審理しんり期間きかんが200日にち超ちょう 最長さいちょうの裁判さいばん員いん裁判さいばんで無期むき懲役ちょうえきの判決はんけつ

判決はんけつの言い渡いいわたしが神戸こうべ地方ちほう裁判所さいばんしょ姫路ひめじ支部しぶで午後ごご２に時じから始はじまり、木山きやま暢とおる郎ろう裁判さいばん長ちょうは冒頭ぼうとう、陳ちん被告ひこくに対にたいして無期むき懲役ちょうえきを言い渡いいわたしました。

会社かいしゃ社長しゃちょうを殺害さつがいしたとする１いち件けんの殺人さつじん事件じけんについては無罪むざいと判断はんだんしました。

この裁判さいばんは死亡しぼうしたとされる３さん人にんのうち、会社かいしゃ社長しゃちょうを含ふくむ２に人にんの遺体いたいが見みつかっていないなど、直接ちょくせつ的てきな証拠しょうこが少すくなく、延のべ120人にんを超こえる証人しょうにんを呼よぶなどして、裁判さいばん員いん裁判さいばんとしてはこれまでで最もっとも長ながい207日にちにわたって審理しんりが行おこなわれました。

罪つみに問とわれた事件じけんは

今回こんかいの裁判さいばん員いん裁判さいばんでは、被告ひこくが起訴きそされた12の事件じけんのうち、元もと暴力団ぼうりょくだん員いんや会社かいしゃ社長しゃちょうが殺害さつがいされたとされる事件じけんや、別べつの元もと暴力団ぼうりょくだん員いんが監禁かんきんされて死亡しぼうしたとされる事件じけんなど、７ななつが審理しんりされました。被害ひがい者しゃは合あわせて５ご人にんで、このうち３さん人にんが死亡しぼうしたとされました。

平成へいせい23年ねん２月にがつに殺害さつがいされたとされる当時とうじ37歳さいの元もと暴力団ぼうりょくだん員いんは、兵庫ひょうご県けん姫路ひめじ市しに駐車ちゅうしゃしてあったトラックの荷台にだいの中なかで遺体いたいで見みつかりました。元もと暴力団ぼうりょくだん員いんは前まえの年としの９月くがつにも拉致らちされ、建物たてものに監禁かんきんされて暴行ぼうこうを受うけ、自力じりきで脱出だっしゅつしていたということで、被告ひこくはこの元もと暴力団ぼうりょくだん員いんに対にたいする殺人さつじんや連れ去つれさり、監禁かんきん傷害しょうがいなどの罪つみに問とわれました。

また、東京とうきょう 世田谷せたがや区くに住すんでいた広告こうこく会社かいしゃの社長しゃちょうは、被告ひこくからおよそ10億おく円えんを借かりていたということで、平成へいせい21年ねん４月しがつから22年ねん６月ろくがつまで１いち年ねん以上いじょうにわたって、姫路ひめじ市内しないのマンションに置おかれたおりの中なかなどに監禁かんきんされたうえで、拳銃けんじゅうなどで殺害さつがいされたとされました。

遺体いたいは見みつかっていませんが、被告ひこくは殺人さつじんと監禁かんきんの罪つみに問とわれました。

さらに平成へいせい22年ねん４月しがつ、当時とうじ57歳さいの別べつの元もと暴力団ぼうりょくだん員いんが姫路ひめじ市内しないで車くるまに押し込おしこまれ、両りょう手足てあしを粘着ねんちゃくテープで縛しばられたうえで、死亡しぼうしたとされる事件じけんでも、この元もと暴力団ぼうりょくだん員いんの遺体いたいが見みつかっていませんが、連れ去つれさりと監禁かんきん致死ちしの罪つみに問とわれました。

このほか、平成へいせい21年ねん８月はちがつ、神奈川かながわ県けん鎌倉かまくら市しで殺害さつがいされたとされる広告こうこく会社かいしゃの社長しゃちょうの部下ぶかだった、当時とうじ33歳さいの男性だんせいの顔かおにナイフを突つきつけて、車くるまに乗のせて連れ回つれまわし、顔かおにけがをさせたなどという監禁かんきん傷害しょうがいの罪つみや、平成へいせい22年ねん８月はちがつ、兵庫ひょうご県けん三木みき市しにある倉庫そうこに置おかれた箱はこの中なかに、当時とうじ30歳さいの男性だんせいを閉じ込とじこめ、およそ１いちか月かげつ間かん、監禁かんきんしたとする罪つみに問とわれました。

これらの事件じけんは、いずれも被告ひこくが別べつの男おとこらに指示しじして行おこなわれたとされ、一部いちぶの事件じけんでは共犯きょうはんとされた男おとこらの有罪ゆうざいが確定かくていしています。

