これを受けてイランのロウハニ大統領は5日、演説し、「アメリカの制裁はイランの人々や外国企業に向けられたものだ。多くの国は制裁に怒っている」と述べて、国際社会の反対を押し切って制裁が発動されたとして強く非難しました。
そのうえで「われわれは、この一方的な制裁を名誉を持って破り、原油の販売も続ける。ヨーロッパやアジア各国はわれわれとともにある」と述べて、制裁に対抗する考えを強調しました。
イランは、アメリカの制裁に反対しているEU=ヨーロッパ連合に対し、制裁の影響を受けない形で取り引きができる新たな決済システムを導入するよう求めていて、アメリカの制裁下でも各国と連携を深めることで、原油取り引きなどの貿易を続けたい考えです。
ただ、国の歳入の3割以上を占めるイラン産原油の輸出量は年内にさらに落ち込むと予測され、すでに通貨安や物価高で国民の不満が高まる中、どこまで制裁の影響を回避できるかは不透明です。
イラン市民からは懸念の声
アメリカによる今回の制裁の発動について、イランの首都テヘランでは、市民から先行きへの懸念やトランプ大統領を非難する声が聞かれました。
このうち、60代の無職の男性は「トランプ大統領の政策を受けて、生活費はこの3か月で倍以上に跳ねあがりました。きょうから、庶民の暮らしは一層厳しくなるでしょう」と述べ、先行きを不安視していました。
また30代の男性会社員は「トランプ大統領は正気ではない。言ったことをすぐに破る。われわれの最高指導者が言うように、彼は信用できない」と述べて、トランプ大統領を強く非難しました。
一方、10代の男子学生は「アメリカと妥協する以外に、方法はありません。覇権国の彼らにとって、われわれは何でもない存在ですから」と述べ、政府にアメリカとの対話を求めていました。
日本政府 適用除外で今後も交渉へ
アメリカによるイランへの経済制裁をめぐって、日本政府には制裁発動後も適用を除外し、イラン産原油の輸入を一時的に認める方針が伝えられていて、一定期間後も適用除外とするよう、今後も交渉を続けていくことにしています。
外務省によりますと、日本が去年輸入した原油のうち、イラン産は5.5%でしたが、大手石油元売り各社は、制裁の発動を見越してイランからの輸入を停止したり、別の国に切り替えたりしていて、減少傾向にあります。
しかし、日本政府としては、エネルギーの調達先の多様化は重要だとして、アメリカ政府に対し、例外的にイラン産原油の輸入を認めるよう求めてきました。
ことし6月以降、事務レベルで4回にわたり協議を行ったほか、9月には河野外務大臣がポンペイオ国務長官に直接電話するなど、交渉を続けてきました。
今回の適用除外について、外務省幹部は「交渉の成果だ」と評価しています。
ただ、アメリカ国務省の高官が、適用除外は最長で180日間になるという認識を示していることから、外務省幹部は「一部の元売り会社がイラン産の輸入を続けていて、引き続き適用除外とならなければ死活問題となる」としていて、日本政府としては一定期間後も適用除外とするよう今後も交渉を続けていくことにしています。
東京商品取引所の原油価格値下がり
アメリカ政府がイランへの経済制裁の適用除外として、8つの国などにイランからの原油の輸入を一時的に認める方針を明らかにしたことを受け、東京商品取引所の原油の先物価格は600円以上、値下がりし、およそ2か月ぶりの水準まで下落しました。
5日の東京商品取引所は原油の先物に売り注文が出て、取り引きの中心となる来年4月ものの先物価格の終値は先週末よりも690円安い、1キロリットル当たり4万9430円となりました。
原油の先物価格が終値で5万円を下回るのはことし9月以来、およそ2か月ぶりです。
値下がりの原因は、アメリカのトランプ政権が日本時間の5日午後発動したイランへの経済制裁の適用除外として、8つの国などに対してイランからの原油の輸入を一時的に認める方針を明らかにしたためです。
これによって当初の想定よりも原油の供給量が減らないのではないかという見方が広がり、制裁の影響を見越してすでに買われていた原油の先物に売り注文が出ました。
市場関係者は「適用除外が認められたことで利益を確保する動きが出たが、除外は一時的なため、当面の間、原油価格の高騰には注意が必要だ」と話しています。
いちご農家から不安の声
アメリカが発動したイラン産原油の禁輸などの経済制裁を受けて、農業用ハウスで灯油を使用している新潟県内のいちご農家からは不安の声が出ています。
