ゴーン前ぜん会長かいちょうを追つい起訴きそ 日産にっさん資金しきんを還流かんりゅうした特別とくべつ背任はいにんの罪つみ

東京とうきょう地検ちけん特捜とくそう部ぶによりますと、ゴーン前ぜん会長かいちょうは去年きょねんまでの２に年間ねんかんにオマーンの販売はんばい代理だいり店てんに、日産にっさんから支出ししゅつさせた資金しきんの一部いちぶをみずからが実質じっしつ的てきに保有ほゆうするレバノンのペーパーカンパニーに還流かんりゅうさせ５ご億おく5000万まん円えん余あまりの損害そんがいを与あたえたとして特別とくべつ背任はいにんの罪つみに問とわれています。

関係かんけい者しゃによりますと、このペーパーカンパニーの口座こうざからは前ぜん会長かいちょうの息子むすこが経営けいえいするアメリカの投資とうし関連かんれん会社かいしゃにおよそ30億おく円えんが、前ぜん会長かいちょうの妻つまが代表だいひょうを務つとめる会社かいしゃには少すくなくとも９きゅう億おく円えんがそれぞれ送金そうきんされ、日産にっさんの資金しきんが前ぜん会長かいちょう側がわに還流かんりゅうしていたことを伺うかがわせるメールのやり取やりとりも残のこされていたということです。

関係かんけい者しゃによりますとゴーン前ぜん会長かいちょうは不正ふせいを全面ぜんめん的てきに否定ひていし、特捜とくそう部ぶの調しらべに対にたいしては「時間じかんのむだだ」などとして黙秘もくひしているということです。

ゴーン前ぜん会長かいちょうが起訴きそされるのは去年きょねん11月つき以降いこう、４よん回かい目めとなり１いち年ねん近ちかく続つづいた特捜とくそう部ぶの一連いちれんの捜査そうさは大おおきな区切くぎりを迎むかえました。

一方いっぽう、弁護べんご団だんは特捜とくそう部ぶの捜査そうさを強つよく批判ひはんし、22日にちにも東京とうきょう地方ちほう裁判所さいばんしょに保釈ほしゃくを請求せいきゅうする方針ほうしんで裁判所さいばんしょが再ふたたび保釈ほしゃくを認みとめるかどうかが焦点しょうてんになります。

元もと検事けんじ「新あたらしい捜査そうさの在り方ありかた模索もさくする契機けいき」

元もと東京とうきょう地検ちけん特捜とくそう部ぶ検事けんじの高井たかい康行やすゆき弁護士べんごしは、海外かいがいが舞台ぶたいとなった今回こんかいの事件じけんについて「特捜とくそう部ぶの事件じけんでは、検察けんさつが権限けんげんを直接ちょくせつ行使こうしできる日本にっぽん国内こくないに参考さんこう人じんがいて、証拠しょうこもあり自白じはくもしっかり取とるというのがこれまでの捜査そうさのやり方やりかただったが、経済けいざい活動かつどうが国際こくさい化かし、外国がいこく人じんの経営けいえい者しゃも増ふえる中なかで、特捜とくそう部ぶが扱あつかう事件じけんの環境かんきょうが変かわり、特捜とくそう部ぶ流りゅうの捜査そうさを遂とげにくい環境かんきょうになっている。海外かいがいが舞台ぶたいで思おもうように証拠しょうこが集あつまらない事件じけんをどうやって有罪ゆうざいに持もって行いくのか、新あたらしい特捜とくそう部ぶの捜査そうさの在り方ありかたを模索もさくする契機けいきとなる事件じけんだ」と指摘してきしました。

そのうえで「特捜とくそう部ぶに不利ふりな環境かんきょうの中なかでなぜ起訴きそできたかというと、『司法しほう取引とりひき』で日産にっさんが徹底的てっていてきに捜査そうさに協力きょうりょくしたことが大おおきな要因よういんだった。重要じゅうような参考さんこう人じんが中東ちゅうとうにいる今回こんかいの事件じけんで、仮かりに日産にっさんが抵抗ていこうしていれば起訴きそは難むずかしく、『司法しほう取引とりひき』が非常ひじょうに有効ゆうこうな制度せいどだということを示しめした捜査そうさだった」と述のべました。

また、長期ちょうき間かんの勾留こうりゅうなど日本にっぽんの刑事けいじ司法しほう制度せいどに海外かいがいから批判ひはんが集あつまったことについては「刑事けいじ司法しほうに世界せかいのスタンダードがある訳わけではなく、他国たこくからどう見みられるか、あまり気きにする必要ひつようはないし、気きにしてはいけない。ただ、裁判さいばんは公正こうせいでなければならず、被告ひこくからも裁判さいばんは公正こうせいに行おこなわれたと思おもわれなければ、刑事けいじ司法しほうは機能きのうせず、海外かいがいからの信頼しんらいを確保かくほすることも必要ひつようだ。裁判さいばん員いん裁判さいばんの導入どうにゅう以降いこう、早期そうきに保釈ほしゃくを認みとめる傾向けいこうが強つよくなっているが、今回こんかいの事件じけんがその大おおきな流ながれをさらに加速かそくさせたと感かんじている」と話はなしています。

