ロンドン中心部にあるイギリス議会の近くには離脱派と残留派がそれぞれ集まっていて、離脱の瞬間を見届けようとしています。
ジョンソン首相は、4年前の国民投票で最初に離脱支持が明らかになった北部のサンダーランドで離脱前、最後となる閣議を行いました。日本時間の1日午前7時に国民向けのビデオメッセージを発表することにしていて、離脱をめぐる議論で分断が進んだ社会の融和を呼びかけることにしています。
イギリス政府は31日、離脱に合わせて記念の50ペンス硬貨を発行したほか、首相官邸では建物に時計の映像を映し出してカウントダウンを行うことにしています。
平和と共存の理念のもとに統合・拡大を続けてきたEUにとって加盟国が離脱するのは初めてのことで、イギリスの離脱はイギリスとEU、双方にとって歴史的な節目となります。
残留派が行進 離脱派と口論も
イギリスがEUから離脱する31日、ロンドン中心部では数百人の市民がEUとの別れを惜しんで行進を行いました。
集まった人たちは、離脱を望まない人もいるというメッセージを発信しようと、「すでにEUが恋しい」などと書かれた旗を掲げました。
参加した25歳の女性は、「離脱はイギリスにとって悲劇でしかなく、動揺しているし、悲惨な気分です。イギリスの未来、そして若い人たちの未来を悲観してしまいます。長い時間がかかるかもしれませんが、EUに戻れる日までたたかう価値はあると思う」と話していました。
このあと、参加者たちはEU関連の事務所が入る建物の前に集まり、日本では「蛍の光」として知られるスコットランドの民謡を歌い中には離脱を悲しむあまり涙ぐむ人の姿も見られました。
一方、残留派の行進のすぐそばでは離脱派の人たちが、EUの旗が印刷された紙を燃やすなどのパフォーマンスを行い、双方の間で口論になる場面も見られました。
行進を呼びかけたピーター・フレンチさんは、「別れを告げるとともに、できればすぐに再会したいという希望を込めて行進を呼びかけました。この国は、離脱をめぐって大きく割れてしまいました。悲しいことに、この先長い間、分断が埋まることはないと思います。人々を再びまとめるには、分断に費やされた力を超える努力が必要です」と話していました。
EU首脳 英国との交渉“今後 容易に譲歩せず”
EUの首脳らは残る加盟国の結束を強調するとともに、今後のイギリスとの自由貿易などの交渉では容易には譲歩しない考えを示しました。
離脱を12時間後に控えた31日昼前、EU首脳らがそろって記者会見を行いました。
この中でEUのミシェル大統領は「きょうは異例の日だ。誰かが去るのは幸せなひとときではない」と述べ、EUの中核を担ってきた大国・イギリスの離脱を惜しみました。そのうえで「27か国はさらに連携していく」と述べ、離脱を機に、残る加盟国の結束は強まると強調しました。
またフォンデアライエン委員長は「あすから新たなEUが始まる。楽観的でも悲観的でもなく、ただ決意に満ちている」と述べ、イギリスの離脱による影響を最小限にとどめ、EUを率いていくことに意欲を示しました。
また、イギリスとの今後の関係について「イギリスとはできるかぎりよい関係を築きたいが、加盟国と同じようにはいかないだろう」と述べ、今後始まる自由貿易などの交渉を有利に進めたいイギリスに対し、容易に譲歩しない考えを示しました。
専門家「EUの終わりの始まり…」
イギリスがEU=ヨーロッパ連合から離脱することについて、フランスの著名な歴史学者エマニュエル・トッド氏はNHKのインタビューに対し、「イギリスに続いて自由を取り戻そうという国が出てくるのではないか」と述べ、EUの終わりの始まりとなる可能性があると指摘しました。
フランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏は、かつてソビエト崩壊や、アメリカの金融破綻を予測し、世界的な注目を集めた人物です。
NHKのインタビューのなかで、トッド氏は、イギリスが国内を二分した激しい議論を経て離脱の実現にこぎ着けたことについて「討論の文化を持つイギリスの民主主義が機能したものだ」と述べて、民主的なプロセスを経た結果だとして評価しました。
そのうえで、エリート層出身のジョンソン首相が離脱への道筋をつけたことについて、「イギリス国民は、ヨーロッパを拒絶し、エスタブリッシュメントを拒否しながらも、女王を敬愛し、貴族的ともいえるエリートを受け入れられる人々だ。ジョンソン首相の登場はイギリス社会の流動性を象徴している」と述べました。
一方でトッド氏は、「イギリスの離脱の次に何が起きるか予測は難しいが、EU崩壊に向けた最初の一歩かもしれない。イギリスに続いて自由を取り戻そうという国が出てくるのではないか」と述べ、加盟国の主権を制限しながら統合を進めてきたEUが、イギリスの離脱をきっかけに分裂の危機に直面しかねないという厳しい見方を示しました。