この条例案について12日の本会議で採決が行われ、継続審議が必要だとして退席した議員2人を除く全員の賛成で可決されました。
川崎市は、表現の自由への配慮と実効性の確保の両立を目指したとしていて、条例では、禁じる差別的行為について対象、場所、内容、手段を具体的に示しているほか、「勧告」や「命令」の効力を6か月とし、「公表」の前には、必ず専門家による審査会の意見を聞くことになっています。
市議会では条例の対象外となる市民についても、不当な差別的言動により、著しい人権侵害が認められれば必要な措置などを検討するよう付帯決議が付けられました。
成立を受け、福田紀彦市長は「採決に至るまでには、議会にも行政にも妨害行為があったが、乗り越えて真摯(しんし)に議論でき、今議会で条例を成立できたことはよかった」と述べました。
そのうえで「捉え方で適用基準が変わらないよう、年度内に解釈の指針を作り、審査会は公平中立な専門家の人選を進めたい」と今後の方針を述べました。
川崎市の条例は、来年7月1日に全面施行されます。
対象となる差別的言動
12日に成立したヘイトスピーチなど、差別的な言動を禁じる川崎市の条例の内容です。
条例で禁じているのは、市内の道路や公園などの公共の場所において「日本以外の国や地域の出身者や、その子孫に対する差別的言動」を行うことです。
具体的な内容は3つで、
▽1つ目は「居住する地域からの退去を扇動・告知する」行為。
▽2つ目は「生命、身体、自由、名誉、または財産に危害を加えることを扇動・告知する」行為。
▽3つ目は「人以外のものに例えるなど、著しく侮辱する」行為です。
具体的な手段としては「拡声機の使用」「看板やプラカードなどの掲示」「ビラやパンフレットなどの配布」が明記されました。
これに違反すると、市長がこれらの行為を6か月間行ってはならないと「勧告」し、期間内に再び違反行為があれば、次は「命令」します。
それでも従わず、命令から6か月以内に3回目の違反が行われた場合、個人の氏名や団体の名称、住所などを公表するほか、刑事告発して50万円以下の罰金を科すとしています。
表現の自由に考慮し「勧告」「命令」「公表」の前には、専門家の審査会に意見を聞く流れになっています。
ただし「勧告」「命令」に関して、緊急性が高い場合は、必ずしもその必要はなく、恣意的(しいてき)な判断の防止と実効性の確保の両立を目指したとしています。
被害を訴えてきた在日コリアン3世「抑止効果に期待したい」
条例の成立を受け、川崎市在住でヘイトスピーチの被害を訴えてきた在日コリアン3世の崔江以子さんらが会見を開き、喜びを語りました。
崔さんは「『朝鮮人は日本から出て行け』などということばを聞き、つらい思いをしてきた。条例の可決は、川崎市が私たちを守ると宣言してくれたようで本当にうれしい」と述べました。
そのうえで「条例ができたからと言って、すぐに差別がなくなるわけではない。実効性を保てるかは、これからだと思うが、市が条例の素案を公表してから職場への嫌がらせの電話がなくなるなど、すでに影響を感じている。抑止効果に期待したい」と話していました。
また、川崎市に50年住み、市議会に可決を要請してきた在日コリアン2世の石日分さんは「長年かけて地域に溶けこみ穏やかに暮らしてきたのに、今になってヘイトスピーチによって差別を受ける理由はない。子どもたちには、そういう思いをさせたくないので条例の制定に感謝したい」と話していました。
専門家「具体的手続きのガイドライン必要」
条例の成立を受け、ヘイトスピーチの問題に詳しい師岡康子弁護士は「ヘイトスピーチ解消法の成立後もヘイトスピーチはなくならず、刑事罰を設けた実効性のある条例を、川崎市が全国に先駆けて成立させたことには大きな意義がある」と評価しました。
一方、内容については「意図的に差別的な言動を繰り返した場合のみを規制の対象とするなど、表現の自由とのバランスが取れているが、今後の運用については市民からのヘイトスピーチに関する情報提供の受け付け方や、警察や検察との連携など、具体的な手続きについてガイドラインなどで定めていく必要がある」と指摘しています。