ウクライナ 地下ちか壕ごうから詠よむ 平和へいわの句く

世界せかい40か国かこくから寄よせられ、英語えいごやフランス語ふらんすごなどで詠よまれた句くには、平和へいわへのメッセージが込こめられています。

企画きかくした俳人はいじんの黛まゆずみまどかさんは、展示てんじに平和へいわへの願ねがいを託たくしていました。

「俳句はいくは世界せかいでいちばん短みじかい文学ぶんがくです。でも、小ちいさな詩しが大おおきなかたまりになり、そして大おおきな言霊ことだまになって、争あらそいを止とめる一助いちじょになればいいと思おもいます」

短みじかい句くの中なかに複雑ふくざつな思おもいや情景じょうけいが込こめられていることに深ふかく感動かんどうしたウラジスラバさん。

その日ひから、およそ10年ねんにわたって俳句はいくを詠よみ続つづけてきました。

ところが、22歳さいの去年きょねん2月つき、ロシアが軍事ぐんじ侵攻しんこうを開始かいし。

当時とうじ、ウラジスラバさんは、ロシアとの国境こっきょうに近ちかい、ウクライナ東部とうぶのハルキウに住すんでいました。

明け方あけがたの午前ごぜん4時じ、爆弾ばくだんの音おとで目めを覚さまし、すぐさま両親りょうしんと愛犬あいけんとともに、地下ちか壕ごうに避難ひなんします。

そこから、地下ちかでの生活せいかつが始はじまりました。

「はじめは十分じゅうぶんな食料しょくりょうもなく、満足まんぞくに横よこになり眠ねむるスペースすらありませんでした。地下ちか壕ごうは人ひとがいっぱいで、みんな恐怖きょうふにかられていました。過酷かこくな時間じかんでした」

近所きんじょの家族かぞくと肩かたを寄よせ合あい、身みを守まもる生活せいかつ。

それでも無邪気むじゃきに遊あそぶ子こどもたちの姿すがたに、ウラジスラバさんは心こころを打うたれたと言いいます。その光景こうけいを句くにしたためています。

「地下ちか壕ごうに 紙かみ飛行機ひこうきや 子こらの春はる」

「俳句はいくを詠よむということは、私わたしにとって、日記にっきを書かくことに似にています。自分じぶんの生活せいかつが地下ちか壕ごうに移うつった時とき、俳句はいくを詠よむことで戦争せんそうの記憶きおくや感情かんじょうを、自分じぶんなりに受け止うけとめようとしたんだと思おもいます。この日々ひびを句くとして詠よむことで、後ごに世界せかいの人ひとたちにも共有きょうゆうできると思おもったんです」

この海外かいがいの俳句はいくとはどのようなものなのでしょうか。

俳句はいくは、アルファベットで「HAIKU」とも表あらわされます。

松尾まつお芭蕉ばしょうや小林こばやし一茶いっさなどの俳句はいくが海外かいがいの言語げんごに訳やくされる中なか、徐々じょじょに広ひろがりを見みせていきました。

最大さいだいの違ちがいは、5－7－5のリズムが、「音節おんせつ」で示しめされる点てんです。

例たとえば、ウラジスラバさんが詠よんだ句く。

「地下ちか壕ごうに 紙かみ飛行機ひこうきや 子こらの春はる」

英語えいごでは、

Children are playing

Flying their paper airplanes

In the bomb shelter.

この句くを音節おんせつに分わけると、

Chil／dren／ are／ play／ing（5）

Fly／ing／ their／ pa／per／ air／planes（7）

In／ the／ bomb／ shel／ter.（5）

必かならずしも「季語きご」を含ふくまなくても、季節きせつを感かんじさせる言葉ことばがあればいいともされるほか、5－7－5でなくても、近ちかい形かたちで韻いんを踏ふんでいればよいとする人ひともいるということです。

ウクライナでは子こどもたちに俳句はいくを教おしえている学校がっこうもあるということで、世界せかいでファンを増ふやしています。

みずからの俳句はいく集しゅうを作つくりたいという願ねがいです。

黛まゆずみさんに、俳句はいくとともに、この思おもいを込こめて、メールで送信そうしんしました。

そこから、いくつかの日本語にほんごの句くの案あんをもとに、最終さいしゅう的てきな句くとして整ととのえていきます。

この日ひは、戦たたかいが始はじまって、離散りさんして国くにを離はなれていくという情景じょうけいを表現ひょうげんした句くについて、議論ぎろんしました。

何なにがふさわしい表現ひょうげんか、参加さんかしたメンバーで意見いけんが分わかれました。

「離散りさんしていく人ひとたちが花吹雪はなふぶきということばで伝つたわってくる」

「『離れ離はなればなれ』というところに親したしい人ひとが別わかれていくというのが分わかる」

黛まゆずみさん

「桜さくらはこんなにきれいに咲さいているのに、でもそれも見みることもなく親したしい人ひとが別わかれていく、その切せつなさが表現ひょうげんされている」

最後さいごに、離はなればなれの状況じょうきょうは続つづいているという意味いみを込こめて、継続けいぞくの「ゆ」を使つかい、「なりゆけり」とまとめました。

「さくらさくら 離れ離はなればなれに なりゆけり」

ウラジスラバさんは、台所だいどころの引き出ひきだしで偶然ぐうぜん見みつけたにんにくの芽めが吹き出ふきでる様子ようすに、つらい状況じょうきょうにも希望きぼうを失うしなわない気持きもちを詠よみました。

暗くらがりに輝かがやく命いのちを見みいだした瞬間しゅんかんを切り取きりとった句く。

黛まゆずみさんも称賛しょうさんしていました。

黛まゆずみさんは、句会くかいの終おわりに、呼よびかけました。

黛まゆずみさん

「俳句はいくでつながった縁えん、『俳縁えん』は血縁けつえんよりも濃こいと言いいます。私わたしたちにできることが何なにかあれば、現地げんちで足たりないもの、伝つたえたいこと、いつでも教おしえてください。春はるは必かならず来きます、私わたしも信しんじています。いつか本物ほんものの桜さくらの下したで本物ほんものの俳句はいくの会かいができることを信しんじ、祈いのっています」

「戦争せんそうの悲惨ひさんな状況じょうきょうでも、地下ちか壕ごうの中なかでも、ウラジスラバさんは美うつくしさや希望きぼうを見みいだし、句くに詠よんでいます。どんなにミサイルが飛とんでこようが、大人おとなたちが戦たたかいを続つづけようが、やはり1人にんの少女しょうじょに残のこされた尊厳そんげんだと思おもうんです。その尊とうとさを大事だいじに、1冊さつの句集くしゅうに敬意けいいを込こめて作り上つくりあげたいと思おもっています」

ウラジスラバさんは、今いま、ウクライナで避難ひなんを続つづけています。

今いまもなお続つづく戦闘せんとう。

停電ていでんの日々ひびが続つづいているといい、かつての暮くらしとは、ほど遠ほどとおい生活せいかつです。

それでも俳句はいくを詠よみ続つづけたいと前まえを向むいています。

「故郷こきょうに帰かえって仕事しごとを見みつけて、ふつうの平和へいわな生活せいかつに戻もどれる日ひを夢見ゆめみています。でもそれまでは、私わたしは手てにしたペンを武器ぶきに、俳句はいくを詠よみ続つづけるつもりです」