起訴きそから裁判さいばんまで６ろく年ねん以上いじょう

この裁判さいばん員いん裁判さいばんは、裁判さいばんの前まえに争点そうてんなどを絞り込しぼりこむ「公判こうはん前ぜん整理せいり手続てつづき」が72回かいも開ひらかれ、被告ひこくが最初さいしょに起訴きそされてから、ことし４月しがつに裁判さいばんが始はじまるまで６ろく年ねん以上いじょうかかりました。

被告ひこくは合あわせて12の事件じけんで起訴きそされていますが、裁判さいばん員いん裁判さいばんで審理しんりされたのは、このうちの７ななつの事件じけんです。

この中なかには、被害ひがい者しゃの遺体いたいが見みつかっていない、いわゆる「遺体いたいなき殺人さつじん事件じけん」も含ふくまれています。

直接ちょくせつ的てきな証拠しょうこが乏とぼしい中なか、状況じょうきょう証拠しょうこを積み重つみかさねるなどして立証りっしょうしようとする検察けんさつと、一部いちぶの監禁かんきん事件じけんを除のぞいて無罪むざいを主張しゅちょうする弁護べんご側がわの双方そうほうが、合あわせて120人にんを超こえる証人しょうにんを法廷ほうていに呼よぶなどして審理しんりを進すすめてきました。

このため、初はつ公判こうはんから判決はんけつまで、およそ７ななか月かげつ、207日にちを要ようしました。

最高さいこう裁判所さいばんしょによりますと、これまでの裁判さいばん員いん裁判さいばんで最もっとも長ながかったのは、おととし、名古屋なごや地方ちほう裁判所さいばんしょで女性じょせいを殺害さつがいした罪つみなどで、男おとこに無期むき懲役ちょうえきが言い渡いいわたされた裁判さいばんの160日にちで、今回こんかいはこれを大幅おおはばに超こえて過去かこ最長さいちょうになります。

501人にんのうち421人にんが辞退じたい

異例いれいの長期ちょうきにわたったこの裁判さいばんでは、裁判さいばん員いんにかかる負担ふたんの大おおきさが改あらためて課題かだいとして浮かび上うかびあがりました。

裁判さいばんの審理しんりは、ことし４月しがつから11月つきまで週しゅう４よん回かいのペースで進すすめられることになり、仕事しごとなどを理由りゆうに裁判さいばん員いんを辞退じたいする人ひとが相次あいつぎました。

裁判さいばん員いんの候補こうほとなった501人にんのうち、421人にんが辞退じたいしたということです。

さらに、理由りゆうは明あきらかになっていませんが、裁判さいばんが始はじまってから１いちか月かげつ余あまりの間まに６ろく人にんの裁判さいばん員いんのうち、３さん人にんが辞任じにんを申し出もうしでて解任かいにんされました。

そして、あらかじめ選えらばれていた補充ほじゅう裁判さいばん員いん３さん人にんが途中とちゅうから審理しんりに加くわわりました。

専門せんもん家か「制度せいど検討けんとうに市民しみんの声こえを」

今回こんかいの裁判さいばんについて、裁判さいばん員いん制度せいどに詳くわしい専修せんしゅう大学だいがく法学部ほうがくぶの飯めし考こう行くだり教授きょうじゅは「被告ひこくが否認ひにんし、しかも遺体いたいが見みつかっていない難むずかしい事件じけんで、100人にん以上いじょうの証人しょうにん尋問じんもんが申請しんせいされ、時間じかんがかかるのもやむをえない」と話はなしています。

そのうえで、裁判さいばん員いん裁判さいばんが長期ちょうき化かする傾向けいこうについて、「裁判さいばん員いんは一般いっぱんの市民しみんで、いきなり裁判さいばんで判断はんだんしろと言いわれても、時間じかんが短みじかいと判断はんだんしにくく、裁判官さいばんかんが配慮はいりょして、ゆとりのある環境かんきょう作づくりをしていることも影響えいきょうしている。また、社会しゃかい的てきに重大じゅうだいで、慎重しんちょうな判断はんだんが必要ひつような事件じけんが長期ちょうき化かする傾向けいこうにあり、ある程度あるていど、長引ながびくのはやむをえない」と話はなしています。

一方いっぽうで、長期ちょうき化かの弊害へいがいとして、裁判さいばん員いんを辞退じたいする人ひとが増ふえてしまうことを挙あげ、「裁判さいばん員いん制度せいどの趣旨しゅしからすれば、社会しゃかいの縮図しゅくずとしてさまざまな立場たちばの人ひとに裁判さいばん員いんになってもらうのが理想りそうだが、仕事しごとが忙いそがしい人ひとが参加さんかできなくなり、無職むしょくの人ひとや高齢こうれい者しゃが増ふえて裁判さいばん員いんに偏かたよりが生しょうじることが考かんがえられる」と指摘してきしています。

また、飯めし教授きょうじゅは裁判さいばん員いん制度せいどには市民しみんが参加さんかして、幅広はばひろい視点してんで慎重しんちょうに審理しんりすることで、えん罪えんざいの防止ぼうしにつながる大おおきなメリットがあるとしたうえで、「『仕事しごとを休やすまないといけないから負担ふたんが大おおきい』という市民しみん側がわの事情じじょうと、刑事けいじ裁判さいばんに市民しみんが参加さんかすることのメリットとのバランスをどのように取とるのかが重大じゅうだいな論点ろんてんだと思おもう」と指摘してきしています。

