昭和しょうわ天皇てんのう 拝謁はいえつ記き 国民こくみんの目めを気きにする姿すがたも克明こくめいに

「拝謁はいえつ記き」を記しるしていたのは、民間みんかん出身しゅっしんの初代しょだい宮内庁くないちょう長官ちょうかんだった田島たじま道治みちはるで、戦後せんごつくられた日本にっぽん国こく憲法けんぽうのもとで、昭和しょうわ23年ねんから５ご年ねん半はんにわたり、宮内庁くないちょうやその前身ぜんしんの宮内くない府ふのトップを務つとめました。在任ざいにん中ちゅう、600回かい余あまりのべ300時間じかんを超こえる昭和しょうわ天皇てんのうとの対話たいわを詳細しょうさいに記録きろくしていました。

田島たじま長官ちょうかんが仕つかえた時期じきは、昭和しょうわ天皇てんのうが象徴しょうちょうとして歩あゆみ始はじめた一方いっぽう、退位たいいの問題もんだいもくすぶっていて、「拝謁はいえつ記き」には、昭和しょうわ天皇てんのうが国民こくみんの目めを気きにする様子ようすがたびたび記しるされています。

終戦しゅうせんから４よん年ねんがたった昭和しょうわ24年ねん８月はちがつ30日にちの拝謁はいえつでは、住すまいとして使つかい続つづけていた防空ぼうくう施設しせつの「御ご文庫ぶんこ（おぶんこ）」の増築ぞうちくが話題わだいに上のぼると、昭和しょうわ天皇てんのうは、「今こんハ皇室こうしつ殊ことニ私わたしニ対たいシテ餘（あま）リ皆みなワルク思ツテナイ様さまデ一部いちぶニハ退位たいい希望きぼう者しゃアルモ大体だいたいハ私わたしノ退位たいいヲ望もちマヌ様さまナ時じニ私わたしガ住居じゅうきょヲ大だい（おおい）ニ新築しんちくデモシタ様さまニ誤伝ごでんセラルレバ私わたしハ非常ひじょうニ不ふ本意ほんいデ、イハバ（いわば）一朝いっちょう（いっちょう）ニシテ信しんヲ失しつフ事ごとハツマラヌト思フ」と述のべたと記しるされています。

さらに、昭和しょうわ26年ねん12月つき19日にちの拝謁はいえつでは、昭和しょうわ天皇てんのうが葉山はやま御用邸ごようていでの静養せいようについて、「退位たいい論ろんなどを唱へる人達ひとたち、生活せいかつニ困こまつた人じん特とくニ軍人ぐんじんなど戦争せんそうの為ためニひどい目めニあつた人ひとから見みると私わたしが葉山はやまへ行いくなど贅沢ぜいたくの事ことをしてると思おもふだらう」と懸念けねんを示しめし、「行くだりつていゝか」と田島たじま長官ちょうかんに尋たずねたと記しるされています。

これに対にたいし田島たじま長官ちょうかんが「退位たいい其他たの事ことを云々うんぬん（うんぬん）する人ひとハ葉山はやまへ御ご出しゅつ掛かけなどをそう八はち釜かま（やかま）しく申さるしハ致いたしませぬし、大切たいせつな御ご位置いちの方ほうの御ご健康けんこう上じょう御およろしい事ことハ結構けっこうな事ことであります故こよろしいと存ぞんじまして」と述のべると、昭和しょうわ天皇てんのうは「そんならそれでよろしい」と述のべ安心あんしんした様子ようすを見みせたと記しるされています。

一方いっぽう、皇室こうしつについての新聞しんぶん報道ほうどうに神経しんけいをとがらせる様子ようすも記しるされていました。

昭和しょうわ28年ねん11月つき４よん日にちの拝謁はいえつでは、昭和しょうわ天皇てんのうが大手おおて新聞しんぶんの報道ほうどうに触ふれ、「『菊きくのかーてん』などと書き出かきだしてハ誠まことニ困こまる」と述のべたと記しるされています。これに対にたいし田島たじま長官ちょうかんが「内容ないようを読よみますれば宮内庁くないちょうのやり方やりかたの批難ひなんではありませぬがどうも標題ひょうだいがわるうございまして」と述のべると、昭和しょうわ天皇てんのうは「見出みだしだけで中なかを読よまぬ人ひとも多おおく『菊きくのかーてん』といふ言葉ことばで想像そうぞうして皇室こうしつが国民こくみんニ接近せっきんしたがらぬとの印象いんしょうを与あずかへる事ことニなつてハ困こまる」と述のべたと記しるされています。

分析ぶんせきに当あたった日本にっぽん近きん現代げんだい史しが専門せんもんの日本にっぽん大学だいがくの古川ふるかわ隆久たかひさ教授きょうじゅは「国民こくみんの総意そういに基もとづく象徴しょうちょう天皇てんのうである以上いじょうは、いかに国民こくみんに受け入うけいれてもらえる形かたちを作つくるか、国民こくみんとの関係かんけいをきちんと考かんがえなくてはいけなくなったということが読み取よみとれるのではないか」と指摘してきしています。