Actualités japonaises: “痛み”もやむなし円安加速させた8分50秒【経済コラム】

円えん安やすが加速かそくしています。1日にちのニューヨーク外国がいこく為替かわせ市場しじょうで、円えん相場そうばは、24年ねんぶりの記録きろく的てきな円えん安やす水準すいじゅんとなる1ドル＝140円えん台だいまで値下ねさがりしました。このきっかけとなったのが、8月つき26日にちのFRB・パウエル議長ぎちょうの講演こうえんです。景気けいきへの配慮はいりょか、それともインフレ退治たいじか、FRBがどちらを重視じゅうしするのか注目ちゅうもくされましたが、パウエル議長ぎちょうは、あくまでインフレを抑え込おさえこむという強つよい決意けついを示しめしました。パウエル講演こうえんの8分ふん50秒びょうを市場しじょうはどう受け止うけとめたのか検証けんしょうしました。（経済けいざい部ぶ記者きしゃ西園にしぞの興起こうき）

市場しじょう関係かんけい者しゃ10人にん全員ぜんいんが「想定そうていどおり」

アメリカ西部せいぶワイオミング州しゅうのロッキー山脈さんみゃくを一望いちぼうできる高級こうきゅうリゾート地ち「ジャクソンホール」。

現地げんち時間じかんの8月つき25日にちに開幕かいまくしたシンポジウムには、日銀にちぎんの黒田くろだ総裁そうさいやFRBのパウエル議長ぎちょうなど主要しゅよう国こくの中央ちゅうおう銀行ぎんこうトップや著名ちょめいな経済けいざい学者がくしゃ、エコノミストなどが集あつまりました。

最もっとも注目ちゅうもくを集あつめたのは、日本にっぽん時間じかんの8月つき26日にち午後ごご11時じに始はじまったパウエル議長ぎちょうの講演こうえん。

市場しじょうでは、アメリカの景気けいき減速げんそくへの懸念けねんが強つよまっていたときで、FRBが景気けいきに配慮はいりょして金融きんゆう引き締ひきしめのペースを緩ゆるめるのではないかという見方みかたも出でていました。

市場しじょうに冷や水ひやみずを浴あびせたのは、講演こうえんが始はじまって1分ふん半はんほどたってから発はっした次つぎのことば。

「インフレを抑え込おさえこむには家計かけいや企業きぎょうに何なんらかの痛いたみをもたらすことになるがそれは避さけられないコストだ。ただ、物価ぶっかの安定あんていを取り戻とりもどすことに失敗しっぱいすればもっと大おおきな痛いたみを伴ともなうことになる」

「痛いたみ」という犠牲ぎせいがあったとしてもインフレの抑おさえ込こみを優先ゆうせんする。

この強つよいメッセージに株式かぶしき市場しじょうは大おおきく反応はんのう。

金融きんゆうの引き締ひきしめが長期ちょうき間かん継続けいぞくし、景気けいきが冷え込ひえこむことへの警戒けいかい感かんが広ひろがり、ダウ平均へいきん株価かぶかは1000ドル以上いじょうの急落きゅうらくとなりました。

これが市場しじょうにとってどれほどの“サプライズ”だったのか。

日本にっぽんのエコノミストやアナリストなど市場しじょう関係かんけい者しゃ10人にんに聞きいたところ、インフレ抑制よくせいを優先ゆうせんしたことについては、意外いがいなことに10人にん全員ぜんいんが「想定そうていどおりでサプライズはなかった」との回答かいとうでした。

ただ、総そうじていえば2点てん、“意外いがい感かん”をもって受うけとめられたところがありました。

なぜ「8分ふん50秒びょう」だったのか

1つは、講演こうえんの時間じかんです。

事前じぜんに公表こうひょうされていた、シンポジウムのアジェンダでは、パウエル議長ぎちょうの講演こうえん時間じかんは30分間ふんかんとされていました。

しかし予想よそう外がいの8分ふん50秒びょうで終了しゅうりょう。

ジャクソンホール会議かいぎでのFRB議長ぎちょうのスピーチ原稿げんこうを紙かみにすると、2012年ねん以降いこう、多おおいときは19枚まい（表紙ひょうしや図表ずひょう、参照さんしょう欄らんを除のぞく）、少すくないときでも9枚まいとなっていますが、今回こんかいはわずか5枚まいでした。

私わたしもそうでしたが、「これで終おわり？」と驚おどろいた方ほうも多おおいと思おもいます。

パウエル議長ぎちょうは講演こうえんの冒頭ぼうとう、「私わたしの発言はつげんはより短みじかく、焦点しょうてんを絞しぼって直接ちょくせつ的てきなメッセージになる」と発言はつげんしていました。

市場しじょう関係かんけい者しゃからは、「あえて講演こうえんの時間じかんを短みじかくしてシンプルなメッセージに凝縮ぎょうしゅくすることで市場しじょうが臆測おくそくを生うむような状況じょうきょうをつくらせないようにしたのではないか」という指摘してきもあがっていました。

