若わかいがん患者かんじゃ 卵子らんしや精子せいしの凍結とうけつ保存ほぞん希望きぼう 年間ねんかん7000人にんと試算しさん

試算しさんを行おこなったのは聖マリアンナ医科大学せいまりあんないかだいがくの鈴木すずき直ただし教授きょうじゅらで作つくる厚生こうせい労働ろうどう省しょうの研究けんきゅう班はんです。

若わかいがん患者かんじゃが抗こうがん剤ざいや放射線ほうしゃせん治療ちりょうを受うけると副作用ふくさようで不妊ふにんになるおそれがあり、卵子らんしや精子せいしなどの凍結とうけつ保存ほぞんは将来しょうらい子こどもを作つくる可能かのう性せいを残のこす重要じゅうような手段しゅだんとなっていますが、高額こうがくの費用ひようがかかることが課題かだいとなっています。

研究けんきゅう班はんでは、40歳さい未満みまんのがんの患者かんじゃの数かずや実際じっさいに卵子らんしの凍結とうけつ保存ほぞんをした患者かんじゃの数かずなどのデータを基もとに、卵子らんしや精子せいしなどの凍結とうけつ保存ほぞんを希望きぼうする患者かんじゃの数かずを試算しさんしました。

その結果けっか、経済けいざい的てきな支援しえんがあった場合ばあいに卵子らんしや精子せいしの凍結とうけつ保存ほぞんを希望きぼうする男女だんじょはおよそ4400人にん、受精卵じゅせいらんの凍結とうけつ保存ほぞんを希望きぼうする結婚けっこんしている女性じょせいは2400人にんなど、合あわせて年間ねんかんおよそ7000人にんに上のぼるとみられるということです。

これらの患者かんじゃにかかる費用ひようを全額ぜんがく公費こうひで負担ふたんした場合ばあいの総額そうがくは、凍結とうけつ保存ほぞんする回数かいすうで異ことなるものの、年間ねんかんで20億おく円えん余あまりから39億おく5000万まん円えんと試算しさんされるということです。

聖マリアンナ医科大学せいまりあんないかだいがくの鈴木すずき直ただし教授きょうじゅは、がんの治療ちりょうが優先ゆうせんされるためすべての患者かんじゃが凍結とうけつ保存ほぞんできるわけではないとしたうえで「医学いがく的てきには凍結とうけつ保存ほぞんできる患者かんじゃでも経済けいざい的てきな壁かべによって諦あきらめざるをえない患者かんじゃがいるのが現状げんじょうだ。

将来しょうらいの可能かのう性せいを信しんじて凍結とうけつ保存ほぞんを希望きぼうする患者かんじゃに国くにからのサポートが必要ひつようだ」と話はなしていました。

卵子らんし凍結とうけつ断念だんねんした患者かんじゃは

山口やまぐち県けん周しゅう南市みなみいちに住すむ井上いのうえ裕ひろし香子きょうこさん（39）は4年ねん前まえの35歳さいの時ときに乳にゅうがんの手術しゅじゅつを受うけました。

手術しゅじゅつ後ご、抗こうがん剤ざい治療ちりょうが必要ひつようでしたが、治療ちりょうの副作用ふくさようで子こどもを持もてなくなるかもしれないことを知しりました。

将来しょうらい、子こどもを持もつ可能かのう性せいを残のこしたい、そう考かんがえた井上いのうえさんは卵子らんしの凍結とうけつ保存ほぞんを検討けんとうしました。

しかし、壁かべとなったのは高額こうがくな費用ひようでした。

井上いのうえさんは、仕事しごとを続つづけながらがんの治療ちりょう費ひを賄まかなっていましたが、東京とうきょうや広島ひろしまの病院びょういんへの交通こうつう費ひや宿泊しゅくはく費ひなどもかかり、経済けいざい的てきにも不安ふあんを抱かかえた状態じょうたいでした。

