幻まぼろしの裸婦らふ画が「眠ねむり」120年ねんぶりに公開こうかい 黒田くろだ清輝きよてるの師匠ししょうの作品さくひん

「眠ねむり」は、黒田くろだ清輝きよてるが、フランス留学りゅうがく中ちゅうに師事しじしたフランス人じん画家がか、ラファエル・コランの作品さくひんで、裸はだかの女性じょせいが草原そうげんに寝ねそべっている様子ようすが描えがかれています。

1900年ねんのパリ万博ばんぱくで展示てんじされて以来いらい、所在しょざいがわからなくなり、幻まぼろしの作品さくひんと言いわれていましたが、4年ねん前まえ、日本にっぽんの学芸がくげい員いんがフランスで所在しょざいを確認かくにんし、14日にちから神奈川かながわ県けん箱根はこね町まちのポーラ美術館びじゅつかんで開ひらかれる展覧てんらん会かいで120年ねんぶりに公開こうかいされます。

会場かいじょうには、黒田くろだが「眠ねむり」を参考さんこうにして描えがいたとされる「野辺のべ」という作品さくひんが隣となりどうしに展示てんじされ、作品さくひんを見比みくらべることができるようになっています。

構図こうずはほぼ一緒いっしょですが、「眠ねむり」では白しろい肌はだの女性じょせいが無む防備ぼうびに脇わきを見みせながら熟睡じゅくすいし、私的してきで親密しんみつな空間くうかんをのぞき見みているような印象いんしょうを与あたえるのに対にたいして、「野辺のべ」は、黄色きいろがかった肌はだの女性じょせいが、はっきりと目めを開ひらいて、視線しせんを左手ひだりてに持もつ花はなに向むけています。

19世紀せいきから20世紀せいきにかけて日本にっぽんでは、女性じょせいの裸体らたいを描えがいた絵画かいがは「春画しゅんが」と見みなされ不ふ道徳どうとくだと批判ひはんをうけていましたが、黒田くろだは日本にっぽんに受け入うけいれられる表現ひょうげんを模索もさくしていたことが読み取よみとれるということです。

展覧てんらん会かいを企画きかくしたポーラ美術館びじゅつかんの山やま塙はなわ菜さい未み学芸がくげい員いんは「2つの作品さくひんを見比みくらべることで黒田くろだが西洋せいよう的てきな裸婦らふ像ぞうをそのまま踏襲とうしゅうするのではなく、日本にっぽん独自どくじの裸婦らふ像ぞうの条件じょうけんを模索もさくし、細こまかい創意そうい工夫くふうを重かさねたことがわかる」と話はなしています。

この展覧てんらん会かい「Connections」は、11月つき14日にちから来年らいねん4月つき4日にちまで、神奈川かながわ県けん箱根はこね町まちのポーラ美術館びじゅつかんで開ひらかれています。

黒田くろだ清輝きよてるとは

黒田くろだ清輝きよてるは、明治めいじから大正たいしょうにかけて活躍かつやくした画家がかで、明あかるい日光にっこうを取り入とりいれた日本にっぽんの洋画ようがのスタイルを確立かくりつしたことから「近代きんだい洋画ようがの父ちち」と呼よばれています。

17歳さいでフランスに留学りゅうがくしたあとラファエル・コランに師事しじして印象派いんしょうは的てきな表現ひょうげんを学まなび、明治めいじ26年ねんに帰国きこくしたあとは美術びじゅつ団体だんたいの立たち上あげや美術びじゅつ学校がっこうで教きょうべんをふるい、日本にっぽんの洋画ようが界かいをけん引けんいんしました。

黒田くろだと裸体らたい画が論争ろんそう

明治めいじ26年ねん、黒田くろだはフランスから帰国きこく後ご、西洋せいよう美術びじゅつの重要じゅうような主題しゅだいの1つの裸体らたい画がを日本にっぽんに根ねづかせようと次々つぎつぎに裸はだかの女性じょせいを描えがいた絵えを発表はっぴょうしていきました。