政府せいふは来月らいげつ以降いこう、改あらためて裁判さいばん員いん制度せいどの検討けんとうを行おこなうとしていて、飯めし教授きょうじゅは「今後こんごの制度せいどの検討けんとうには専門せんもん家かだけではなく、裁判さいばん員いん経験けいけん者しゃや市民しみんの声こえを取り入とりいれることが求もとめられている」と指摘してきしています。

審理しんり期間きかんは長期ちょうき化かの傾向けいこう

裁判さいばん員いん制度せいどが始はじまってから来年らいねんで10年ねん。

最高さいこう裁判所さいばんしょのまとめによりますと、初はつ公判こうはんから判決はんけつまでにかかった日数にっすうは、制度せいどが始はじまった当初とうしょは平均へいきんで４よん日にち未満みまんでしたが、去年きょねんは10日にちを超こえ、長期ちょうき化かの傾向けいこうがみられます。

裁判さいばん員いん制度せいどの導入どうにゅうに当にあたっては、裁判さいばん員いんの負担ふたんを減へらすため、裁判さいばんが始はじまる前まえに裁判官さいばんかん、検察官けんさつかん、それに弁護士べんごしの３さん者しゃが集あつまって争点そうてんを絞り込しぼりこむ「公判こうはん前ぜん整理せいり」という手続てつづきも導入どうにゅうされました。

これにより、従来じゅうらいの刑事けいじ裁判さいばんと比くらべると、裁判さいばんが開ひらかれる日数にっすうは大幅おおはばに短みじかくなり、裁判さいばん員いん制度せいどが始はじまった平成へいせい21年ねんは、初はつ公判こうはんから判決はんけつまでの「審理しんり期間きかん」は平均へいきんで3.7日にちでした。

しかし、審理しんり期間きかんは長期ちょうき化かする傾向けいこうが続つづいていて、去年きょねんは10.6日にちと初はじめて10日にちを超こえました。

裁判さいばん員いん制度せいどが始はじまる前まえ、最高裁さいこうさいは裁判さいばん員いん裁判さいばんのおよそ９きゅう割わりが５ご日にち以内いないに終おわる見込みこみだと説明せつめいしていましたが、去年きょねん、５ご日にち以内いないに終おわったのは３さん分ぶんの１いちほどにとどまっています。

最高裁さいこうさいは裁判さいばん員いん裁判さいばんが長期ちょうき化かしている理由りゆうについて、裁判さいばん員いんの負担ふたんを考慮こうりょして１いち日にちの開廷かいてい時間じかんを短みじかめにしていることや、判決はんけつ内容ないようについて裁判さいばん員いんと裁判官さいばんかんが話し合はなしあう「評議ひょうぎ」を充実じゅうじつさせるため、時間じかんを多おおめに取とっていることをあげています。

裁判さいばん員いん裁判さいばんの長期ちょうき化かに伴ともなって懸念けねんされるのが、仕事しごとや子育こそだて、介護かいごなどの事情じじょうで裁判さいばん員いんに参加さんかできない人ひとが増ふえることです。

裁判さいばん員いんの候補こうほ者しゃに選えらばれ、裁判さいばん員いんを選えらぶ手続てつづきに出席しゅっせきを求もとめられた人ひとのうち、裁判所さいばんしょに来こなかった人ひとは制度せいど開始かいし当初とうしょの平成へいせい21年ねんはおよそ16％でしたが、去年きょねんはおよそ36％に増ふえています。

また、辞退じたいを申し出もうしでて認みとめられた人ひとは平成へいせい21年ねんは53％でしたが、去年きょねんは66％と３さん分ぶんの２にに上のぼっています。

最高裁さいこうさいが去年きょねん、民間みんかんの調査ちょうさ機関きかんに委託いたくしてインターネットで行おこなったアンケート調査ちょうさでは、裁判さいばん員いん裁判さいばんに参加さんかできる最大さいだいの日数にっすうについて「３さん日にち以内いない」という回答かいとうが74.9％だったのに対にたいし、「15日にち以上いじょう」という回答かいとうは5.7％にとどまっています。

裁判さいばん員いん制度せいどは幅広はばひろい層そうの市民しみんに参加さんかしてもらって、市民しみん感覚かんかくを反映はんえいさせることが重要じゅうような理念りねんとなっているため、仕事しごとなどの事情じじょうで参加さんかできない人ひとが増ふえて、職業しょくぎょうや年代ねんだいなどが偏かたよることは望のぞましくないとされています。

最高裁さいこうさいは「多おおくの市民しみんが参加さんかしやすい審理しんり期間きかんにするという観点かんてんも重視じゅうしして、審理しんりを充実じゅうじつさせることとのバランスを取とる必要ひつようがある」としています。