新潟県新発田市のいちご農家、長谷川仙一さんは6棟の農業用ハウスでブランドいちごの「越後姫」を栽培し、この時期はクリスマス向けのわせ品種の収穫が始まっています。
今月中旬からハウスの室温を保つため灯油を燃料とするボイラーを使う予定で、例年、冬の間は1か月40万円ほどの燃料代がかかるということです。
ことしは原油価格の上昇を受けて燃料代はすでに例年より2割から3割程度高くなっているということで、今回の経済制裁によってさらに価格が上がるのではないかと不安を募らせています。
長谷川さんは「これ以上、燃料が高くなると農家としては大変で、いちごの値段を上げることもできないので苦しい」と話しています。
ヨーロッパ各国やEUは制裁に反対
アメリカのトランプ政権によるイラン産原油の禁輸などの経済制裁について、核合意に参加するヨーロッパ各国やEU=ヨーロッパ連合は反対を表明しています。
ドイツとフランス、イギリス、それにEUは、共同で、制裁の発動に先立って今月2日、「イラン核合意はヨーロッパと中東地域、さらに世界の安全保障にとって重要で、アメリカによる経済制裁は極めて遺憾だ」とする声明を出し、アメリカによる制裁を改めて批判しました。
EUは、制裁を回避してイランとの原油取引を続けられるよう新たな決済システムの構築を目指していて、その概要について近く発表すると見られます。
中国「単独制裁に反対」
アメリカのトランプ政権がイランに対する経済制裁を発動したことについて、中国外務省の華春瑩報道官は5日の記者会見で「アメリカの決定に対し、遺憾の意を表する」と述べました。
そして、核の不拡散に有効な核合意をイランは履行してきたと評価したうえで、「中国は公正かつ客観的で責任ある態度を保ち、イラン核合意を維持するための努力を継続するとともに、われわれの正当で合法的な権益を断固として守っていく」と強調しました。
また、イランの原油の輸入を減らすのかという質問に対しては、「中国は一貫して単独制裁に反対している。中国とイランが国際法の枠組みの中で行う正常な協力は合法的なものであり、尊重され、守られるべきだ」と述べるにとどめました。
イスラエルは歓迎
イスラエルのネタニヤフ首相は5日までにビデオ声明を出し、アメリカのトランプ政権がイランに対する経済制裁を発動したことを歓迎する意向を示しました。
この中でネタニヤフ首相は「私はずっと、世界を危険にさらすテロ国家、イランに対して、経済制裁を完全に復活させるよう呼びかけてきた。制裁の影響でイランの通貨は下落、経済は低迷して効果はすでに出始めている。歴史的な決断をしてくれたトランプ大統領に感謝したい」と述べました。
専門家「イラン経済に大きな打撃」
アメリカによる今回の制裁についてイラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は「イランは外貨獲得の6割から7割を原油に頼っているうえ、金融取引でも制裁を受けるので貿易にも大きな障害となり、イラン経済に対する打撃は非常に大きい」と指摘しました。
そのうえで、アメリカのトランプ政権の狙いについて「短期的にはイランが交渉につくことを待っているし、中長期的には、我慢を続けるイランを立ちゆかなくし、政権や体制の安定に打撃をあたえ、最終的には、体制の崩壊を意図している」と述べました。
一方で、イラン側の出方について田中教授は「当面は挑発に乗らず、ヨーロッパなど核合意のほかの国と政治的、経済的な関係を維持しなんとか乗り切ろうとしている。そのためには核合意の順守が前提になるので核合意から離脱するつもりはない」との見方を示しました。
ただ、ロウハニ政権への影響については「状況を甘んじて受けるのかという批判はロウハニ政権に対して当てられるので、政権の安定性や難局をどう乗り切るのかという課題はますます大きく、重くなっていく」と述べ、イラン国内で保守強硬派を中心に制裁への反発がさらに高まるなか、ロウハニ政権は難しい対応を迫られていると指摘しました。
また、田中教授は、国際的な原油価格への影響について「来年以降も制裁が継続し、原油の輸出が削減傾向になるとしわ寄せが発生し、品薄感から原油価格の高騰を引き起こすこともありうる」と指摘しました。
そのうえで、アメリカ政府が8つの国などは一時的に原油の輸入を認める適用除外とし、日本も含まれるとされていることについては「180日の猶予の間に取り引きができると言っても、上限が設定されていて、猶予期間の先は全く保証されていない」として、楽観視はできないとの考えを示しました。