【詳報しょうほう】処理しょり水すい 海洋かいよう放出ほうしゅつの方針ほうしん 理解りかいはどこまで…?風評ふうひょう対策たいさくは?

また、政府せいふは処分しょぶん方針ほうしんの決定けっていに向むけて去年きょねん、地元じもとの農林のうりん水産すいさん業者ぎょうしゃや全国ぜんこくの商工しょうこう団体だんたいなどから意見いけんを聞きく会かいを開ひらきましたが、出席しゅっせき者しゃはほとんどが組織そしきの代表だいひょうで割り当わりあてられた時間じかん内ないに意見いけんを述のべる形式けいしきのため双方向そうほうこうの対話たいわにはなりませんでした。

合あわせて書面しょめんによる意見いけん募集ぼしゅうも行おこなわれましたが、方針ほうしんが決定けっていされるまでの間まにこうした意見いけんに対にたいする政府せいふとしての見解けんかいは示しめされませんでした。

これについて経済けいざい産業さんぎょう省しょうは、なるべく多おおくの意見いけんを聞きくためこの形式けいしきを採用さいようしたとしていて、処分しょぶんの方向ほうこう性せいが決きまらない検討けんとうの途中とちゅうでは意見いけんのやり取やりとりができる材料ざいりょうがなかったとしています。

そのうえで実際じっさいの放出ほうしゅつに向むけては、関係かんけい者しゃの理解りかいを得える努力どりょくが長期ちょうきにわたって必要ひつようになるとして「10年ねんの時間じかんを要ようして十分じゅうぶんな納得なっとく感かんが得えられていないという声こえが聞きかれる中なかで政府せいふの責任せきにんで決定けっていしたのであれば、過去かこの経緯けいいをきちんと検証けんしょうし改あらためて信頼しんらい関係かんけいを作つくっていく必要ひつようがある」と話はなしています。

トリチウムが出だす放射線ほうしゃせんはエネルギーが弱よわく空気くうき中ちゅうではおよそ5ミリしか進すすみません。このため人体じんたいへの影響えいきょうは外部がいぶからのものよりも体内たいないに取り込とりこんだときのリスクを考慮こうりょすべきとされています。

国くにの小しょう委員いいん会かいは

▽体内たいないで一部いちぶのトリチウムがタンパク質たんぱくしつなどの有機物ゆうきぶつと結合けつごうし濃縮のうしゅくするのではないかといった指摘してきがあることについては、体からだはDNAを修復しゅうふくする機能きのうを備そなえていて動物どうぶつ実験じっけんや疫学えきがく研究けんきゅうからはトリチウムが他たの放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつに比くらべて健康けんこう影響えいきょうが大おおきいという事実じじつは認みとめられなかったと結論けつろんづけています。

また

▽マウスの発はつがん実験じっけんでも自然しぜん界かいの発生はっせい頻度ひんどと同どう程度ていどで原子力げんしりょく発電はつでん所しょ周辺しゅうへんでもトリチウムが原因げんいんと見みられる影響えいきょうの例れいは見みつかっていないとしています。

放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつの性質せいしつに詳くわしく国くにの小しょう委員いいん会かいの委員いいんをつとめた茨城いばらき大学だいがくの田内たうち広ひろ教授きょうじゅは人体じんたいへの影響えいきょうを考かんがえる際さい、濃度のうどの大小だいしょうがポイントだと指摘してきします。そのうえで田内たうち教授きょうじゅは「トリチウムが体内たいないに取り込とりこまれてDNAを傷きずつけるというメカニズムは確たしかにあるが、DNAには修復しゅうふくする機能きのうがあり紫外線しがいせんやストレスなどでも壊こわれては修復しゅうふくしているのが日常にちじょう。実験じっけんで細胞さいぼうへの影響えいきょうを見みているが基準きじゅん以下いかの低てい濃度のうどでは細胞さいぼうへの影響えいきょうはこれまで確認かくにんされていない」と話はなしていて、低ひくい濃度のうどを適切てきせつに管理かんりできていればリスクは低ひくいとしています。

そのうえで、こうした設備せつびで取り除とりのぞくことができないトリチウムを海水かいすいで薄うすめ基準きじゅんを大幅おおはばに下回したまわるレベルにして放出ほうしゅつすることになります。

