一方で「体外受精」や「顕微授精」などは治療を始める時点で、女性の年齢が43歳未満であることを条件としています。
医療機関に支払われる診療報酬は新年度・令和4年度から医師の人件費や技術料などにあたる「本体」部分を0.43%引き上げる一方、薬の価格や医療機器の材料費にあたる「薬価」部分を1.37%引き下げることになっています。 新しい診療報酬は、ことし4月から実施されます。
このため、患者の経済的な負担が大きいことが課題となっていました。
▽精子を妊娠しやすい時期に子宮内に注入する「人工授精」 ▽精子と卵子を採取し受精させる「体外受精」 ▽注射針などを使って卵子に精子を注入する「顕微授精」のほか ▽「体外受精」などで得られた受精卵の培養や ▽受精卵を子宮に着床する前の状態まで培養した「胚」の凍結保存 それに ▽「胚」を体内に戻す「胚移植」なども新たに保険の適用対象にするとしています。 このうち ▽「体外受精」や「顕微授精」などは、治療を始める時点で女性の年齢が43歳未満であることを条件としているほか ▽「胚移植」については、 女性の年齢が ◇40歳未満の場合は、子ども1人につき最大6回まで ◇40歳以上43歳未満の場合は、最大3回まで 保険を適用するとしています。 また、事実婚でも適用対象となります。 一方、受精卵の染色体に異常が無いかなどをあらかじめ調べる「着床前検査」については、流産を減らす効果が期待される一方、「命の選別につながる」といった意見も出されたことなどから、今回の改定案では適用対象にはなりませんでした。 生殖医療に詳しい産婦人科医によりますと、治療の進め方は患者ごとに異なるということですが、「体外受精」の場合、一般的には、検査や排卵誘発剤の投与のあと、卵子を採取し、「体外受精」を行うとともに、受精卵の培養や「胚」の凍結保存を経て「胚移植」へとつなげることが想定されるということです。 こうしたケースでは、今回示された価格を積み上げると診療報酬の総額は、40万円程度になり、患者はこのうちの原則3割を負担することになります。 不妊治療は、これまで病院ごとに自由に価格が設定されており、地域によってもばらつきがあったということで、今回の改定によって全国一律の価格が設定されることになります。 一方、今回の改定を受けて、去年1月に拡充された不妊治療に対する助成制度は、ことし4月以降、原則廃止されることになります。
東京都内に住む36歳の女性は、医師が妊娠しやすい時期を指導する「タイミング法」や、精子を女性の子宮に注入する「人工授精」では妊娠せず、卵子を取り出して体の外で受精させる「体外受精」を2回受け、不妊治療を始めてから1年9か月で出産に至りました。 治療では、1回採卵して体外受精を受けるたびに数十万円かかるなど負担が重く、女性は治療費に充てる費用のために働こうと、治療を中断せざるを得なかった時期もあったということです。 女性は2人目の子どもを授かりたいと先月から再び不妊治療を始めていて、保険が適用されると、金銭的な負担が軽くなると期待しています。 女性は「貯金がなくなり、治療費をためるために働いていた時期は、年齢を重ねることへの焦りもあってとても苦しかったです。保険が適用されて、金銭的な負担が軽くなればありがたいです」と話しました。 また、女性は、保険が適用されることで、どの治療が標準的なのか、分かるようになると期待する一方、医療機関ごとに妊娠に至った割合などの治療実績は必ずしも開示されていないため、医療機関を選ぶ際にはSNSなどを頼りにせざるとえないと不安を感じています。 女性は「これまでは何が正しい治療かわからず、自分が通うクリニックで行われていない検査をほかに受けに行ったりしていました。保険適用によってどこの医療機関でもある程度確立した治療や検査が受けられるようになるのはメリットが大きいと思います。ただ、医療機関の情報提供は十分ではなく、保険適用にあたって、わかりやすくまとめて公開し、どこのクリニックが自分に合いそうか、選択できるようにしてほしい」と話していました。
