溶接の器具を正しく設置しなかったため、電流が予期しない場所へ流れる「迷走電流」が発生し、倉庫の壁の断熱材に熱が伝わって火が出た疑いがあるということです。ことし2月、東京・大田区の大手食品会社の子会社「マルハニチロ物流」の倉庫で火災があり、荷物の搬入や工事のため、出入りしていた業者の3人が死亡しました。
警視庁が安全管理に問題がなかったか捜査した結果、屋上で行われていた配管の溶接作業で、溶接の器具を正しく設置しなかったため倉庫の壁の断熱材に熱が伝わって火が出た疑いがあることがわかったということです。
警視庁によりますと、溶接の器具の電流を正しい場所に流すため、本来は「渡り」と呼ばれる金属の棒を配管の間に通すなどの必要がありましたが、これを怠ったことから、電流が予期しない場所へ流れてしまう、「迷走電流」が発生したということです。
そして、溶接場所からおよそ20メートル離れた倉庫の壁に電流の熱が伝わり、断熱材から火が出たとみられるということです。
警視庁は作業を行っていた64歳の作業員を業務上過失致死などの疑いで書類送検しました。
作業員は40年以上の溶接工の経験がありましたが、調べに対し「『渡り』を設置するのを忘れた可能性がある」と説明しているということです。
識者「迷走電流、今回は氷山の一角」
配管の溶接作業に詳しい、中央労働災害防止協会の加藤雅章さんは、今回の火災の原因とみられる「迷走電流」について「火災にまで発展するのはまれだが、その手前の事例は気付いていないだけでたくさんあるのではないか。今回は氷山の一角だ」と指摘しています。
また、今回の火災では、溶接を行っていた屋上から離れた倉庫の壁に電流の熱が伝わって出火したとみられ、ほかの階にいた人たちは気付きにくかったのではないかとしたうえで、「火が激しく燃え出してから初めて気がついた人もいると思われる。出入りする業者に対しても工事していることを伝え、危機意識を共有しておく必要がある」と話していました。
遺族「逃げてくれれば…」
今回の火災で死亡した男性の妻は警視庁から当時の状況について説明を受けたということで、「夫は出火した際、最上階の5階で初期消火にあたるなか、火災に巻き込まれたと聞きました。正義感が強い人なので初期消火にあたってしまうのは、しかたないと思いますが、逃げてくれればよかったのにと思わざるをえないです」と話しました。
そのうえで「夫は長期の出張で家にいないことが多かったため、いまだに夫が亡くなった実感がなく、いつかふらっと帰ってくるのではないかと思ってしまいます。家族として今回のような火災は絶対に再発してほしくないと願います」と話していました。