研究けんきゅう者しゃみずから部品ぶひん開発かいはつ 国内こくない最大さいだいの異例いれいの望遠鏡ぼうえんきょうが完成かんせい

天体てんたい観測かんそくをめぐっては、日本にっぽんと欧米おうべいでおよそ1000億おく円えんをかけて、南米なんべいチリに建設けんせつした世界せかい最大さいだいの電波でんぱ望遠鏡ぼうえんきょう「アルマ」をはじめ、より大型おおがたの望遠鏡ぼうえんきょうを各国かっこくが建設けんせつ、共同きょうどうで利用りようする形かたちが主流しゅりゅうとなっていますが、多おおくの研究けんきゅう者しゃが使つかうため、割り当わりあてられる観測かんそく時間じかんが限定げんていされるなど制約せいやくがあるのが実情じつじょうです。

このため、研究けんきゅうグループでは、より自由じゆうに観測かんそくできる環境かんきょうを求もとめ、限かぎられた予算よさんで高たかい性能せいのうの望遠鏡ぼうえんきょうを作つくろうと、部品ぶひんをみずから開発かいはつしました。

望遠鏡ぼうえんきょうの心臓しんぞう部ぶとなる鏡かがみは18枚まいの扇形せんけいの鏡かがみが組み合くみあわされていて、刀鍛冶かたなかじで知しられる岐阜ぎふ県けん関せき市しにベンチャー企業きぎょうを設立せつりつして、地場じばの加工かこう技術ぎじゅつを生いかしました。

また、鏡かがみを載のせる台座だいざも複雑ふくざつな計算けいさんに基もとづいてパイプを格子こうし状じょうに組くむことで、軽かるいのにゆがまない構造こうぞうを作り上つくりあげました。

こうした工夫くふうで建設けんせつ費ひはおよそ15億おく円えんと、同どう規模きぼの望遠鏡ぼうえんきょうの３さん分ぶんの１いち程度ていどに抑おさえることに成功せいこうしました。資金しきんは国くにの予算よさんだけでは足たりず、一部いちぶ、賛同さんどう者しゃからの寄付きふでまかなったということです。

研究けんきゅうグループでは、ブラックホールや超ちょう新星しんせい爆発ばくはつなど、宇宙うちゅうの謎なぞの解明かいめいにつながる観測かんそくに取り組とりくむほか、生命せいめいが存在そんざいする可能かのう性せいがある惑星わくせいを探さがす観測かんそくにも挑戦ちょうせんしたいとしていて、グループの京都きょうと大学だいがく、栗田くりた光ひかり樹じゅ夫おっと准じゅん教授きょうじゅは「予算よさんが限かぎられることで、みんなでアイデアを出し合だしあい、シンプルながらも高性能こうせいのうなものがつくれた。身軽みがるさを生いかして、挑戦ちょうせん的てきな研究けんきゅうを行おこないたい」と話はなしています。

インドネシアにも輸出ゆしゅつ

京都大きょうとだい学がくがつくった天体てんたい望遠鏡ぼうえんきょうは、低ていコストで高性能こうせいのうな点てんが評価ひょうかされ、インドネシアに輸出ゆしゅつされることがすでに決きまっています。

インドネシアでは標高ひょうこう1300メートルの山の上やまのうえに建設けんせつされる計画けいかくで、京都大きょうとだい学がくの研究けんきゅうグループは、日本にっぽんとインドネシアが協力きょうりょくして、北きた半球はんきゅうと南半球みなみはんきゅうから観測かんそくすることでさらなる成果せいかが期待きたいできるとしています。

ビッグサイエンスに課題かだいも

天文学てんもんがくを含ふくめ科学かがくの分野ぶんやでは、「ビッグサイエンス」と呼よばれる各国かっこくが多額たがくの予算よさんを投とうじ、大型おおがたの装置そうちをつくって研究けんきゅうを進すすめる動うごきが主流しゅりゅうになっています。