国くには放出ほうしゅつに当にあたって放出ほうしゅつの前後ぜんごでのモニタリングを強化きょうかし、環境かんきょうに与あたえる影響えいきょうを確認かくにんしながら少量しょうりょうでの放出ほうしゅつから開始かいしするとし、モニタリングで異常いじょうな値ねが出でた場合ばあいなどには放出ほうしゅつを停止ていしするとしています。

トリチウムの濃度のうどを薄うすめ放出ほうしゅつするための設備せつびは新あらたに作つくる必要ひつようがあり、今後こんご、設計せっけいや放出ほうしゅつまでの具体ぐたい的てきな計画けいかくを東京とうきょう電力でんりょくが検討けんとうし原子力げんしりょく規制きせい委員いいん会かいの審査しんさを受うけることになります。

国くには東京とうきょう電力でんりょくに対にたいし、2年ねん後ごをめどに海洋かいよう放出ほうしゅつを開始かいしできるよう設備せつびの設置せっちなどの具体ぐたい的てきな準備じゅんびを進すすめることを求もとめています。

福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつでは汚染おせん水すいの発生はっせい量りょうを抑制よくせいするため建屋たきのや周辺しゅうへんで地下ちか水すいをくみ上くみあげ海うみに放出ほうしゅつしていますが、この中なかにもトリチウムは含ふくまれています。

こうした水みずを海うみに放出ほうしゅつする際さいの東京とうきょう電力でんりょくの自主じしゅ的てきな基準きじゅんは1リットル当あたり1500ベクレル未満みまんで、国くにはトリチウムなどを含ふくむ処理しょり水すいの海洋かいよう放出ほうしゅつにあたっても同様どうようの水準すいじゅんにするとしています。

また、1年間ねんかんに放出ほうしゅつするトリチウムの量りょうについては事故じこの前まえ、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつが通常つうじょうの運転うんてんをしていた時ときに目安めやすとされていた22兆ちょうベクレルを下回したまわる水準すいじゅんとなるようにするとし、その値ねは定期ていき的てきに見直みなおすとしています。

▽関西かんさい電力でんりょく

大飯おおい原子力げんしりょく発電はつでん所しょで56兆ちょうベクレル

高浜たかはま原子力げんしりょく発電はつでん所しょで13兆ちょうベクレル

美浜みはま原子力げんしりょく発電はつでん所しょで8600億おくベクレル

▽九州きゅうしゅう電力でんりょく

玄海げんかい原子力げんしりょく発電はつでん所しょで50兆ちょうベクレル

川内かわうち原子力げんしりょく発電はつでん所しょで55兆ちょうベクレル

▽四国しこく電力でんりょく

伊方いかた原子力げんしりょく発電はつでん所しょで16兆ちょうベクレル

などとなっています。

経済けいざい産業さんぎょう省しょうのまとめによりますと、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこの前まえの5年間ねんかんを平均へいきんした年間ねんかんの放出ほうしゅつ量りょうは、加圧水かあつすい型がたと呼よばれるタイプの原発げんぱつで18兆ちょうから87兆ちょうベクレル、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつと同おなじ沸騰水ふっとうすい型がたと呼よばれるタイプの原発げんぱつで0.02兆ちょうから2兆ちょうベクレルとなっています。

東京とうきょう電力でんりょく福島ふくしま第だい一いち原子力げんしりょく発電はつでん所しょでは事故じこの前まえの2010年ねんに2兆ちょうベクレル余あまり放出ほうしゅつされていました。