卵子らんしの凍結とうけつ保存ほぞんにはさらに100万まん円えん近ちかくの費用ひようがかかるとみられましたが、当時とうじ、公的こうてきな助成じょせいはありませんでした。

主治医しゅじいとも話し合はなしあいましたが、がんの治療ちりょうを先さき延のばしにすることもできず、選択せんたくを迫せまられた井上いのうえさんは、悩なやんだ末すえに卵子らんしの保存ほぞんを断念だんねんしました。

それから4年ねん、井上いのうえさんのがんの治療ちりょうは順調じゅんちょうに進すすんでいますが、当時とうじの選択せんたくが正ただしかったのか、今いまも悩なやんでいます。

井上いのうえさんは「当時とうじはがんの診断しんだんを受うけて、妊娠にんしんのことや仕事しごとのこと、それにお金おかねのことなど突然とつぜん、多おおくの問題もんだいを突つきつけられ、誰だれにも相談そうだんできなかった。自分じぶんが亡なくなる直前ちょくぜんまで、子こどもを産うみたかったという思おもいはずっと消きえないのではないかと思おもう」と話はなしていました。

井上いのうえさんは、経済けいざい的てきな支援しえんが広ひろがり、患者かんじゃの負担ふたんが少すこしでも軽かるくなれば、自分じぶんと同おなじ悩なやみを持もつ患者かんじゃが少すくなくなるのではないかと考かんがえています。

井上いのうえさんは「生殖せいしょく機能きのうを温存おんぞんするかどうかは患者かんじゃにとっては大おおきな決断けつだんで、もしそのための助成じょせいがあれば、患者かんじゃの負担ふたんは一ひとつクリアできると思おもう。患者かんじゃが自分じぶんなりの決断けつだんを出だすための選択肢せんたくしは増ふえたほうがいい」と話はなしていました。

公的こうてき支援しえんは地域ちいき差さ

政府せいふは、不妊ふにん治療ちりょうについては現在げんざい、保険ほけん適用てきようの拡大かくだいを目指めざすと共ともにそれまでの間まも助成じょせい制度せいどを大幅おおはばに拡充かくじゅうすることで支援しえんしていく方針ほうしんを示しめしています。

一方いっぽうで、若わかいがん患者かんじゃが治療ちりょう後ごに子こどもを持もつ可能かのう性せいを残のこすための卵子らんしや精子せいしなどの凍結とうけつ保存ほぞんについては国くにによる全国ぜんこく一律いちりつの支援しえんはなく、地域ちいきによって差さがあるのが現状げんじょうです。

がんの患者かんじゃの卵子らんしや精子せいしなどの凍結とうけつ保存ほぞんは公的こうてき保険ほけんの対象たいしょうではなく、精子せいしを保存ほぞんする場合ばあいで5万まん円えん程度ていど、卵子らんしや卵巣らんそうなどを保存ほぞんする場合ばあいは40万まん円えんから100万まん円えん程度ていどかかるとされています。

妊娠にんしんの確率かくりつを高たかめるためには卵子らんしなどでは複数ふくすう回かい、凍結とうけつ保存ほぞんを行おこなう必要ひつようがあるため、実際じっさいにはさらに負担ふたんが大おおきくなるとされています。

こうした状況じょうきょうを受うけて、自治体じちたいの中なかには必要ひつような費用ひようの一部いちぶを助成じょせいする制度せいどを独自どくじに設もうけて経済けいざい的てきな支援しえんを行おこなうところが徐々じょじょに増ふえていますが、先月せんげつまでにこうした助成じょせい制度せいどを設もうけているのは全国ぜんこくの21の府県ふけんと4つの市しにとどまっています。

制度せいどがない自治体じちたいでは全額ぜんがくを自費じひで負担ふたんする必要ひつようがあります。

3年ねん前まえの調査ちょうさでは、およそ2割わりの患者かんじゃが経済けいざい的てきな理由りゆうから凍結とうけつ保存ほぞんを断念だんねんしたという結果けっかもあり、国くにに支援しえんを求もとめる声こえが出でていました。