例たとえば望遠鏡ぼうえんきょうについては、日本にっぽんとアメリカ、そしてヨーロッパで、およそ1000億おく円えんをかけて南米なんべいのチリに建設けんせつした世界せかい最大さいだいの電波でんぱ望遠鏡ぼうえんきょう「アルマ」や、日本にっぽんの国立こくりつ天文台てんもんだいがおよそ400億おく円えんをかけて、アメリカ・ハワイに建設けんせつし各国かっこくの研究けんきゅう者しゃが利用りようしている「すばる望遠鏡ぼうえんきょう」などが代表だいひょう的てきなものです。

こうした多額たがくの費用ひようをかけた国際こくさい的てきなプロジェクトは、画期的かっきてきな成果せいかを出だす一方いっぽう、多おおくの研究けんきゅう者しゃが共同きょうどうで利用りようするため、提案ていあんが採用さいようされなかったり、仮かりに採用さいようされても観測かんそく時間じかんが年としに数すう日間にちかんなどとかぎられたりします。

また、多額たがくの予算よさんがつぎ込つぎこまれることで、そのほかの研究けんきゅう開発かいはつの予算よさんが圧迫あっぱくされるとの懸念けねんも一部いちぶの研究けんきゅう者しゃなどから挙あがっています。

京都大きょうとだい学がくの野上のがみ大作だいさく准じゅん教授きょうじゅは「ビッグサイエンスでできることは最先端さいせんたんだが、ビッグサイエンスだけではカバーできないこともある。観測かんそくに長ながい時間じかんを使つかえるとか、新あたらしいアイデアを試ためせるとか、そういうことができないと科学かがく全体ぜんたいの発展はってんはなく、すそ野すそのの広ひろがりは非常ひじょうに大事だいじだと思おもう」と話はなし、ビッグサイエンスとそれ以外いがいの低てい予算よさんで自由じゆうがきく研究けんきゅうとが両立りょうりつし、補完ほかんしあうことが大切たいせつだと指摘してきしています。

アイデアしだいで大おおきな成果せいか

低てい予算よさんの観測かんそくでもアイデアしだいで大おおきな成果せいかが出でています。京都大きょうとだい学がくの研究けんきゅうグループの木き邑真理子まりこさんは３さん年ねん前まえ、大学院だいがくいんの修士しゅうし１いち年生ねんせいの時ときに、ブラックホールの近ちかくで起おきた爆発ばくはつ現象げんしょうを詳細しょうさいに捉とらえることに成功せいこうし、世界せかいの注目ちゅうもくを集あつめました。

観測かんそくに使つかったのは、大学だいがくにある直径ちょっけいわずか40センチの小型こがたの望遠鏡ぼうえんきょう。世界せかいの研究けんきゅう者しゃやアマチュア天文てんもん家かにも呼よびかけ、一緒いっしょに同おなじ天体てんたいを観測かんそくし続つづけた結果けっか、爆発ばくはつの光ひかりが強つよまったり弱よわまったりする様子ようすを連続れんぞく的てきに捉とらえることに成功せいこうし、おととし、イギリスの科学かがく雑誌ざっし「ネイチャー」に掲載けいさいされ注目ちゅうもくされました。

たとえ望遠鏡ぼうえんきょうが小ちいさくても、利用りように制約せいやくが少すくなく、必要ひつような時ときにすぐに観測かんそくを始はじめて、継続けいぞく的てきに観測かんそくを行おこなえたことが大おおきな成果せいかにつながったといいます。

木き邑さんは「小ちいさい望遠鏡ぼうえんきょうでもいいから長時間ちょうじかんの観測かんそくをすることが大事だいじだということが明あきらかになったかなと思おもう」と振り返ふりかえります。

京都大きょうとだい学がくの野上のがみ大作だいさく准じゅん教授きょうじゅは「お金おかねはあまりかからないが、アイデアを皆みなで共有きょうゆうして、世界中せかいじゅうから参加さんかできる形かたちを整ととのえて、これまでできなかったことを成し遂なしとげた。今後こんごは大学だいがくが自前じまえの3.8ｍめ-とる望遠鏡ぼうえんきょうを持もつことで、より長ながい観測かんそく時間じかんを確保かくほできるし、爆発ばくはつが起おきた直後ちょくごからより詳くわしく観測かんそくができる。とにかく宇宙うちゅうは広ひろくて、われわれの予想よそうを超こえるものを見みせてくれるので、本当ほんとうに楽たのしみだ」と話はなしています。