元もと裁判官さいばんかん「『身柄みがらの拘束こうそく』議論ぎろんを」

元もと裁判官さいばんかんで、法政ほうせい大学だいがく法科ほうか大学院だいがくいんの水野みずの智幸ともゆき教授きょうじゅは、ゴーン前ぜん会長かいちょうの一連いちれんの事件じけんが投なげかけた課題かだいについて、「70年ねん前まえにできた刑事けいじ訴訟そしょう法ほうに基もとづく『身柄みがらの拘束こうそく』が、このままでよいのかという点てんをあぶりだしたのが、今回こんかいの事件じけんの最大さいだいの特徴とくちょうだ」と指摘してきしました。

そのうえで「身柄みがらの拘束こうそくが何なん十じゅう日にち、何なん百ひゃく日にちと続つづくことや取り調とりしらべに弁護士べんごしが立ち会たちあえないことは、ほかの先進せんしん国こくからは問題もんだいがあるとみられている。国くにによって司法しほう制度せいどは違ちがうので、一概いちがいには比較ひかくできないという議論ぎろんもあるが、もう少もうすこし細こまかく海外かいがいの制度せいどのよい面めんや悪わるい面めんを比較ひかくし、変かえるべきところがないか、法ほう改正かいせいを含ふくめ具体ぐたい的てきに議論ぎろんすべきだ」と述のべました。

また、去年きょねん６月ろくがつに導入どうにゅうされ今回こんかいの捜査そうさで使つかわれた司法しほう取引とりひきについては「捜査そうさの有効ゆうこうな手段しゅだんになるのは確たしかだが、誰だれを協力きょうりょく者しゃにして誰だれをターゲットにするかの判断はんだんは難むずかしく、今回こんかいの事件じけんでも協力きょうりょく者しゃの選定せんていの在り方ありかたにはいろいろな意見いけんがあると思おもう」と述のべました。

そのうえで「ターゲットにされた側がわにも反論はんろんは当然とうぜんあると思おもうので、いきなり逮捕たいほされ身柄みがらの拘束こうそくが長期間ちょうきかん続つづくというのはあまり適当てきとうではない。当初とうしょの見込みこみだけで突っ走つっぱしると、捜査そうさが一いち面めん的てきになるおそれがある」と指摘してきしました。

ＮＹにゅ-よ-く州しゅう弁護士べんごし「事実じじつであればかなり悪質あくしつ」

アメリカ・ニューヨーク州しゅうの弁護士べんごしで、上智じょうち大学だいがく法学部ほうがくぶのスティーブン・ギブンズ教授きょうじゅは、一連いちれんの事件じけんについて「最初さいしょの２ふたつの事件じけんは有価ゆうか証券しょうけん報告ほうこく書しょで将来しょうらいもらう報酬ほうしゅうを十分じゅうぶん、開示かいじしなかった、為替かわせリスクを一時いちじ、日産にっさんに負担ふたんしてもらったというもので、わりとテクニカルな違反いはんだった。しかし、オマーンルートの特別とくべつ背任はいにん事件じけんは、日産にっさんの資金しきんを私物しぶつ化かしたという内容ないようで、事実じじつであればかなり悪質あくしつだ」と指摘してきしました。

そのうえで「４よん回かい目めの逮捕たいほ後ごもゴーン前ぜん会長かいちょうや夫人ふじんは潔白けっぱくを主張しゅちょうしているが、非常ひじょうに抽象ちゅうしょう的てきで、世の中よのなかの見方みかたも変かわってきた。不正ふせいが事実じじつであれば、ゴーン前ぜん会長かいちょうに関にかんする見方みかたが元もとに戻もどるのは難むずかしいと思おもう」と述のべました。

一方いっぽう、長期ちょうき間かんの勾留こうりゅうを含ふくめた捜査そうさの手法しゅほうについては「今回こんかいの事件じけんは検察けんさつがわりと薄うすい根拠こんきょでゴーン前ぜん会長かいちょうを逮捕たいほし、逮捕たいほしてから調査ちょうさするという順番じゅんばんになったと思おもう。検察けんさつ側がわは捜査そうさの結果けっかに満足まんぞくしていると思おもうが、アメリカでは容疑ようぎ者しゃを調しらべるために、拘束こうそくすることは憲法けんぽう違反いはんで、日本にっぽんの法律ほうりつも建て前たてまえではそうなっている。結果けっかがよければ手段しゅだんは何なにでもよいというご都合主義ごつごうしゅぎ的てきな考え方かんがえかたはよくないと思おもう」と批判ひはんしました。

また、今回こんかいの捜査そうさで使つかわれた司法しほう取引とりひきについては、「アメリカでは検察けんさつが大物おおものを摘発てきはつするために、関与かんよの小ちいさい人物じんぶつを情報じょうほう源げんにするための武器ぶきとして使つかうのが通常つうじょうだ。今回こんかいの事件じけんは日産にっさんの経営けいえい陣じんが防御ぼうぎょのために検察けんさつに資料しりょうを提供ていきょうしたもので、通常つうじょうのパターンとは正せい反対はんたいだ。日本にっぽんの検察けんさつが今後こんご、司法しほう取引とりひきをどのように使つかっていくのか、関心かんしんを持もつべきだ」と指摘してきしました。