「無給医」は、大学病院などで診療をしながら研修中であることなどを理由に給与が支払われない若手の医師や歯科医師のことです。
文部科学省は、ことし1月から全国108か所の医学部や歯学部の付属病院で診療にあたっている3万人余りの医師の給与や雇用の状況について調査しました。
その結果、全国50の大学病院に2191人の無給医がいることが確認できたと28日公表しました。
内訳は順天堂大学医学部付属順天堂医院が197人、北海道大学病院が146人、東京歯科大学水道橋病院が132人などとなっています。
また、東京大学や慶應義塾大学など7つの大学病院は1304人の医師について、「調査中」と回答しました。
国が無給医の存在を認めたのは今回が初めてです。
このほか調査では、理由なく雇用契約が結ばれていなかった医師が1630人、同じく理由なく、労災保険に入っていなかった医師が1705人いたことが明らかになりました。
今回、無給医の存在を認めた50の大学病院は今後は給与を支払うよう改めるとしています。
また、国も今後、大学が取り組む改善策が適切に行われているか、確認するとしています。
無給医とは
医師を目指す学生は医学部で6年間学んだあと、国家試験を受けて医師免許を取得します。
「初期研修」と呼ばれる最初の2年間は月給30万円ほどが手当てされますが、そのあとも大学の医局に所属しながら「大学院生」や「医局員」などの立場で数年間にわたり、若手医師として診療などの経験を積むケースがほとんどです。
医局は教授を頂点とし、准教授、講師、助教と連なるピラミッドのような構造となっていて、最も下に位置する大学院生や医局員などは医師として診療にあたっていても無給だったり、わずかな給与だったりすることがあるということです。
しかし、医局に所属する若手医師は専門医や医学博士の資格などを取るためや関連病院に出向する際の人事権などを握られているため、現状の制度に対して医局の上司らに疑問や不満の声を上げづらく、問題が顕在化しなかったと見られます。
この無給医の問題が長年見過ごされてきたことで医師の過重労働につながったり診療の質にも影響したりしていると指摘する専門家もいます。
専門家「労基法上も違法の可能性」
医師の働き方に詳しい福島通子社会保険労務士は「医師は聖職と思われてきたが無給医も労働者であると考えるべきだ。患者を診療しながら賃金が支払われないということは労働基準法上も違法である可能性がある」と指摘しました。そのうえで「今回無給医の存在が明らかになったことを好機と捉え、行政が改善に向けて動くべきだ。今までのやり方を変え、これからの医療を背負う若い医師が将来に希望を持てる体制に整える必要がある」と話しています。
柴山文科相「大変遺憾 改めるのが当然」
柴山文部科学大臣は記者団に対し、「実際に給与が支給されていない医師たちの存在が発覚したことは大変遺憾で、支払っていないという現状は改めるのが当然だ。こうしたことが起きないように各大学に指導するとともに、これから解明していかなければいけないと回答した大学についても、対応していく」と述べました。
厚労省「医師の労務管理適正化を支援」
今回の調査結果について厚生労働省は「現在、医師の働き方改革を進めているところであり、大学病院を含む医療機関に対しては医師の労務管理を適正化できるよう支援を行っていきたい」とコメントしています。