長年対立してきたイスラエルとUAEが合意に達した背景には、近年、中東地域で影響力を増しているイランに対抗するという共通の利益があったとみられています。
仲介したアメリカにとっても、イスラエルと歴史的に対立してきたアラブ諸国との関係の正常化が進めば、敵対するイランへ圧力を強めることができます。
アメリカのイラン政策を特別代表として統括してきたフック氏は合意の発表に際し、「アラブ諸国とイスラエルが和平を結ぶことはイランには最悪の悪夢で、イランへの圧力を最大化する政策によって、この歴史的な偉業が達成された」と述べ、今回の合意がイランへの包囲網の強化につながると強調しました。
アメリカのトランプ大統領は、ことし11月の大統領選挙をにらみ外交成果をアピールしようと、アラブ諸国に対しイスラエルとの関係正常化を働きかけていくとみられ、これまでの「イスラエル対アラブ」という対立の構図が変わるきっかけになるのかに関心が集まっています。
合意文書 主な内容
アメリカとイスラエル、それにUAE=アラブ首長国連邦の間で交わされた合意文書の主な内容は次のとおりです。
▽イスラエルとUAEの国交を完全に正常化する。
▽数週間のうちに大使館の設置や投資、技術協力、それに直行便の就航などについて2国間の合意に署名する。
▽イスラエルがヨルダン川西岸のユダヤ人入植地の併合を一時停止する。
▽イスラエルとパレスチナとの間の中東和平問題の包括的で永続的な解決に向けて努力する。
▽両国の関係改善をイスラエルと対立しているほかのアラブ諸国などにも拡大していくよう努める。
イラン外務省「愚行で危険な行為」
イスラエルとUAEの国交の正常化の合意について、イラン外務省は声明を発表し、「愚行であり危険な行為だ」と強く非難しました。
イランは、イスラエルを国家として認めておらず、中東地域の武装勢力への支援などを通じてイスラエルと敵対しています。
イラン外務省が14日に発表した声明では、「合意は戦略的な愚行だ。非合法で非人道的な政権と関係を正常化するというUAEの恥ずべき試みは、危険な行為だ」と述べ、非難しました。
また、「抑圧されたパレスチナの人たちは、犯罪政権との関係正常化を決して許すことはないだろう」と述べ、合意はパレスチナの人たちの反発を招くだけだと強調しました。
そのうえで、声明では、「シオニストの政権がペルシャ湾地域の均衡を崩そうと介入することに警戒しなければならない。UAEやそれに追随する政府はみずからの行動がもたらす結果に責任を持たなければならない」と述べて、周辺のアラブ諸国が敵対するイスラエルと関係を深めイランの孤立化を図ろうとする動きに警戒感を示しました。
トランプ政権の中東政策は
アメリカのトランプ政権は、政権が発足してから一貫してイスラエルを擁護する政策をとり続け、イスラエルが敵視するイランに対しては圧力をかけて封じ込め政策を進めてきました。
3年前の2017年5月、トランプ大統領は就任後の初の外国訪問先に中東のサウジアラビアを選び、オバマ政権時代に冷え込んだ同盟関係の立て直しをはかるとともに、50を超すイスラム諸国の首脳を集め、イランを孤立させるべく連携を呼びかけました。
パレスチナとイスラエルの間で帰属をめぐって対立していたエルサレムについて、トランプ大統領はイスラエルの首都であると認め、おととし5月に、大使館のエルサレム移転を強行しました。
また、同じ年の5月には、イランの核合意から一方的に離脱したうえで、過去最大級の経済制裁を行うと発表し、圧力を一層強めました。
そして去年3月には、イスラエルが占領するゴラン高原についてイスラエルの主権を認める考えを示し、
去年11月にはヨルダン川西岸でイスラエルが行う入植活動は国際法違反とはみなさないと表明するなど、アメリカが40年にわたってぶれることのなかった政策を次々と覆しました。
ことし1月に入ると、トランプ大統領の指示のもと、アメリカ軍がイランの精鋭部隊、革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害し、アメリカとイランが衝突する懸念が高まりました。
