イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は「中東にある爆弾の導火線にアメリカが火をつけた格好になった」と分析し、両国の対立は軍事的な衝突の危険がある新たな段階に入ったという見方を示しました。
専門家「中東にある爆弾の導火線に米が火をつけた」
田中教授は殺害されたソレイマニ司令官について「イラン国内では自分たちの国を過激派組織IS=イスラミックステートやアルカイダなどテロ組織から守ってきた英雄として扱われている。イラン国民から見ると自分たちを守ってきた人をアメリカが殺したことになる」と指摘しました。
そのうえで「アメリカを標的とした反撃に出る可能性は非常に高い。イラン国内でアメリカへの主戦論の声が強くなる」と述べ、イランが軍事的な対抗措置に乗り出す可能性が高いという見方を示しました。
またアメリカが最高指導者ハメネイ師、そして国民からの信頼も厚い実力者の殺害に踏み切ったことについて「このレベルのイランの軍人を直接、殺害するのは初めてだ」として極めて異例な事態だと分析しました。
そのうえで「力で物事を理解させようというトランプ政権の対応そのものがあらわれた。中東にある爆弾の導火線にアメリカが火をつけた格好になった」と述べ、両国の対立は軍事的な衝突の危険がある新たな段階に入ったという見方を示しました。
田中教授は「2020年早々に新たな中東の不安定が拡大していくことになった」として、今回のアメリカによるイランの司令官殺害を機に、今後、中東情勢のさらなる不安定化は避けられないという見通しを示しました。
中国外務省 特にアメリカに自制呼びかける
中国外務省の耿爽報道官は3日の記者会見で、イランの精鋭部隊、革命防衛隊の司令官が攻撃を受けて死亡したことについて質問されたのに対し「中国は国際関係のうえで武力を使用することには一貫して反対してきている。関係各国、特にアメリカには、冷静さを保ち、緊張をこれ以上エスカレートさせないよう促す」と述べ、さらなる衝突につながらないよう、特にアメリカに対して自制を呼びかけました。
米とイラン 最近の情勢
アメリカとイランの対立は、この1週間で一気に緊迫の度合いを高めました。
きっかけとなったのが先月27日のイラクでのアメリカ軍の兵士らに対する攻撃でした。
国防総省によりますとアメリカ軍も展開するイラク北部の基地が30発以上のロケット弾で攻撃され、アメリカ国籍の民間人1人が死亡し、アメリカ軍の兵士4人がけがをしました。
アメリカ軍は2日後の29日に報復措置に乗り出します。
標的としたのが今回、殺害したソレイマニ司令官率いる精鋭部隊「コッズ部隊」と強いつながりを持つとするイスラム教シーア派の武装組織「カタイブ・ヒズボラ」でした。
アメリカ軍はこの武装組織がイランからアメリカ軍主導の有志連合に対する攻撃への支援を受けていたとして、イラクやシリア国内の武器庫や指揮所など5つの拠点を空爆しました。
この攻撃に今度はこの武装組織を支持する民兵らが反発し、2日後の先月31日からイラクの首都バグダッドにあるアメリカ大使館の前で激しい抗議デモを仕掛けます。このデモで大使館の窓ガラスが割られ、一時、襲撃も懸念される騒然とした事態に発展し、トランプ大統領は31日、ツイッターに「われわれの施設で死者が出たら、イランが全面的に責任を負う。イランは非常に『大きな代償』を支払うだろう。これは警告ではなく脅しだ」と投稿し、イランを強くけん制しました。
さらにエスパー国防長官は31日、「バグダッドなどでアメリカ人や施設に対する脅威のレベルが上がっている」として、750人規模の部隊を直ちに中東地域に派遣すると発表しました。
トランプ大統領は記者団に対し、「今回はベンガジのようなことにはならない」と述べて、2012年に多くの犠牲者を出したリビアのベンガジにあるアメリカ領事館の襲撃事件に言及し、当時、厳しく批判されたオバマ政権の対応との違いを強調しました。
アメリカ大使館前でのデモは今月1日、民兵グループの指導層がデモ隊に引き揚げるよう呼びかけたことで収束しましたが、エスパー国防長官は翌2日、記者団に対し「イランやイランが支援する勢力が追加攻撃を計画している可能性を示すいくつかの兆候がある」との見方を明らかにしました。
そのうえで「もし攻撃の通告や何らかの兆候があれば、アメリカ軍や国民の命を守るため先制攻撃をする」と述べて、アメリカ軍の防衛のための先制攻撃も辞さない方針を示していました。