このうち「化学賞」は千葉県浦安市の明海大学保健医療学部の渡部茂教授らのグループが受賞しました。
渡部さんは、別の大学に勤めていた24年前、子どもの歯の健康に唾液が果たす役割の研究で、5歳の子ども30人に食べ物をかませて飲み込む直前ではき出させる方法で唾液の量を測りました。
その結果、1日の分泌量はおよそ500ミリリットルに上ると結論づけた論文を発表しました。
渡部さんは実験に協力した3人の息子と授賞式に出席し、すでに大人になった息子たちにバナナを食べさせて当時の実験の様子を再現すると会場から大きな笑い声が上がっていました。
渡部さんは「まじめにやってきた研究ですが『イグ』・ノーベル賞として評価された意味をかみしめています。恩師と研究に協力してくれた子どもたちに感謝しています」と話していました。
イグ・ノーベル賞を日本人が受賞するのはことしで13年連続です。
困難を極めた実験 「奥の手」も
「イグ・ノーベル賞」を受賞した明海大学の渡部茂教授は、小児歯科が専門です。
渡部教授はおよそ25年前、あることが気になっていました。「子どもの唾液は1日にどれくらいでているのだろう」。唾液には虫歯を防ぐ大切な役割があるからです。
早速、5歳の子どもを集めて実験をしました。実験では、準備した食べ物の重さをはかってから子どもに食べさせ、飲み込む直前に吐き出してもらいます。重くなった分が唾液です。
6種類の食べ物で行いましたが、その実験は困難を極めました。相手は5歳の子どものため、何度言っても飲み込んでしまいます。途中で帰ってしまう子どももいました。
自分の子どもを入れるという「奥の手」まで使い、なんとか30人のデータをとることができました。
その結果、子どもの口の中で出る唾液の量は1日におよそ500ミリリットルと推定できたということです。
当時の歯科では虫歯の治療の研究が主流でしたが、口の中の状態を調べて虫歯を予防しようという研究の先駆けになりました。
渡部教授は「5歳の子どもを相手に一日中、つばの研究をしているのが滑稽に見えたのかもしれません。口の中の環境は全身の健康状態と関係していることが分かってきて、口の中の健康を考えるきっかけになればうれしいです」と話しています。