▽中国ちゅうごくの大だい亜あ湾わん原発げんぱつで42兆ちょうベクレル

▽アメリカのキャラウェイ原発げんぱつで同おなじく42兆ちょうベクレルが放出ほうしゅつされています。

このほか

▽カナダのダーリントン原発げんぱつで2015年ねんに

液体えきたいとして241兆ちょうベクレル、気体きたいとして254兆ちょうベクレルが放出ほうしゅつされています。

▽またルーマニアのチェルナヴォダ原発げんぱつでは2002年ねんに

液体えきたいで85兆ちょうベクレル、気体きたいで286兆ちょうベクレル

▽韓国かんこくのウォルソン（月つき城じょう）原発げんぱつでは2016年ねんに

液体えきたいで17兆ちょうベクレル、気体きたいで119兆ちょうベクレル放出ほうしゅつされています。

再さい処理しょり施設しせつでは放出ほうしゅつ量りょうがより多おおく

▽フランスのラ・アーグ再さい処理しょり施設しせつでは2015年ねんに

液体えきたいで1京きょう3700兆ちょうベクレル、気体きたいで78兆ちょうベクレル

▽イギリスのセラフィールド再さい処理しょり施設しせつでは同おなじく2015年ねんに

液体えきたいで1540兆ちょうベクレル、気体きたいで84兆ちょうベクレル放出ほうしゅつされています。

タンクにたまった処理しょり水すいを放出ほうしゅつするためにはトリチウムを国くにの基準きじゅん以下いかの濃度のうどに薄うすめるための専用せんようの設備せつびを作つくる必要ひつようがあり、東京とうきょう電力でんりょくは今後こんご、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつの廃はい炉ろ計画けいかくに、新あらたに作つくる設備せつびについても反映はんえいさせ、規制きせい委員いいん会かいに審査しんさを申請しんせいすることになります。

規制きせい委員いいん会かいは東京とうきょう電力でんりょくからの申請しんせいを受うけて、トリチウムを基準きじゅん以下いかの濃度のうどに薄うすめる能力のうりょくが確保かくほされているかや、設備せつびの健全けんぜん性せいなどを審査しんさの中なかでチェックします。

審査しんさのほか、建設けんせつ工事こうじのあとに行おこなわれる検査けんさなどの手続てつづきもあり、それらに必要ひつような期間きかんについて規制きせい委員いいん会かいの更さら田た委員いいん長ちょうは2年ねん程度ていどかかるとの認識にんしきを示しめしていて、この審査しんさや検査けんさに合格ごうかくしなければ設備せつびの稼働かどうは認みとめられません。

また、規制きせい委員いいん会かいは海洋かいよう放出ほうしゅつの実施じっし後ご、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ周辺しゅうへんの海域かいいきで海水かいすいに含ふくまれる放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつの測定そくていを強化きょうかすることも検討けんとうしていて、水質すいしつに大おおきな変化へんかはないか確認かくにんするとしています。

また、今後こんごの風評ふうひょう対策たいさくについては「これまでの風評ふうひょう対策たいさくをただ拡充かくじゅうするのではなく水産すいさん業ぎょうや観光かんこうなど産業さんぎょうの特徴とくちょうを踏ふまえてどんな対策たいさくは効果こうかがあったのか一いち度ど、現状げんじょうを分析ぶんせきするべき。また福島ふくしまの漁業ぎょぎょうは本格ほんかく操業そうぎょうしておらずまだ経営けいえい体たいとしてぜい弱ぜいじゃくなので、流通りゅうつうや消費しょうひへの対策たいさくだけでなく経営けいえい体力たいりょくを強化きょうかするような生産せいさん基盤きばんに対にたいする支援しえんも必要ひつようだ」と指摘してきしています。

具体ぐたい的てきには風評ふうひょうの影響えいきょうを最大さいだい限げん抑おさえるためトリチウムの濃度のうどを国くにの基準きじゅんの40分ぶんの1、WHO＝世界せかい保健ほけん機関きかんが示しめす飲料いんりょう水すいの基準きじゅんでは7分ぶんの1程度ていどに薄うすめたうえで海うみに放出ほうしゅつするとしています。

また、農林のうりん水産すいさん業者ぎょうしゃや地元じもとの自治体じちたいの関係かんけい者しゃなども加くわわって放出ほうしゅつ前後ぜんごの濃度のうどなどを監視かんしするモニタリングを強化きょうかするとしていて、IAEA=国際こくさい原子力げんしりょく機関きかんの協力きょうりょくも得えながら海洋かいよう放出ほうしゅつが国際こくさい慣行かんこうに沿そって行おこなわれることなどの情報じょうほうを、科学かがく的てきな根拠こんきょに基もとづいて発信はっしんすることにしています。

