サニブラウン選手は中盤からの力強い加速でトップに立ち、最後は競り合いを制して9秒99の1着でフィニッシュし、優勝しました。
風は追い風1.8メートルで、この記録で東京オリンピックの出場資格の1つ、参加標準記録を突破しました。
日本選手の9秒台は、おととし9月に桐生祥秀選手が9秒98の日本新記録を出して以来、2人目です。
サニブラウン選手は昨シーズンは右足の肉離れでレースから遠ざかっていましたが、復帰した今シーズンは先月、追い風参考記録ながら10秒06の好タイムをマークするなど調子を上げていました。
100メートルのおよそ1時間半前には400メートルリレーの決勝で2走を務めていましたが、疲れを感じさせない走りで自己ベストを一気に0秒06更新しました。
サニブラウン「そのうち出ると思っていた」
サニブラウン選手は「そんなに速く走っている感じはなく、掲示板を見るまでは9秒台と分からなかった。自分のやってきたことをすべてレースにつぎこんで、やるべきことをやろうと集中していたし、9秒台はそのうち出ると思っていた」と振り返りました。
そのうえで、課題としてきたスタートについては「スムーズに出られたので悪くはなかったと思う。ラストの20メートルをもっと押して行ければ、さらにいいタイムが出ると思う」と話しました。
そして、今後に向けては「まだシーズンも始まったばかりなので、これからという感じがするが、やるべきことを一歩一歩やっていって、このあとの全米大学選手権や日本選手権につなげたい」と意気込みを話しました。
将来担うスプリンター
サニブラウン アブデル・ハキーム選手は、ガーナ出身の父親と日本人の母親を持つ20歳。
1メートル88センチの体格を生かしたストライドの大きな走りが持ち味です。
16歳だった2015年に世界ユース選手権の男子100メートルと200メートルで2冠に輝き、200メートルではウサイン・ボルト選手が持っていた大会記録を更新するタイムをマークしたことで、将来を担うトップスプリンターとして世界的に大きな注目を集めました。
この年、国際陸上競技連盟の新人賞に当たる「ライジングスター・アワード」を受賞しました。
けがの影響もあってリオデジャネイロオリンピックの出場は逃しましたが、2017年の世界選手権では200メートルで史上最年少となる18歳5か月の若さで決勝進出を果たすなど、10代からめざましい活躍を見せてきました。
高校卒業後はアメリカの強豪、フロリダ大学に進学して新たな環境で競技を続け、昨シーズンは右足を痛めてレースから遠ざかりましたが、今シーズンは先月、追い風参考記録ながら10秒06の好タイムをマークするなど、100メートル9秒台に向け順調に階段を上っていました。
2人目の9秒台 その要因は?
日本陸上界初の100メートル9秒台達成から2年足らず。今回、新たな選手が再び9秒台をマークしたことで、日本の短距離陣のレベルアップが証明され、東京オリンピックでの大きな目標にまた一歩近づきました。
日本陸上界で10秒00の記録が出たのが1998年。そこから100分の1秒を縮めようという戦いは、実に19年間にわたって続きましたが、おととし、ついに桐生祥秀選手が日本選手初の9秒台となる9秒98の記録を出したことで、選手たちの意識は大きく変わりました。
10秒の壁と表現される目に見えないプレッシャーから解放され山縣亮太選手をはじめ、桐生選手のライバル選手たちが「自分もできる」という意識を持つようになったのです。
これが9秒台の記録が生み出した最大の成果でした。そのうえで、技術も大きく向上しました。
国内にライバルがひしめく環境の中で、「今の自分の走りでは勝てない」「どうすればライバルに勝てるのか」とそれぞれの選手たちは走りのレベルを上げる努力を続けたのです。
東京オリンピックを見据えサニブラウンアブデル・ハキーム選手は、アメリカの大学を拠点として、同年代の全米トップクラスの選手たちとしのぎを削る環境でトレーニングを続けてきました。
また、去年の夏には有力選手たちがヨーロッパを拠点にして海外のレースを転戦し、世界レベルの選手たちとのレースで経験を積みました。
ハイレベルな争いを続ける中で今回、2年足らずで2人目の9秒台の選手が生まれたことで、日本の短距離陣は東京オリンピック男子100メートルでの決勝進出、そして400メートルリレーでの金メダル獲得という大きな目標に、また一歩近づきました。
アメリカでの生活を語る
20歳のサニブラウン選手は、おととしからアメリカの強豪、フロリダ大学に所属して東京オリンピックを目指していて、先月、NHKの単独インタビューに応じました。
去年、右足の肉離れでシーズンの大半を治療やリハビリにあててきたサニブラウン選手にとって、ことしは復帰のシーズンになります。
これについてサニブラウン選手は「体の仕上がり具合や調子は見違えるようによく、進歩したと思う。ことしはけがなく走り終えて、来年の東京オリンピックにつなげられるようないいシーズンにしたい」と抱負を語りました。
また、アメリカでもスポーツのエリート選手が集まるフロリダ大での生活については、「練習環境や温暖な気候はもちろん、勉強、食事、生活とすべての面でアスリートのためのサポートが充実していて、毎日エンジョイできている。最初は授業を英語で聞いたり、教材が英語であったり、慣れるのに少し時間がかかったが、今は順応できたのかなと思う」と話し、確かな手応えを感じている様子でした。
そのうえで、今の課題について「スタートから最初の30メートルで、しっかり加速に乗れるような練習に重点を置いている。走り込む量も増えたし、序盤にいいスピードを積み上げていって、得意の中盤から後半につなげていけるようなレースパターンが組めればという話をいつもコーチとしている」とレース序盤の改善をポイントに挙げました。
9秒台については「タイム自体の目標はあまり設定していないが、10秒05の自己ベストは更新したい。目指すなら世界の頂点を目指したいし、焦らずに自分のやるべきことをやっていけば、おのずと見えてくると思う」と高い目標を口にしていました。