安保室長らを派遣する意向を伝えてきたと明らかにしました。
そのうえで、「見え透いた計略がうかがえる不純な提案だ」として、これを拒否したとしています。
また、ムン大統領が15日、「過去の対決の時代に戻そうとしてはならない」などと述べ、対話を通じた解決を呼びかけたことについても、キム・ヨジョン氏は、「嫌悪感を禁じえない」と非難しました。
これに対して韓国大統領府は17日午前、急きょ記者会見を開き、非公開の提案を北朝鮮が一方的に公開したのは「前例のない非常識な行為で、提案の趣旨を意図的にわい曲したものだ」として強い遺憾の意を表明しました。
一方、北朝鮮の朝鮮人民軍は17日、南北の経済協力事業が行われていたケソンの工業団地や南東部クムガン(金剛)山の観光地区に部隊を展開させる方針などを示していて、韓国軍が警戒を強めています。
韓国 主要各紙「南北和解の象徴爆破」
北朝鮮がケソンにある南北の共同連絡事務所を爆破したことについて、韓国の主要各紙は、17日朝の紙面で写真とともに1面でとりあげ、「南北和解の象徴が爆破された」などと批判的に伝えています。
このうち、保守系の東亜日報は、ムン・ジェイン大統領が北朝鮮に対話を求めた翌日に韓国が巨額の資金を投じた施設を爆破したとして、「テロ集団の蛮行と大差ない」と強く非難しています。
革新系のハンギョレ新聞は「米朝の対話が進展せず、韓国がアメリカの顔色をうかがって南北の協力を十分に進展させなかったという不満が強くにじみ出ている」として、北朝鮮との経済協力を進めなかった韓国へのいらだちが背景にあると分析しています。
また爆破によって、北朝鮮に対する韓国国内の世論は悪化し、国際的な信頼も失墜するだろうとしたうえで、北朝鮮がさらなる措置をとれば南北関係は、初の首脳会談が開かれた2000年以前の状態に戻りかねないと、危機感を示しています。
一方、保守系の朝鮮日報は、北朝鮮の現状について、新型コロナウイルスや国際社会による制裁の影響で経済が悪化しているとの見方を示しました。
そのうえで「今回の挑発も危機を高めたうえで、劇的な妥結をねらうものだ。長年の『瀬戸際戦術』だ」と伝え、挑発行為によって緊張を高めたあと、韓国やアメリカに対し、制裁の解除を求めてくると分析しています。
菅官房長官「日米韓3か国で緊密に連携し対応」
菅官房長官は、午前の記者会見で「最近の南北関係の動向を含め、北朝鮮の動向については、平素から重大な関心を持って情報収集・分析に努めているが、その内容については回答を控える。引き続き、日米、日韓、日米韓3か国で緊密に連携して対応していくとともに、警戒監視に万全を期していきたい」と述べました。
また、拉致問題の解決について、菅官房長官は「わが国としては引き続き、米朝プロセスを後押ししていく。同時に、最も重要な拉致問題の解決に向けて、アメリカを含む関係国と連携しながら、わが国自身が主体的に取り組んでいきたい」と述べました。
そのうえで、「安倍総理大臣は、条件を付けずにキム・ジョンウン委員長と直接向き合う決意をたびたび表明している。また北朝鮮との間では、北京の大使館ルートなどさまざまな手段を通じてやり取りを行っている。ご家族もご高齢となる中、一日も早い解決に向けて、あらゆるチャンスを逃すことなく、しっかりと取り組む」と述べました。