さらに、水揚みずあげを増ふやすため漁業ぎょぎょう関係かんけい者しゃの設備せつび導入どうにゅうに対にたいする支援しえん事業じぎょうを継続けいぞくするほか、地元じもとや周辺しゅうへん自治体じちたいの仲買なかがいや加工かこう業者ぎょうしゃの販路はんろの開拓かいたくなども支援しえんします。

このほか、観光かんこう業ぎょうなどについても風評ふうひょう被害ひがいが懸念けねんされるとして、観光かんこう客きゃくの誘致ゆうちや地元じもと産品さんぴんの販売はんばい促進そくしんなど本格ほんかく的てきな復興ふっこうに向むけた対策たいさくを講こうじるとしています。

こうした対策たいさくを取とっても生しょうじる風評ふうひょう被害ひがいには東京とうきょう電力でんりょくが賠償ばいしょうを行おこなうよう求もとめています。

そして、関係かんけい閣僚かくりょうによる新あらたな会議かいぎを設もうけて必要ひつように応おうじて追加ついかの対策たいさくを機動きどう的てきに実施じっしするとしています。

そのうえで「科学かがく的てきな理解りかいの醸成じょうせいと車くるまの両輪りょうりんのように重要じゅうようなのは福島ふくしま県けんや周辺しゅうへん地域ちいきの魚介ぎょかい類るいの流通りゅうつう経路けいろを決けっして失うしなわないようにしたり、拡大かくだいしたりする方策ほうさくをしっかりと示しめすことだ。売うられているのだから大丈夫だいじょうぶだという状況じょうきょうを作つくり続つづけていくことが大事だいじだ」と述のべ、科学かがく的てきな理解りかいの醸成じょうせいに加くわえて生産せいさん・加工かこう・流通りゅうつう・消費しょうひの各かく段階だんかいでの対策たいさくの必要ひつよう性せいが盛り込もりこまれたことは評価ひょうかできるとしています。

一方いっぽうで、風評ふうひょう被害ひがいが生しょうじた場合ばあいの賠償ばいしょうについては「大前提だいぜんていとして風評ふうひょう被害ひがいが発生はっせいした場合ばあいに賠償ばいしょうするのは当然とうぜんだが、賠償ばいしょうを継続けいぞくしている漁業ぎょぎょうに後継あとつぎ世代せだいが未来みらいを見みい出だせるかどうかや子こや孫まごにつがせようと思おもうかは心配しんぱいで、賠償ばいしょうが長引ながびくほどこの産業さんぎょうに将来しょうらい展望てんぼうを見出みいだしにくくなるのではないか。賠償ばいしょうを支払しはらうだけではなく後継こうけい者しゃの育成いくせいや他た業種ぎょうしゅからの新規しんき参入さんにゅうの促進そくしんなど、漁業ぎょぎょうを中核ちゅうかくとした地域ちいきをどう作つくっていくかというビジョンも関係かんけい者しゃとの対話たいわの中なかから明確めいかくにしていくべきだと思おもう」と話はなしていました。

さらに最近さいきん、東京とうきょう電力でんりょくの不祥事ふしょうじが相次あいついでいることにも触ふれ「福島ふくしま第だい一いち原子力げんしりょく発電はつでん所しょの事故じこから10年ねんがたった今たったいま、さまざまな問題もんだいが出でて気きの緩ゆるみが出でていることを考かんがえると、今いまは東京とうきょう電力でんりょくによる処分しょぶんを信用しんようできる段階だんかいではなく信頼しんらい性せいをどう担保たんぽするかも課題かだいだと思おもう」とも述のべて、国民こくみんの理解りかいや信用しんようを得えていくことの大切たいせつさを指摘してきしています。

また、国際こくさい的てきに政治せいじ問題もんだい化かしている点てんについても指摘してきし「この問題もんだいに関にかんしては中国ちゅうごく、韓国かんこく、台湾たいわんなどでこの数すう年間ねんかん、科学かがく的てきな問題もんだいが政治せいじ問題もんだい化かされたまま放はなっておかれていて課題かだいが逆ぎゃく輸入ゆにゅうされている状況じょうきょうもある」と述のべ、近隣きんりん諸国しょこくに向むけた情報じょうほう発信はっしんの必要ひつよう性せいを訴うったえました。