人魚にんぎょのミイラ？研究けんきゅう者しゃが本気ほんきで調しらべると…

顔かおは人ひとではなくサルに似にているように見みえます。

でも、下半身かはんしんをよく見みると、ひれのようなものがついていて、確たしかに魚さかなっぽいです。

うーう-ん、サル魚ぎょ？

でも由緒ゆいしょある「人魚にんぎょ」です。

一緒いっしょに保存ほぞんされている書かきつけにちゃんと記しるされています。

「元もと文ぶん年間ねんかんに土はに州しゅう沖おき（高知こうち県けんの沖おき）で魚さかな網もうにかかった『人魚にんぎょ干物ほしもの』。漁師りょうしによって大阪おおさかに運はこばれ、販売はんばいされていたものを、備後びんご福山ふくやま（広島ひろしま県けん）の人ひとが買い求かいもとめ、以後いご、家宝かほうとした」

元もと文ぶん年間ねんかんとは1736年ねんから1741年ねん。江戸えど幕府ばくふ8代だい将軍しょうぐん、徳川とくがわ吉宗よしむねの時代じだいです。

ただ、保存ほぞんしている寺てらの住職じゅうしょくも、いつ、誰だれが、どうして寺てらに持ち込もちこんだのか詳くわしいことは知しらなかったといいます。

目めや鼻はな、口くちもあってすごくリアルです。

両手りょうてが顔かおの横よこにあって、まるでムンクの「叫さけび」のように見みえます。

予想よそうどおりといえばそれでおしまいですが、よく分わからない怪あやしいものを本気ほんきで調しらべることが、今回こんかいの研究けんきゅうのおもしろさ。ここからが本番ほんばんです。

どんな素材そざいを使つかって、どのように作つくられたのか。

まず、上半身じょうはんしんの調査ちょうさ結果けっかです。

代かわりに内部ないぶには綿めんが詰つめられているそうです。

そしてサルのような見た目みためは、紙かみや布ぬのを使つかって表現ひょうげんされ、表面ひょうめんには砂すなや炭すみを混まぜた塗料とりょうが塗ぬられているということでした。

1度ど見みたらなかなか忘わすれられないムンクの「叫さけび」のような顔かおも、大だい部分ぶぶんが紙かみなどで作つくられていました。

また、歯はは肉食にくしょくの魚類ぎょるいのもので、体からだ表ひょうにはフグの皮かわと動物どうぶつの毛けが付つけられていました。

ウロコを調しらべた結果けっかなどから、東シナ海ひがししなかいを中心ちゅうしんに広ひろく日本にっぽんの沿岸えんがんに生息せいそくするニベ科かの魚さかなの特徴とくちょうがあるそうです。

ニベ科かの魚さかなは、練り製品ねりせいひんの原材料げんざいりょうに使つかわれるものです。

スーパーに並ならぶ商品しょうひんの原材料げんざいりょうを使つかって「人魚にんぎょのミイラ」が作つくられていたなんて…

海うみの近ちかくで暮くらしていた人ひとが身近みぢかな魚さかなで作つくったのかもと、思おもわず想像そうぞうしてしまいました。

そして、作つくられた時期じきはいつか。

時間じかんが経過けいかすると減少げんしょうする「放射ほうしゃ性せい炭素たんそ」を使つかい測定そくていしたところ、1800年代ねんだい後半こうはんに作つくられた可能かのう性せいが高たかいということもわかりました。

「『人魚にんぎょのミイラ』は江戸えど時代じだい後期こうきから明治めいじ時代じだいにかけてたくさん作つくられました。人魚にんぎょなどの幻まぼろし獣じゅうが出でたという情報じょうほうは、疫病やくびょうや災害さいがいに見舞みまわれた時期じきに出回でまわり、当時とうじの人ひとたちは、こうした珍めずらしい生物せいぶつを見みることに御ご利益りえきがあると考かんがえていました」

「そのため、瓦版かわらばんなどに絵えとして描えがかれただけではなく、動物どうぶつや魚さかななど現実げんじつの生き物いきもののパーツを組み合くみあわせた見せ物みせものも作つくられました。見せ物みせもの小屋こやで人々ひとびとは『ミイラ』と対面たいめんし、珍めずらしい異形いぎょうの生き物いきものに驚おどろくと同時どうじに、災厄さいやくから逃のがれたいと祈いのりました。娯楽ごらくと信仰しんこうが結び付むすびついていたのです。たとえ、作り物つくりものでも、そこに寄よせられた人々ひとびとの思おもいは本物ほんものです」

「幼おさないころに読よんでいた子こども向むけの雑誌ざっしには妖怪ようかいとかUFOが出でてきて、いつもわくわくしていた。そうした怪あやしいものと実際じっさいに巡り会めぐりあうことは想像そうぞうしていなかったが、今回こんかい、お寺おてらの協力きょうりょくで調査ちょうさする機会きかいが巡めぐってきた。この怪あやしいものが何者なにものなのか知しりたいということが原点げんてんでした」

記者きしゃ

「研究けんきゅうの意義いぎを教おしえてください」

加藤かとう教授きょうじゅ

「国内こくない外がいで『人魚にんぎょのミイラ』は複数ふくすう見みつかっているが、科学かがく的てきな調査ちょうさはほとんどされていなかった。私わたしたちの研究けんきゅうをきっかけに、今後こんご、同おなじような研究けんきゅうが行おこなわれて比較ひかくされることで、今回こんかい分わからなかった作つくり手しゅの解明かいめいにつながればいい」

「この『人魚にんぎょのミイラ』には作つくった人ひと、保存ほぞんしてきた人ひと、そして珍めずらしいものとして祈いのりや願ねがいを託たくしてきた人ひと、さまざまな人ひとの思おもいが宿やどっています。今回こんかいの調査ちょうさで作つくりものだとわかりましたが、ミイラに寄よせられた思おもいが変かわるわけではありません。石いしや木きでできた仏像ぶつぞうに人々ひとびとが手てを合あわせることと同おなじです。私わたしはこのミイラをこれからも大切たいせつに守まもり伝つたえていきたいです」

調査ちょうさを終おえて「人魚にんぎょのミイラ」は寺てらに戻もどりました。

圓えん珠たま院いんでは一般いっぱん向むけに公開こうかいはせずに、虫害ちゅうがいなどに気きをつけて大切たいせつに保存ほぞんしていくということでした。

（岡山おかやま放送ほうそう局きょく記者きしゃ 内田うちだ知樹ともき）