さらに、ことし1月にはトランプ大統領がイスラエルによる占領を追認した独自の中東和平案を公表。パレスチナ側は強く反発していました。
一方、トランプ大統領による和平案の公表の場に、今回国交を正常化させたUAE=アラブ首長国連邦のほか、バーレーン、それにオマーンの大使が出席していて、このうちアメリカにあるUAEの大使館は「アメリカ主導の国際的な枠組みの中で和平交渉に戻るための重要な出発点になる」として歓迎する姿勢を示していました。
UAE 合意に理解示したエジプトとの連携を強調
イスラエルとの国交正常化の合意を受けて、UAE=アラブ首長国連邦のムハンマド・アブダビ皇太子は13日午後、日本時間の14日未明、エジプトのシシ大統領と電話で会談しました。
UAEの国営通信によりますと、会談でシシ大統領は「イスラエルとUAEの歴史的な進展が、中東の和平交渉や安定化に貢献する。イスラエルによるヨルダン川西岸の併合を停止させ、パレスチナとイスラエルの2国家共存を目指すという方針を維持し、平和のためのチャンスをよみがえらせることができる」と述べました。
これに対し、ムハンマド皇太子は「UAEとエジプトは、地域の問題について一致する見解を持っている」と応じ、合意に理解を示したエジプトに謝意を伝えたということです。
UAEとしては、地域の大国であるエジプトとの連携を強調することで、長年対立してきたイスラエルとの国交正常化への批判をかわそうというねらいがあるものとみられます。
トルコ外務省「歴史はUAEの偽善を許さない」
今回の合意についてトルコ外務省は14日、声明を発表し「パレスチナからの強い反発はもっともだ。歴史はUAE=アラブ首長国連邦の偽善を決して忘れず、許さないだろう」と非難しました。
トルコ政府は、アメリカのトランプ政権が打ち出したイスラエル寄りだと言われる中東和平案をめぐっても、パレスチナを支持する立場を鮮明にしていて、今回の動きがほかのアラブ諸国へと広がることに警戒感を示しました。
専門家“ほかの湾岸諸国も国交正常化に動く可能性”
イスラエルとUAE=アラブ首長国連邦の国交の正常化について、専門家からはこれまで水面下で関係のあった両国の現状を追認したものだと指摘したうえで、今後、ほかの湾岸諸国も国交正常化に向けて動く可能性があると指摘しました。
中東情勢に詳しい放送大学の高橋和夫名誉教授はイスラエルとUAEの国交正常化について「事実上、両国は水面下で同盟関係にあったがこの関係が表に出てきたのがいちばん大きい」として、これまで非公式だったイスラエルと湾岸諸国の関係を明らかにしたものだとと指摘しました。
そのうえで「UAEに続いて、バーレーンやオマーン、そして最後はサウジアラビアがイスラエルとの国交を正常化することをアメリカは期待している。しかしサウジアラビアはイスラム教の盟主を名乗っているためUAEでの反応を様子見をしている段階だ」として、UAEで目立った反発がなければサウジアラビアも含めて国交正常化に動く可能性があるとしました。
一方で「パレスチナにとっては寝耳に水の話だ」として中東和平交渉が完全に行き詰まる中で、パレスチナが置き去りにされている現状を指摘しました。
このほか、トランプ政権が今回の国交正常化を歴史的な外交上の成果としたことについて「敵対するイランへの圧力が何の成果を生んでいない中で、国交正常化はこうした失敗を覆い隠す煙幕の役割を果たしている」として一定の評価はしたものの、強調するほどのものではないとの見方を示しました。
オマーンも支持表明
イスラエルと国交がないオマーンの外務省は14日、今回の合意について「支持を表明する。中東地域での包括的で、公平で、恒常的な平和の実現に貢献することを願う」とコメントを発表しました。
オマーンをめぐっては、2018年にイスラエルのネタニヤフ首相がオマーンを極秘訪問して当時のカブース国王と異例の首脳会談を行い、双方の接近を印象づけました。
今回の合意の発表のあと、イスラエルと国交がないアラブ諸国のあいだで支持を表明したのはバーレーンに次いで2か国目です。