水面に浮かべる遊具には安全基準がなく、プールの管理会社は利用者に救命胴衣を着用させ複数の監視員も配置していましたが、「遊具の下への潜り込みは想定していなかった」と説明していることが関係者への取材で分かりました。
警視庁によりますと、事故当時、監視員が水中に潜って遊具の下を確認したのは森本さんを探し始めてからおよそ1時間後だったということです。専門家は遊具の下に子どもの体が入ってしまうリスクを広く共有して安全対策を進めるべきだと指摘しています。
安全工学が専門で子どものプール事故にも詳しい東京工業大学の西田佳史教授は「水面に光が反射すると水中を見通せなくなり、プールサイドからの監視だけでは不十分な場合がある。大型の遊具を浮かべる際は、水中を常に見守る仕組みが必要だ」と話しています。
類似事故で娘亡くした父親「教訓が共有されていない」
今回の事故と同じように、水面に物を浮かべたため死角が広がったプールでは過去にも死亡事故が起きていました。遺族は関係者の間で教訓が共有されていなかったのではないかと話しています。
東京 杉並区の宮崎泰児さん(69)は19年前、小学1年生だった娘の紗也子さんを学校のプール事故で亡くしました。事故が起きたのは水泳の授業中で4人の教員が見守る中、およそ120人の児童がプールに入っていましたが、水面に畳1畳分ほどの大型のビート板などを複数浮かべていて、死角が広がっていたということです。
杉並区教育委員会は紗也子さんの事故のあと検証を行い、学校のプールでは水面に浮かべる大型の遊具などを使わないなどとする手引きをまとめていました。
宮崎さんは今回の事故について、「娘と同じ事故がまた起きたかと思った。学校と遊園地という違いはあるが、プールに遊具を浮かべると大きな死角が生まれ、監視の目が届きにくいという点では同じで、過去の事故の教訓が関係者の間で共有されていなかったのではないか」と話しています。
そのうえで、「小さな子どもが遊ぶ際の危険性について施設は安全への配慮をもっとすべきだと思う。今回の事故を一過性のものとしないで、しっかりと原因を究明し、得られた情報を今後に生かしてほしい」と話しています。
教訓生かす専門家の取り組みも
事故で得られた教訓を安全対策につなげようという専門家による取り組みも進められています。
子どもの事故を防ぐ活動に取り組むNPO法人「Safe Kids Japan」では今回のような遊具をめぐる事故の事例を集めて分析を行っています。
インターネットを通じて事例の情報提供を呼びかけたところ、今回の事故のあとも、プールに浮かべた遊具から飛び降りて骨折するケースが報告されたということです。
小児科医や大学教授などのメンバーが検証を重ねていて、水上で遊具を利用する際の注意事項などを今後まとめ、再発防止を呼びかける方針です。
27日、東京 目黒区の東京工業大学で開かれた会合では今回の事故について改めて意見が交わされました。出席者からは、遊具そのものが大きく、子どもの体が下に入り込んでしまった場合、姿が全く見えなくなるとか、子どもが水中に転落した際に遊具に上がるための階段のようなものがないといった点が指摘されました。
そのうえで当時プールにいた子どもの数に比べると監視員の数は十分ではなく、監視員を配置していた場所やその高さについてももう少し考える必要があるとか、見失った時に備えて位置が分かるような装置をつけられないかといった意見が上がっていました。
NPO法人によりますと、水上に浮かべる遊具は近年、急速に普及していますが、安全基準や指針がないため、安全対策は設置するそれぞれの施設に任されているということです。
小児科医でもあるNPO法人の山中龍宏理事長は「このままでは同じような事故がまた起こってしまう。これまでにも利用中にけがをしたり、子どもが溺れたりしたという事例はあったはずで、そうした情報をまとめて共有したうえで対策を進めるべきだ」と話しています。