一方で「まだ効果が科学的に十分証明されていない新しい治療には保険が適用されないなど、患者が受けたいと思っても受けられない治療が出てくる可能性はある」と指摘しました。 さらに吉村名誉教授は「治療と仕事が両立できず、不妊治療を受けたいときに仕事をやめる女性が非常に多い。保険適用で経済的な負担を軽減することも大切だが、仕事との両立を支援することも極めて重要だ。現在、国家公務員を対象に、不妊治療のために有給休暇を取得できる『出生サポート休暇』という制度が始まっているが、民間企業でも制度を利用できるようにすることが大切だ」と話しています。
厚生労働省の指針では、初診からのオンライン診療は「かかりつけ医」が行うことを原則としつつ、過去のカルテなどから患者の状態が把握できる場合には「かかりつけ医」以外が行うこともできるとしています。 一方、オンライン診療では、患者の状態が把握しづらいことから、対面診療を適切に組み合わせて行うことを求めていて、基礎疾患があったり、症状の悪化が見られたりするなど、オンライン診療が不適切だと判断した場合には、対面診療に切り替えるか、対面診療が行える医療機関を紹介する体制を整えることが必要となります。 オンラインでの初診料は、普及に向けて患者側の経済的な負担を減らす観点から、2510円と、対面での初診料2880円に比べて370円低く設定されています。
症状が安定している患者に対しては、一定の期間、再診を受けなくても、3回を上限に繰り返し使える「リフィル処方箋」の仕組みを新たに設けるとしています。 具体的な投薬の期間は、これまでどおり、医師の判断で決まります。
両親や祖父母などの介護や世話をしている子ども、いわゆる「ヤングケアラー」への支援に対する加算が新たに設けられました。 医療機関が入院患者の様子から、患者本人または患者の家族が「ヤングケアラー」にあたると気づき、専任の看護師や社会福祉士を置いて支援にあたったうえで、退院後の生活も円滑に送れるよう、行政などとの連携を図った際に「入退院支援加算」が行われます。 具体的には、原則3日以内に対応した場合、 ▽長期の療養を前提とした「療養病床」で1万3000円 ◇「一般病床」で7000円 を退院時に加算するとしています。 従来設けられている介護が必要な患者や認知症の患者などが入院した際の「入退院支援加算」の対象を拡大した形です。
これまでは、医療機関が、「医療的ケア児」の通う小・中学校などに対し、子どもの診療状況や学校生活に必要な情報を提供した場合、患者1人あたり月1回2500円が加算されていました。 切れ目のない支援が行われるよう、保育所や幼稚園、高校などに、情報を提供した場合にも、この加算が新たに適用されるようになります。 また「医療的ケア児」が退院する際、医療機関が本人または家族に対し、退院後の服薬に関する必要な指導を行ったうえで、薬局に、文書で必要な情報を提供した場合、新たに1500円を加算するとしています。
地域の中核病院の場合は、 ▽常勤の医師や看護師などからなる感染制御チームを設け、 ▽コロナ患者を受け入れる際のゾーニング=区域分けの体制を整備するとともに、 ▽保健所や地域の医師会と連携を図り、打ち合わせや年1回の訓練を行ったり、 ▽ほかの医療機関への助言を行ったりすれば、 患者が入院する初日に7100円を加算します。 また診療所の場合には ▽感染管理者を設け ▽発熱患者の動線を分けられる体制を整備するとともに ▽中核病院などが開催する打ち合わせや訓練に参加したうえで ▽発熱患者の診療や検査にあたる「発熱外来」の体制を整備し、ホームページなどに公表した場合 患者1人あたり月1回60円を加算するとしています。
ただ今回の改定案に具体的な仕組みは盛り込まれず、中医協は、さらに議論を進めたうえで、別途、答申することにしています。
「不妊治療」公的保険適用を拡大
不妊治療を受ける患者「医療機関は十分な情報提供を」
専門家「標準的な治療が定められるのはメリット」
初診含む「オンライン診療」恒久的に認める
再診を受けず使える「リフィル処方箋」
「ヤングケアラー」への支援
「医療的ケア児支援」適用範囲を拡大
「新型コロナ感染対策強化」へは診療報酬を加算
「看護職員の処遇改善」は盛り込まれず
「人工授精」や「体外受精」などの不妊治療に加え、これまで特例的に認められてきた初診からのオンライン診療に公的保険が適用されることになります。