気象庁きしょうちょうの片隅かたすみで65年ねん 気象きしょう専門せんもんの名物めいぶつ書店しょてんが10月末げつまつで閉店へいてんへ

閉店へいてんするのは、東京とうきょう千代田ちよだ区くの気象庁きしょうちょうの庁舎ちょうしゃ内ないで、親子おやこ2代だい、65年ねんにわたって営業えいぎょうを続つづけてきた「津村つむら書店しょてん」です。

庁舎ちょうしゃの片隅かたすみにあるおよそ30平方メートルへいほうめ-とるの小ちいさな書店しょてんで、現在げんざいは2代目だいめの津村つむら幸雄ゆきおさんと京子きょうこさん夫妻ふさいが経営けいえいしています。

書店しょてんには絶版ぜっぱんになった貴重きちょうな気象きしょう専門せんもん書しょのほか、一般いっぱんの書店しょてんでは入手にゅうしゅ困難こんなんな気象きしょう予報よほう士しの参考さんこう書しょなど、数すう千せん冊さつを取り扱とりあつかっていています。

気象庁きしょうちょうで長ながく営業えいぎょうするうちに気象きしょう専門せんもん書しょが増ふえ、今いまでは「日本にっぽん唯一ゆいいつの気象きしょう専門せんもん書店しょてん」として知しられているほか、気象きしょう予報よほう士しやその卵たまごが多おおく訪おとずれる「気象きしょう予報よほう士しの聖地せいち」としても知しられていました。

しかし、この10年ねんほどは、書籍しょせきのインターネット販売はんばいの普及ふきゅうもあって、客足きゃくあしは次第しだいに遠とおのき、経営けいえいが厳きびしい状態じょうたいが続つづいていました。

さらに、気象庁きしょうちょうがことし12月つきまでに東京とうきょう 港みなと区くの虎ノ門とらのもんに移転いてんすることになり、新あらたな場所ばしょで店みせを構かまえる資金繰しきんぐりが難むずかしくなったため、閉店へいてんを決きめたということです。

幸雄ゆきおさんは「『やめないでほしい』という、ありがたい声こえをはげみに経営けいえいが厳きびしくても営業えいぎょうを続つづけてきました。長ながきにわたって多おおくの人ひとに愛好あいこうしてもらい感謝かんしゃしています。閉店へいてんまでに1人にんでも多おおくの人ひとに訪おとずれてほしいです」と話はなしていました。

津村つむら書店しょてんは閉店へいてん後ごもネットでの販売はんばいや、出張しゅっちょう販売はんばいは続つづけていきたいとしています。

書店しょてんの歴史れきしと惜おしむ声こえ

津村つむら書店しょてんが営業えいぎょうを開始かいししたのは、今いまから65年ねん前まえの昭和しょうわ30年ねんでした。

先代せんだいの津村つむら義幸よしゆきさんが気象庁きしょうちょうの前身ぜんしんの「中央ちゅうおう気象台きしょうだい」の敷地しきち内ないで店みせを構かまえました。

義幸よしゆきさんは、もともと気象台きしょうだいの職員しょくいんでしたが、戦後せんごに行おこなわれた公職こうしょく追放ついほう、いわゆる「レッドパージ」で職しょくを追おわれました。

その後そのごは行商ぎょうしょうなどをして生計せいけいを立たてていましたが、気象台きしょうだい時代じだいの仲間なかまの誘さそいを受うけ、中央ちゅうおう気象台きしょうだいの敷地しきちで本ほんを販売はんばいするようになりました。

これが「津村つむら書店しょてん」の始はじまりだったということです。

店みせを始はじめたばかりの頃ころは、気象きしょうに関にかんする本ほんはほとんど無なかったということですが、昭和しょうわ50年ねんごろから気象きしょう予測よそくの技術ぎじゅつの進展しんてんに伴ともなって気象きしょうの専門せんもん書しょが多おおく出版しゅっぱんされるようになると、気象庁きしょうちょうの職員しょくいんなどの求もとめに応おうじて次第しだいに専門せんもん書しょが増ふえていったということです。

気象庁きしょうちょうの元もと予報よほう課長かちょうで書店しょてんと半はん世紀せいき近ちかくのつきあいだという古川ふるかわ武彦たけひこさんは「気象きしょうの本ほんが日本にっぽんでいちばんそろっている書店しょてんで、気象きしょうに関にかんする本ほんはすべて手てに入いれることができた。職員しょくいんの貴重きちょうなコミュニケーションの場ばでもあり、気象庁きしょうちょうの中なかで大切たいせつな役割やくわりを果はたしてきた書店しょてんだった」と振り返ふりかえります。

さらに、平成へいせい6年ねんに「気象きしょう予報よほう士し制度せいど」がスタートしてからは、試験しけんの参考さんこう書しょも取り扱とりあつかうようになりました。

ほかの書店しょてんでは入手にゅうしゅが難むずかしい気象きしょうの専門せんもん書しょや参考さんこう資料しりょうを求もとめ、多おおくの気象きしょう予報よほう士しや、その卵たまごが出入でいりするようになり、いつしか「気象きしょう予報よほう士しの聖地せいち」とも呼よばれるようになりました。

店みせでは今いまはほとんど販売はんばいされていない「ラジオ天気てんき図ず」と呼よばれる天気てんき図ずを書かくための用紙ようしも扱あつかっていて、多おおくの気象きしょう関係かんけい者しゃに愛好あいこうされたということです。

5年ねん前まえに気象庁きしょうちょうを退職たいしょくし、今いまは気象きしょう予報よほう士しの指導しどうや育成いくせいにもあたっている元もと予報よほう課長かちょうの高瀬たかせ邦夫くにおさんは「20代だいのころから勉強べんきょうのために本ほんを購入こうにゅうし、今いまは予報よほう士しの育成いくせいに必要ひつような本ほんを購入こうにゅうするために利用りようさせてもらっている。30年ねん以上いじょうつきあってきた思い入おもいいれの深ふかい場所ばしょだ。多おおくの気象きしょう関係かんけい者しゃにとっても思い出おもいでの場所ばしょとなっているはずで、この空間くうかんがなくなってしまうのは本当ほんとうにさみしい」と話はなしていました。