アメリカがＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやく破棄はきへ ポイントは？

中距離ちゅうきょり核ミサイルかくみさいる全廃ぜんぱい条約じょうやくとは

射程しゃていが500キロから5500キロの地上ちじょう発射はっしゃ型がたの弾道だんどうミサイルと巡航じゅんこうミサイルの保有ほゆうと製造せいぞう、発射はっしゃ実験じっけんなどを禁止きんしする内容ないようで、失効しっこう期限きげんはありません。

ＩＮＦ＝中距離ちゅうきょり核ミサイルかくみさいる全廃ぜんぱい条約じょうやくが調印ちょういんされたのは、32年ねん前まえの1987年ねんのことです。核兵器かくへいきをめぐって、アメリカと旧きゅうソビエトが激はげしくせめぎ合あうなか、７なな年ねんにわたる断続だんぞく的てきな協議きょうぎの結果けっか、調印ちょういんにこぎつけました。

アメリカと旧きゅうソビエトはこれによって、合あわせて2600基き以上いじょうの核ミサイルかくみさいるを廃棄はいきし、核軍縮かくぐんしゅくの大おおきな流ながれをつくりました。

超ちょう大国たいこくが初はじめて特定とくていの核兵器かくへいきの全廃ぜんぱいで合意ごういしたこの条約じょうやくは、東西とうざい冷戦れいせんの終結しゅうけつにつながる緊張きんちょう緩和かんわをもたらしたとして、歴史れきし的てきに高たかく評価ひょうかされています。

アメリカが条約じょうやくを破棄はきする理由りゆうは

アメリカの判断はんだんの背景はいけいには大おおきく３みっつの理由りゆうがあります。

まず、ロシアの核兵器かくへいきに対にたいする強つよい危機きき感かんです。アメリカは去年きょねん、策定さくていした核かく戦略せんりゃくで、ロシアのＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやく違反いはんを主張しゅちょうし、是正ぜせいを迫せまるために、外交がいこう、経済けいざい、軍事ぐんじの分野ぶんやで対抗たいこう措置そちをとると警告けいこくしていました。アメリカはロシアが局地きょくち戦せんのために開発かいはつした「戦術せんじゅつ核かく」を大幅おおはばに増強ぞうきょうし、限定げんてい的てきな核かく攻撃こうげきも辞じさない構かまえを見みせていると指摘してき。対抗たいこう措置そちとして「低てい出力しゅつりょく核かく」と呼よばれる威力いりょくを抑おさえた核かく弾頭だんとうを搭載とうさいした巡航じゅんこうミサイルの開発かいはつを目指めざす方針ほうしんを示しめしています。

次つぎに、核軍縮かくぐんしゅくの合意ごういが有名ゆうめい無実むじつ化かすることへの懸念けねんです。条約じょうやく違反いはんを放置ほうちすれば実効じっこう性せいが損そこなわれ、将来しょうらいの軍備ぐんび管理かんりの在り方ありかたにも悪影響あくえいきょうを与あたえると懸念けねんを示しめしています。

３みっつめが核かく戦力せんりょくを強化きょうかする中国ちゅうごくの存在そんざいです。ＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやくがロシアとの２に国こく間かん条約じょうやくのため、ほかの核かく保有ほゆう国こくの中距離ちゅうきょり核ミサイルかくみさいるの保有ほゆうや開発かいはつを制限せいげんできないことも問題もんだい視ししているのです。条約じょうやくに縛しばられない中国ちゅうごくは、中距離ちゅうきょりミサイル能力のうりょくを急速きゅうそくに向上こうじょうさせていて、アメリカとしては国際こくさい的てきな議論ぎろんを喚起かんきし、中国ちゅうごくやほかの核かく保有ほゆう国こくを巻き込まきこんだ新あらたな軍備ぐんび管理かんりの枠組わくぐみづくりにつなげたいねらいもあるとみられます。

アメリカが条約じょうやく違反いはんと主張しゅちょうするミサイル

アメリカが条約じょうやく違反いはんにあたると主張しゅちょうしているのは、ロシアが開発かいはつした新型しんがたの巡航じゅんこうミサイル「９きゅうＭめが729」です。

欧米おうべいでは「ＳＳＣ８はち」と呼よばれ、2008年ねんごろから発射はっしゃ実験じっけんが行おこなわれて、少すくなくとも国内こくないの２ふたつの部隊ぶたいに配備はいびされたと見みられ、ロシア軍ぐんは2017年ねんの軍事ぐんじ演習えんしゅうで実際じっさいに発射はっしゃしたことを認みとめています。

ロシアはこのミサイルの射程しゃていは480キロで、ＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやくの対象たいしょうとなる射程しゃてい500キロ以上いじょうの中距離ちゅうきょりミサイルではないとして、条約じょうやく違反いはんにはあたらないと反論はんろんしています。