しかし、明治めいじ28年ねん、鏡かがみの前まえで身支度みじたくする裸はだかの女性じょせいを描えがいた「朝あさ妝」（ちょうしょう）が「風俗ふうぞくを乱みだすもの」として批判ひはんされます。

この作品さくひんを当時とうじの日本人にっぽんじんが展示てんじ会かいで眺ながめる様子ようすを描えがいた風刺ふうし画がには、ぽかんと口くちをあけた老人ろうじんや熱心ねっしんにスケッチする少年しょうねん、顔かおを隠かくす女性じょせいや熱心ねっしんに尻しりを見みつめる男性だんせいなど驚おどろきのまなざしで見入みいる人ひとたちの姿すがたが描えがかれています。

さらに、明治めいじ34年ねんに発表はっぴょうした座すわる全裸ぜんらの女性じょせいを描えがいた「裸体らたい婦人ふじん像ぞう」では、展示てんじされた絵えの上うえに警察けいさつが布ぬのをかぶせて下半身かはんしんを隠かくしたことから、世論せろんを騒さわがせ、これは「腰巻こしまき事件じけん」と呼よばれています。

黒田くろだが師匠ししょうのラファエル・コランの「眠ねむり」を参考さんこうに、工夫くふうを重かさねて制作せいさくした「野辺のべ」は、こうした裸婦らふ表現ひょうげんが日本にっぽんで受け入うけいれられていく、契機けいきとなりました。

「野辺のべ」に見みる黒田くろだの工夫くふう

師匠ししょうであるラファエル・コランの「眠ねむり」を参考さんこうにして「野辺のべ」を制作せいさくした黒田くろだ清輝きよてる。

美術びじゅつ史しに詳くわしい女子じょし美術びじゅつ大学だいがくの三谷みたに理さとし華はな特とく任にん教授きょうじゅは、2つの作品さくひんの比較ひかくから黒田くろだが日本にっぽんで裸婦らふ表現ひょうげんを受け入うけいれてもらうのに模索もさくを重かさねた形跡けいせきが読み取よみとれると言いいます。

2つの作品さくひんは、上半身じょうはんしんだけかかれた裸はだかの女性じょせいが草原そうげんの上うえで寝ねそべっているという構図こうずがほぼ同おなじですが、「眠ねむり」では女性じょせいが無む防備ぼうびに脇わきを見みせながら熟睡じゅくすいし、私的してきで親密しんみつな空間くうかんをのぞき見みているような印象いんしょうを与あたえるのに対にたいして、「野辺のべ」は、はっきりと目めが開ひらかれ視線しせんは左手ひだりてに持もつ花はなに向むけられています。

また、「眠ねむり」ではフランスでしばしば描えがかれていた触感しょっかん的てきな刺激しげきで官能かんのう性せいを高たかめる「毛皮けがわ」が腰こしにかぶせられていますが、「野辺のべ」では女性じょせいは腰こしの辺あたりで赤あかい布ぬのに右手みぎてを添そえています。

さらに「眠ねむり」では西洋せいよう人じんの白しろい肌はだが強調きょうちょうされて描えがかれていますが、「野辺のべ」は肌はだの色いろに黄色きいろや茶色ちゃいろが混まぜられ、日本人にっぽんじんを描えがこうとしていることがわかります。

黒田くろだがあえて下半身かはんしんを描えがいていない絵画かいがを参照さんしょうし、肉体にくたいを強調きょうちょうせずに物語ものがたり性せいや叙情じょじょう性せいを持もたせることで裸はだか＝不ふ道徳どうとくという当時とうじの社会しゃかい的てき通念つうねんを乗り越のりこえるような裸婦らふの表現ひょうげんを確立かくりつしていったのではないかと考かんがえられるということです。

三谷みたに特とく任にん教授きょうじゅは、「作品さくひんの違ちがいによって日本にっぽんの裸婦らふ表現ひょうげんの変化へんかの節目ふしめが読み取よみとれる。『眠ねむり』は日本にっぽん近代きんだいの洋画ようがや裸婦らふ表現ひょうげんを検証けんしょうする上うえでとても重要じゅうような作品さくひんで、今後こんご研究けんきゅうがより進すすむことを期待きたいしたい」と話はなしています。