集まったのは、通常の就職活動になかなかなじめないという学生たち。
その名も「就活アウトロー採用」です。
服装はみなふだん着のまま。一般的な就活と異なり、学生たちは大学名、面接官は企業名を伏せたまま、面接します。
両者が肩書にとらわれず、本音で語り合うための工夫です。
リラックスした雰囲気の中、通常の面接ではあまり扱うことのない哲学的なテーマを話し合います。
「人生の価値」や「うそをつくこと」などについて語り合う中で、個々の人間性や価値観がおのずとにじみ出てきます。
6年前に、この面接会を始めたNPOによりますと、参加者は年々増えて、延べ6000人を超えたといいます。
面接官の男性は「ふだんの面接では出会えない人材に会えるのではないかと参加しています。会社に迎合したり、価値観が合わない人に合わせたりするのではなく、自分が納得した仕事をして頑張ってくれる人を採りたいです」と話していました。
面接会を主催したNPO「キャリア解放区」の納富順一さんは、「通常の面接は時間も短く、企業も学生もうわべだけのやり取りになりがちですが、この場では両者が対等に自由に語り合い、本音でぶつかりあえる。今後も広げていきたいです」と話しています。
“ありのままの自分を受け入れてほしい”
この面接に参加した児玉菜摘さんも、これまでの就活に違和感をおぼえた1人です。
みんな同じリクルートスーツを身にまとい、企業のほしい人材や理念にあわせたエントリーシートを書き続ける中「企業が求める人材に自分を偽っているのでは」と疑問に感じるようになったといいます。
児玉さんは「自分を企業に合わせたり、求めに応じて話を盛ったりということが違うと感じ、つらくなりました。内定をとることに必死でしたが、偽りの自分で選ばれても意味がないのではと思いました」と話しました。
6日は、自分を取り繕うことなく、率直な考えを面接官とやり取りした児玉さん。今までとは違う手応えを感じたといいます。
児玉さんは「本音で企業の方と話し合い、ありのままの自分を受け入れてくれる企業と巡りあいたいです」と話していました。
先輩たちは…
この面接で採用された先輩たち。なかなか活躍しているようです。
東京・港区の大手コンサルティング会社で働く近藤宏樹さんは入社5年目の若手ですが、企業向けのセキュリティサービスなどを担う部門に配属され、顧客への提案からシステムの運用までを一手に任されています。
近藤さんは、マイペースで周りに流されずに、率直に自分の考えを意見したり、計画を実行に移したりする姿勢がチーム内で高く評価されているといいます。
この企業は、変化の激しい時代に、ユニークな能力を持つ人材を求めて、5年前、この面接を取り入れ、30人以上を採用したということです。
近藤さんは「自分をしっかり見て採用してくれたと思う。今の仕事はとても自分に合っていると思います」と話していました。
近藤さんの上司で、当時の採用担当だった坂本啓介さんは「近藤さんはいい意味でマイペースで少し変わっていておもしろい存在。一般的な短時間の面接では拾い切れなかったかもしれないと思います」と話していました。
専門家“人物本位の面接増えていく”
大学生が、就職先を3年以内に離職する割合は、今も3割に上ります。
企業の採用活動に詳しい、コンサルタントの谷出正直さんによりますと、従来の面接方法は企業にとって効率よく大量採用ができる一方、面接時間も短いため、入社後にミスマッチを生じやすく早期の離職につながっていたといいます。
谷出さんは「人物本位の面接は、お互いに素を見せあうため、納得して採用につなげられる。学生には、画一的な就活に違和感を持って人と違う見方をしたり、個性を大事にしたりしているという面もあると思う。変化が激しくさまざまな価値観が求められる今、企業も従来の採用方法を変えることが迫られている。こうした人物本位の面接は増えていくと思う」と話しています。