このうち、5年以上にわたって内戦が続く中東のイエメンでは、国民の3人に1人にあたる1000万人近くが深刻な食糧不足の状態に陥っていて、WFPの食糧支援が人々の命をつなぐ大きな役割を果たしています。
首都サヌアの50代の男性は「WFPの支援がなければさらなる食糧危機に陥っていたでしょう。WFPが支援を継続してくれることを願っています」と話していました。
また、WFPはパレスチナでも食糧支援を行っていて、このうち、200万人が暮らし、イスラエルの経済封鎖が続くガザ地区では新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、およそ7割の住民が十分な食事をとれない状態にあるということです。
ガザ地区で、夫と6人の子どもと暮らす40歳の主婦は、WFPから配られる引換券を使って家族の食糧を確保していて、「WFPは受賞にふさわしい活動をしているので、うれしく思います。封鎖状態に置かれているガザの人たちへの支援がさらに増えることを期待しています」と話していました。
一方、10年にわたる混乱と内戦で国民のおよそ2人に1人が家を追われたシリアでは、資金不足や新型コロナウイルスによる物流への影響などもあってWFPの食糧支援が届いていない国内避難民もいます。
北西部のアレッポ県で避難生活を送る男性は「家族を食べさせるため、トラクターなどを売らざるをえませんでした。ノーベル平和賞を機に、私たちにも支援が届くよう国際社会はWFPを支援してほしい」と話していました。
パレスチナ ガザ地区の住民「受賞にふさわしい活動」
WFPは1991年からパレスチナで活動を始め、現在はガザ地区とヨルダン川西岸地区で合わせて35万人に対し、食糧支援を行っています。
このうち、種子島ほどの広さに200万人が暮らすガザ地区では人口の半数が貧困状態にあり、ことしは新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、およそ7割の住民が十分な食事がとれない状態にあるということです。
ガザ地区で、夫と6人の子どもと暮らすダラル・ダハドゥさん(40)は、2008年からWFPの食糧支援を受けてきました。
ダハドゥさんの夫は、以前は建設作業員として働いていましたが、イスラエルの経済封鎖によって建設資材が不足し、仕事を失ったことがきっかけでした。今は月に80ドルあまりに相当する食糧の引換券をWFPから配布され、指定された商店で買い物をしています。
ダハドゥさんは、WFPの支援について、「支援のおかげで、野菜やチーズ、卵などを買うことができ、家族の生活にとっては欠かせないものになっています」と話しています。
また、WFPがことしのノーベル平和賞に選ばれたことについて「受賞にふさわしい活動をしているので、うれしく思います」と話していました。
そして、今後については、「封鎖状態に置かれているガザの人たちへの支援がさらに増えることを期待しています」と話していました。
泥沼の内戦続くイエメンでも食料支援続ける
WFP=世界食糧計画は、泥沼の内戦が続き、人道危機に陥っている中東のイエメンでも食糧支援を続けています。
イエメンでは、サウジアラビアなどが支援するハディ政権側と、イランが支援する反政府勢力「フーシ派」の間で5年以上にわたって内戦が続いていて、農業生産の落ち込みや物流の寸断などによって食糧危機に陥っています。
WFPによりますと、国民の3人に1人にあたる1000万人近くが深刻な食糧不足の状態にあるということで、とりわけ幼い子どもや女性の栄養失調が深刻な状況となっています。
また、新型コロナウイルスの感染拡大が市民生活に大きな影響を与えるなか、WFPは食糧支援に加えてことしに入ってからは、人工呼吸器や検査器具なども現地に送っています。
一方で、国連によりますとイエメンで配る水や食糧の購入に必要な各国からの援助額は、目標の3割しか集まっておらず、資金の確保が大きな課題となっています。
