これを受けて、中国政府も直ちにアメリカからの輸入品、545品目に25%の関税を上乗せする報復措置を発動しました。
対象はアメリカ産の大豆や牛肉などの農産品や自動車が含まれます。
米中ともに金額にしておよそ340億ドル、日本円で3兆7000億円余りの製品に関税をかけあいます。
両国は今後、関税をかける対象を500億ドル、日本円で5兆5000億円まで広げる方針で、米中がぶつかり合う貿易摩擦はますますエスカレートしていく見通しです。
米中の対立で中国に電子部品や工作機械などを輸出している日本企業への影響も懸念されます。
さらにトランプ政権は、今回の中国への制裁にとどまらずアメリカに入ってくる日本やヨーロッパの輸入車にも高い関税をかけるかどうか検討しており、日本企業に警戒感が広がっています。
アメリカ製自動車への関税 影響は
アメリカの関税の引き上げに対抗して、中国はアメリカ製の自動車に25%の関税を上乗せします。
中国の外車の輸入業者はビジネスへの影響を懸念しています。
北京中心部からおよそ170キロの位置にある港湾都市、天津の自由貿易区には外車の輸入業者が軒を連ね、年間10万台以上が取り扱われています。
その1つ、張忠さんの会社では倉庫や敷地に世界の高級セダンや大型SUV=多目的スポーツ車などを1000台近く保管しています。
張さんの会社で扱う車のおよそ3分の1はアメリカからの輸入車。
中でも、トヨタ自動車がアメリカの工場で生産した大型SUVやピックアップトラックは、アメリカ車以上の売れ筋だといいます。
中国は市場開放の一環で、今月1日から輸入車の関税を25%から15%に引き下げました。
張さんの会社にも追い風になるはずでしたが、アメリカからの輸入車だけは、報復のために逆に関税が上乗せされ、40%になります。
このため人気のアメリカ製のトヨタ車の関税も上がり1台当たり、5万人民元、日本円で80万円以上負担が増えるということです。
関税の引き上げは販売価格の値上げにつながるため、割高になったアメリカの車が敬遠されるようになれば、ビジネスに大きな打撃になります。
張さんは「国どうしの貿易戦争だからわれわれは受け入れるしかないが、本当ならば今すぐにでも終わってほしい」と不安を募らせています。
日本の自動車メーカーでは日産自動車がアメリカの工場で生産した高級車を中国に輸出しています。
これも関税引き上げの対象になるため、影響は日本企業にもおよぶことになります。
対米投資見合わせの動きも
米中の貿易摩擦が激しくなり、アメリカへの投資を見合わせる動きがすでに出ています。
北京の投資ファンドは、アメリカの環境関連の大手企業やベンチャー企業に長年、投資を続けてきました。
ファンドの責任者、劉揚声さんも、排気ガスから「すす」を取り除く技術開発のプロジェクトに880万ドル、日本円で10億円近くを投じてきました。
投資によってアメリカで技術が開発され、深刻な環境問題を抱える中国にその技術が導入されれば米中双方の利益になると考えていたからです。
しかし、技術の流出を警戒するトランプ政権は貿易赤字の削減にとどまらず、中国企業などの投資を規制する動きも見せています。
こうした動きについて劉さんも、「これまでもアメリカは中国を色眼鏡で見ることはあったが、トランプ政権になってからの状況は最悪だ。今後はヨーロッパや日本、それに中国国内の投資に力を入れていく」と話し、アメリカへの投資は当面、見合わせる考えです。
中国報道官「必要な反撃 拡大は望まず」
アメリカのトランプ政権が中国製品の関税を上乗せする制裁措置を発動したことについて、中国外務省の陸慷報道官は、6日の記者会見で「アメリカの誤ったやり方はWTOのルールに公然と違反するもので、貿易秩序を攻撃し、世界経済の回復を阻害する」と述べて強く批判しました。
そのうえで「われわれはずっと貿易の問題を理性的に解決しようと最大限に努力してきたが、そのためには双方の歩み寄りが必要だ。中国の正当な利益が不当に扱われるならば、当然のことながら必要な反撃を行う」と述べ、報復措置を行ったことを明らかにしました。
一方、陸報道官は、貿易摩擦がさらに拡大することは望んでいないと強調し「アメリカが貿易のグローバル化が進んでいることを客観的に認識し、意見の違いを理性的に解決するよう望む」と述べて双方が冷静に問題を解決するべきだと訴えました。
中国企業に影響広がる
アメリカと中国の貿易摩擦が激しくなり、アメリカと取り引きのあるさまざまな中国企業に影響が広がっています。
南部の広東省広州で先月下旬に開かれた商談会では、中国製品に高い関税をかけるアメリカの制裁措置に多くの企業から反発の声が聞かれました。
大豆などの油を搾る機械を去年、アメリカ向けに4億円余り販売した浙江省のメーカーは、機械が制裁の対象になったため新たな販売先の開拓に力を入れています。
営業担当の男性は「アメリカは中国の発展を妨げたいのだろうが、おかしな話しだ。中国は自分たちの政策によって発展を遂げてきた。
今後は東南アジアやヨーロッパなどへの営業を強化したい」と話していました。
一方、中国が報復のためにアメリカ産の大豆や牛肉などに25%の関税をかけることも中国企業の打撃になっています。
広東省深センにある食肉の卸売業者はアメリカ産の牛肉が売上の40%を占め主力商品になっていましたが、関税で値上げを考えざるを得なくなりました。
しかし、取引先のステーキ食堂からは価格が上がるなら取り引きは難しいと告げられています。
このため、会社はアルゼンチン産やオーストラリア産などに変えるしかないと考え、取引先の確保に追われています。
食肉取扱業者の李鵬程さんは「貿易戦争ではみんなが傷つくが商人としてはどうすることもできない。なじみの客は買わないというし新たな肉の確保も大変で、心が落ち着かない。いい代替先を見つけたい」と話していました。(※深センは土偏に川)
「貿易縮小で日本にも影響か心配」
アメリカのトランプ政権が中国製品に25%の関税を上乗せする制裁措置を発動したことについて、日本商工会議所の三村会頭は記者団に対し、「今回の措置による直接的な日本への影響はそれほどないが、全世界の貿易が縮小して世界経済に影響が出れば、日本も大きな影響を受けるので心配している」と述べ、米中間の貿易摩擦が日本経済に与える影響に懸念を示しました。