しかし、アメリカは開発かいはつ段階だんかいから違反いはんの可能かのう性せいを指摘してきし、2014年ねんに正式せいしきに違反いはんと認定にんてい。ロシア側がわに30回かい以上いじょう、条約じょうやくの順守じゅんしゅを求もとめるとともに、ミサイルの廃棄はいきを要求ようきゅうしてきました。

ロシアは条約じょうやく維持いじの立場たちば

ロシアは条約じょうやく違反いはんを強つよく否定ひていしたうえで「アメリカが条約じょうやくを破棄はきして中距離ちゅうきょりミサイルの開発かいはつを本格ほんかく化かすれば、世界せかい規模きぼでミサイルの軍拡ぐんかく競争きょうそうが始はじまる」と指摘してき。ＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやくを維持いじすべきだという立場たちばを示しめしてきました。

背景はいけいにあるのは、新あらたな軍拡ぐんかく競争きょうそうによって軍事ぐんじ費ひの拡大かくだいを強しいられ、財政ざいせい的てきに厳きびしい状況じょうきょうに追い込おいこまれるという危機きき感かん、そして核ミサイルかくみさいる能力のうりょくを急速きゅうそくに高たかめる中国ちゅうごくの軍事ぐんじ力りょくがさらに増大ぞうだいすることへの警戒けいかい感かんです。

プーチン大統領だいとうりょうは去年きょねん、「核兵器かくへいきを使用しようするハードルは下さがる傾向けいこうにある。ハードルの低下ていかは、世界せかいを核かくによる破滅はめつに導みちびきかねない」とアメリカを非難ひなんしたうえで、中国ちゅうごくなどを念頭ねんとうにアメリカとロシア以外いがいのミサイル保有ほゆう国こくも参加さんかする新あらたな条約じょうやくの策定さくていを呼よびかけました。

一方いっぽうで、ロシアは地域ちいき紛争ふんそうへの欧米おうべいの介入かいにゅうを封じ込ふうじこめるため、核かくの先制せんせい使用しようも辞じさない考かんがえを示しめし、ＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやくの対象たいしょうとはならない短距離たんきょりミサイルなどの小型こがたの核かく戦力せんりょくの増強ぞうきょうを急いそいでいます。

ロシアとしては、自国じこくの軍事ぐんじ力りょくの増強ぞうきょうを図はかりながら、対外たいがい的てきには軍備ぐんび管理かんりに前向まえむきな姿勢しせいを強調きょうちょうすることで、核軍縮かくぐんしゅくをめぐる国際こくさい世論せろんを高たかめ、アメリカと中国ちゅうごくを抑え込おさえこみたいねらいもあるとみられます。

米べいロ以外いがいの国くにの保有ほゆう戦力せんりょくは…

世界せかいの軍事ぐんじ情勢じょうせいを分析ぶんせきしているスウェーデンのストックホルム国際こくさい平和へいわ研究所けんきゅうじょによると、ＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやくの対象たいしょうとなりえる射程しゃてい500キロから5500キロの地上ちじょう発射はっしゃ型がたの核ミサイルかくみさいるを保有ほゆうしている国くにの弾頭だんとうの数かずは、中国ちゅうごくが少すくなくとも106、パキスタンが88、イスラエルが50、インドが36となっています。

また、北朝鮮きたちょうせんも核かく弾頭だんとうを搭載とうさい可能かのうな中距離ちゅうきょり弾道だんどうミサイルを多数たすう、保有ほゆうしているとみられています。

アメリカ国防こくぼう総省そうしょうは中国ちゅうごくが保有ほゆうする地上ちじょう発射はっしゃ型がたのミサイルの95％が、ＩＮＦ全廃ぜんぱい条約じょうやくの規定きていでは廃棄はいきの対象たいしょうになるとしたうえで、「中国ちゅうごくの兵器へいきの開発かいはつは、一部いちぶの分野ぶんやですでに世界せかいをリードしている」と指摘してきして、強つよい警戒けいかい感かんを示しめしています。

これからどうなる？

アメリカは破棄はきを通告つうこくしたあとでも、６ろくか月かげつ以内いないにロシアが問題もんだいのミサイルを破壊はかいするなどの是正ぜせい措置そちをとれば、破棄はきの手続てつづきを取とりやめる方針ほうしんを示しめしています。

しかし、ロシアが巡航じゅんこうミサイルは条約じょうやく違反いはんにあたらないという立場たちばを変かえる兆きざしはなく、破棄はきを回避かいひするための打開だかい策さくは見みえていません。

また、アメリカは対抗たいこう措置そちとして新あらたに地上ちじょう発射はっしゃ型がたの中距離ちゅうきょりミサイルの研究けんきゅう、開発かいはつに着手ちゃくしゅする方針ほうしんも明あきらかにしています。この場合ばあい、ロシアが反発はんぱつするのは確実かくじつで、軍拡ぐんかく競争きょうそうへの懸念けねんが高たかまっています。