福島ふくしま県内けんないの「震災しんさい関連かんれん死し」心臓しんぞうと脳のう血管けっかんの疾患しっかんが肺炎はいえんと並ならび最多さいた

ＮＨＫえぬえいちけいは原発げんぱつ事故じこで避難ひなん指示しじが出でるなど深刻しんこくな被害ひがいを受うけた双葉ふたば郡ぐんと南みなみ相馬そうま市しの９ここのつの市町村しちょうそんを対象たいしょうに、震災しんさい関連かんれん死しと認定にんていされた人ひとの状況じょうきょうについてアンケート調査ちょうさを行おこない、195人にん分ぶんの回答かいとうを得えました。

それによりますと、避難ひなん所しょの移動いどうや転居てんきょなどの回数かいすうは「不明ふめい」などの25人にんを除のぞくと、

▽１いち回かいから２に回かいが６ろく％にあたる10人にん、

▽３さん回かいから４よん回かいが22％にあたる37人にん、

▽５ご回かいから９きゅう回かいが58％にあたる99人にん、

▽10回かい以上いじょうが14％にあたる24人にんで、

平均へいきんすると6.7回かいに上のぼり、最もっとも多おおい人ひとは31回かいも家族かぞくや親類しんるいの家いえなどを転々てんてんとしていました。

また、死因しいんは

▽肺炎はいえんが54人にんとなったほか、

▽心こころ疾患しっかんが39人にん、

▽老衰ろうすいが19人にん、

▽脳のう血管けっかん疾患しっかんが15人にんなどで、心臓しんぞうと脳のう血管けっかんの疾患しっかんを合計ごうけいすると54人にんとなり、肺炎はいえんと並ならんで最もっとも多おおいことが分わかりました。

一方いっぽう、自殺じさつした人ひとは11人にんでした。

被災ひさい者しゃの健康けんこう調査ちょうさを続つづける福島ふくしま県立けんりつ医科いか大学だいがくの前田まえだ正治しょうじ主任しゅにん教授きょうじゅは「死因しいんでは高こう血圧けつあつが一因いちいんとなる心臓しんぞうや脳のう血管けっかんの疾患しっかんが多おおいのが特徴とくちょうで、将来しょうらいが見通みとおせない生活せいかつが大おおきなストレスとなって、高こう血圧けつあつなどになり、健康けんこうに影響えいきょうしたのではないか」と指摘してきしています。

避難ひなん先さきを転々てんてん ふるさとに帰かえれず死亡しぼう

震災しんさい関連かんれん死しと認定にんていされた浪江なみえ町まちの池田いけだ幸雄ゆきおさんは原発げんぱつ事故じこによる避難ひなん指示しじが出でて避難ひなん生活せいかつを強しいられましたが、ふるさとに帰かえれないまま、２に年ねん後ごに72歳さいで死亡しぼうしました。

震災しんさいが起おきるまで池田いけださんは軽かるい腰痛ようつうを抱かかえていましたが、持病じびょうはなく、町まちの職員しょくいんを定年ていねん退職たいしょくしたあとも地域ちいきの野球やきゅうクラブに入はいって大会たいかいにも出でるなどしていました。

しかし、避難ひなん所しょや親戚しんせきの家いえなど９きゅうか所かしょを転々てんてんとし、事故じこの４よんか月かげつ後ごに、福島ふくしま市しのアパートを借かりたころには、たび重かさなる車くるまでの移動いどうで腰こしを痛いためて外そとを出歩であるかなくなり、野球やきゅうに誘さそわれても行いかなくなりました。

事故じこから１いち年ねん後ご、足腰あしこしは一層いっそう弱よわり、食事しょくじもことばも少すくなくなって痩やせ細ほそっていったといいます。このころ、同級生どうきゅうせいが避難ひなん先さきで亡なくなり、「おれは浪江なみえに帰かえって死しにたい」と話はなしていたということです。

その後そのごも、いつ町まちに戻もどれるのか全まったく見通みとおしの立たたない中なか、将来しょうらいへの不安ふあんや焦あせりから日に日ひにひにやつれていき、肺炎はいえんを患わずらって入院にゅういんすることもありました。

晩年ばんねんは家いえにこもりがちになり、浪江なみえ町まちに帰かえれないストレスをため込ためこんだまま、事故じこから２に年ねん後ごの４月しがつ、心筋しんきん梗塞こうそくで亡なくなりました。

妻つまの正子まさこさんは「精神せいしん的てきに追い詰おいつめられて落ち込おちこんでいたのを自分じぶんが支ささえてあげられず悔くやしいです。二度にどとこのような事故じこを起おこしてほしくないという思おもいでいっぱいです」と話はなしていました。