FRBの失敗しっぱいの歴史れきしを教訓きょうくんに

もう1つは、FRBがインフレを制御せいぎょできなかった歴史れきしの事例じれいをあげたことです。

パウエル議長ぎちょうが例示れいじしたのは1970年代ねんだいの金融きんゆう政策せいさく。

第だい4次じ中東ちゅうとう戦争せんそうに端はじを発はっしたオイルショックで原油げんゆ価格かかくが高騰こうとうし、アメリカではインフレが急激きゅうげきに進すすんでいました。

当時とうじ、FRBを率ひきいていたアーサー・バーンズ議長ぎちょうも手てをこまねいていたわけではなく、1972年ねん2月つきに3.5％だった政策せいさく金利きんりを、1974年ねんの5月つきにかけて、13％まで引き上ひきあげました。

ところが、インフレが続つづく中なか、FRBは景気けいきへの配慮はいりょからこの年としの7月つきに一転いってんして金融きんゆう緩和かんわへと政策せいさくスタンスを変更へんこう。

この結果けっか、1974年ねん12月つきに物価ぶっか上昇じょうしょう率りつが12.3％まで急上昇きゅうじょうしょうする事態じたいとなり、その後そのご、アメリカはインフレと景気けいき後退こうたいが同時どうじに起おきるスタグフレーションに苦くるしむことになります。

これについてパウエル議長ぎちょうは、次つぎのように指摘してきしました。

「1970年代ねんだい、インフレ率りつの上昇じょうしょうに伴ともなってインフレ率りつが高たかいという期待きたいが家計かけいや企業きぎょうでの経済けいざい的てきな意思いし決定けっていに定着ていちゃくしてしまった」

将来しょうらいインフレが高こう止とまりするという見方みかたが定着ていちゃくすると、さらに物価ぶっかが上あがるという悪あく循環じゅんかんに陥おちいる。

パウエル議長ぎちょうはこうした歴史れきしの教訓きょうくんを引き合ひきあいに出だし、1980年代ねんだい初頭しょとうのインフレ抑制よくせいは、それ以前いぜんの15年間ねんかん、インフレを抑おさえる試こころみが失敗しっぱいしたあとに成し遂なしとげられたものだと指摘してきしました。

そして当時とうじ、大胆だいたんな引き締ひきしめ策さくを断行だんこうしてインフレの抑え込おさえこみに成功せいこうしたポール・ボルカーFRB議長ぎちょうのことばを引用いんようします。

「インフレはみずからを餌えさにしている。このためより安定あんていした、より生産せいさん的てきな経済けいざいに戻もどるための仕事しごととしては、インフレの期待きたいに支配しはいされている状態じょうたいを打ち破うちやぶることでなければならない」

なぜ失敗しっぱいしたのか

いまから40年ねん以上いじょう前まえの金融きんゆう政策せいさくからひもといた歴史れきしの教訓きょうくん。

しかしなぜ当時とうじ、アメリカがインフレが収おさまらないなかで引き締ひきしめから緩和かんわに突然とつぜん政策せいさくを転換てんかんしたのか疑問ぎもんが残のこります。

三菱みつびしUFJモルガン・スタンレー証券しょうけんの藤戸ふじと則のり弘ひろチーフ投資とうしストラテジストは、この理由りゆうを探さぐるうえでは、バーンズ議長ぎちょうのほかに、もうひとりの登場とうじょう人物じんぶつの存在そんざいが重要じゅうようだと説明せつめいします。

それが、当時とうじのリチャード・ニクソン大統領だいとうりょう（在任ざいにん1969年ねん1月つき～1974年ねん8月つき）です。

民主党みんしゅとう本部ほんぶの盗聴とうちょう未遂みすい事件じけんへの関与かんよが取り沙汰とりざたされた「ウォーターゲート事件じけん」で辞任じにんに追い込おいこまれた、あのニクソン大統領だいとうりょうです。

ニクソン大統領だいとうりょうは、景気けいきが後退こうたいすると選挙せんきょに不利ふりだという意識いしきが強つよく、バーンズ議長ぎちょうに対にたいして金融きんゆう緩和かんわを強つよく求もとめたといいます。

この結果けっか、インフレが進すすむ中なかでの突然とつぜんの利下りさげという事態じたいになったということです。

藤戸ふじと氏しは、パウエル議長ぎちょうの胸むねの内うちには、この一連いちれんのバーンズ議長ぎちょうの対応たいおうのまずさが意識いしきされていたのではないかと指摘してきします。

三菱みつびしUFJモルガン・スタンレー証券しょうけん藤戸ふじと則のり弘ひろチーフ投資とうしストラテジスト

「パウエル議長ぎちょうは、去年きょねんのジャクソンホール会議かいぎで、『物価ぶっか上昇じょうしょうの動うごきは一時いちじ的てきなのものにとどまる可能かのう性せいが高たかい』と楽観らっかん的てきな発言はつげんをしており、金融きんゆう政策せいさくでの対応たいおうの遅おくれが批判ひはんされていた。このままインフレを退治たいじできなければ、パウエル議長ぎちょうも歴史れきしの審判しんぱんを受うけることになってしまう。だからこそパウエル議長ぎちょうはジャクソンホールの短みじかい講演こうえんの中なかで、『私わたしはバーンズじゃない！』ということを言いいたかったのではないか」