WFPの食糧支援を受けている首都サヌアの50代の男性は「WFPからの支援がなければ、イエメンはさらなる食糧危機に陥っているでしょう。WFPが国際社会からの協力を得て支援を継続してくれることを願っています」と話していました。
また、25歳の女性は、「『おめでとう』と言いたいです。ノーベル平和賞をきっかけにWFPのもとに寄付が集まり、配られる食糧が増えることを願っています」と話していました。
一方で慢性的な資金不足 新型コロナ影響でさらなる懸念も
WFP=世界食糧計画は任意の拠出金のみで人道支援などを行っていて、2019年は各国などから合わせてこれまでで最高の80億ドル、日本円で8400億円余りの拠出を受けました。
拠出額が多かったのは1位がアメリカ、2位がドイツ、3位がイギリスでした。
しかし、アフリカの南スーダンや中東のイエメンなどで食糧事情が悪化し、各地でさらなる支援が必要となる中、WFPは慢性的な資金不足に陥っていて、去年は、必要な資金が41億ドル、日本円でおよそ4300億円不足したということです。
新型コロナウイルスの影響で各国は自国の経済対策に追われていて、WFPはことしはさらに拠出金が集まりにくくなる可能性があるとしています。
WFPのアブドゥラ副事務局長は「今回の受賞が、資金集めの助けになることを願っている」と述べノーベル平和賞の受賞をきっかけにWFPの活動への理解が広まり、資金不足が解消されることに期待を示しました。
資金面での支援はWFPのトップビーズリー事務局長も、ことあるごとに国際社会に呼びかけてきました。
先月、国連安全保障理事会が開いたオンライン会合では、「私の出身国アメリカではわずか12人の大富豪が合わせて1兆ドルの資産を持っている。うち3人は、新型コロナウイルスの感染拡大の中にあって何百億ドルも稼いだと言われている。金もうけには反対しないが人類は見たことのない最大の危機に直面しているのだ」と述べ、アメリカの大富豪に支援を呼びかけました。
内戦続くシリア避難民「平和賞を機に国際社会はWFP支援を」
10年にわたる混乱と内戦で国民のおよそ2人に1人が家を追われたシリアでは、資金不足や新型コロナウイルスによる物流への影響などもあってWFP=世界食糧計画の支援が届いていない国内避難民もいます。
このうち、反政府勢力が支配するアレッポ県北部にある避難民キャンプで暮らすムハンマド・ヤシーンさんの一家は、アサド政権側の攻撃で家を追われ、着の身着のままでこのキャンプにたどり着きました。
キャンプではWFPの食糧支援を受けていましたが、新型コロナウイルスの影響などで数か月前から支援が届かなくなり、ヤシーンさんは妻と8人の子どもを食べさせるため生活に欠かせなかったバイクを売ったということです。
ヤシーンさんは、「WFPが私たち家族を支えてくれたことには感謝しています。もっと資金が集まれば、支援が増え、生活が楽になると思います」と話していました。
また、避難民キャンプで暮らす別の男性も、WFPからの支援が止まっているということで、「家族を食べさせるため、トラクターなどの所持品を売らざるを得ませんでした。ノーベル平和賞を機に、私たちにも支援が届くよう国際社会はWFPを支援してほしい」と話していました。
米報道官「アメリカは最大の資金拠出国」 政策意義強調
アメリカのホワイトハウスのマケナニー報道官は9日、ツイッターに「2017年にトランプ大統領がビーズリー氏を事務局長に指名した世界食糧計画が、極貧と飢餓を防ぐための活動でことしのノーベル平和賞を受賞した」と投稿しました。
そのうえで、トランプ大統領の娘のイバンカ氏の助言もありアメリカが最大の資金拠出国になったとし、「『アメリカ・ファースト』はアメリカ単独ということではない」とトランプ政権の政策の意義を主張しました。
一方、ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議は9日、ツイッターに「アメリカは1961年以降、常に世界食糧計画の最大の資金拠出国だ。食糧の安全保障があって平和と安定がある。ビーズリー事務局長の世界クラスの指導力に感謝する」と投稿しました。