みずから命いのちを絶たった人ひとも

震災しんさい関連かんれん死しに認定にんていされた人ひとの中なかには、みずから命いのちを絶たった人ひともいます。

亡なくなった女性じょせいの60代だいの夫おっとが匿名とくめいを条件じょうけんに取材しゅざいに応おうじてくれました。帰還きかん困難こんなん区域くいきに住すんでいた女性じょせいは、毎日まいにちのように近所きんじょの友人ゆうじんたちとお茶おちゃを楽たのしむ社交しゃこう的てきな性格せいかくでした。

原発げんぱつ事故じこで自宅じたくが帰還きかん困難こんなん区域くいきに指定していされたため、住み慣すみなれた家いえを離はなれざるをえず、近所きんじょの人ひとたちとも離れ離はなればなれになりました。近ちかくの市しに避難ひなんしましたが、震災しんさいから１いち年ねん後ご、友人ゆうじんとの会話かいわがない孤独こどくな生活せいかつや自宅じたくに帰かえれない現実げんじつへのストレスで眠ねむれなくなり、睡眠薬すいみんやくの服用ふくようを始はじめたといいます。

そのおよそ１いち年ねん後ごには、睡眠薬すいみんやくに加くわえて、震災しんさい前まえには飲のまなかった酒さけも大量たいりょうに飲のむようになり、「ふるさとに帰かえれないのなら生いきていてもしかたがない」と言いい始はじめ、医師いしにうつ病うつびょうだと診断しんだんされました。

その後そのごは「帰かえりたい」ということばを口癖くちぐせのようにつぶやき、夫おっとが話はなしかけても返事へんじをしなくなりました。

夫おっとは妻つまに希望きぼうを持もってもらいたいと、ふるさとの自宅じたくと同おなじ間取まどりの住宅じゅうたくを避難ひなん先さきに新築しんちくすることを決きめ、結婚けっこん記念きねん日びに合あわせた海外かいがい旅行りょこうも計画けいかくしていました。

しかし、そのやさきに妻つまはみずから命いのちを絶たちました。原発げんぱつ事故じこから４よん年ねん余あまりのことでした。

夫おっとは「新築しんちく工事こうじや海外かいがい旅行りょこうでは覆おおい隠かくせないほど、ふるさとに帰かえれないストレスがたまり、爆発ばくはつしてしまったのだと思おもう。妻つまのことを何なにも分わかっていなかった。もっと親身しんみになって考かんがえてあげればよかったと後悔こうかいしている。妻つまも家いえも土地とちも奪うばわれ、原発げんぱつ事故じこへの怒いかりは今いまも収おさまらない」と話はなしていました。

専門せんもん家か「心こころの復興ふっこうが進すすんでいない人ひとが多おおい」

震災しんさいと原発げんぱつ事故じこから８はち年ねんがたつ今いまも、福島ふくしま県けんで震災しんさい関連かんれん死しが増ふえ続つづけていることについて、被災ひさい者しゃの健康けんこう調査ちょうさを続つづける福島ふくしま県立けんりつ医科いか大学だいがくの前田まえだ正治しょうじ主任しゅにん教授きょうじゅは「多おおくの被災ひさい者しゃが長ながい避難ひなん生活せいかつで生いきる意欲いよくを失うしない、自分じぶんの体からだや心こころのケアができなくなっている深刻しんこくな状況じょうきょうを示しめしている。街まちの復興ふっこうは進すすんでも、心こころの復興ふっこうが進すすんでいない人ひとが多おおく、『自分じぶんが弱よわい』とか『惨みじめだ』などと思おもわずに、助たすけを求もとめてほしい」と話はなしています。

心身しんしんの不調ふちょうは周まわりの人ひとが気付きづいて、医療いりょう機関きかんの受診じゅしんを促うながすことも重要じゅうようですが、今回こんかいのアンケート調査ちょうさでは、転居てんきょを繰り返くりかえす中なかで隣人りんじんや友人ゆうじんはもちろん、家族かぞくすらも離れ離はなればなれになるケースも少すくなくなく、３さん世帯せたい家族かぞくが２に世帯せたい家族かぞくになったり、家族かぞくとの生活せいかつが１いち人にん暮くらしになったりした人ひとはおよそ３さん割わりに上のぼりました。

前田まえだ主任しゅにん教授きょうじゅは「避難ひなん指示しじ区域くいきなどでは家族かぞくや地域ちいきでの見守みまもりが崩壊ほうかいしてしまっている。行政ぎょうせいが心こころのケアや健康けんこう調査ちょうさ、それに訪問ほうもん相談そうだんなどをきめ細きめこまかに行いって、弱よわくなった絆きずなを補おぎなわなければならない」と指摘してきしています。