実証実験の拠点となる青森県にある自衛隊の八戸航空基地では、15日午前10時すぎ、滑走路に全長およそ12メートル、幅24メートルある無人航空機が姿を現しました。
この無人航空機はアメリカの防衛企業、「ジェネラル・アトミクス社」が海洋調査用に開発したプロペラ機「シーガーディアン」で、滑走路を走って離陸し、上空をゆっくりと旋回して、実験を行う三陸沖に向かいました。
シーガーディアンとは
シーガーディアンはアメリカの防衛企業「ジェネラル・アトミクス社」の無人プロペラ機で、地上のコントロール施設から、無線による操縦、カメラによる監視、音声による不審船への警告などができる仕様になっています。
連続航行時間は35時間で、丸一日で日本の排他的経済水域の最も外側を1周できる飛行能力があります。
海上保安庁によりますと、実験では三陸沖や日本海などでカメラで撮影した映像がリアルタイムで届くかや、飛行の安全性に問題がないかなどを確認します。
離陸と着陸以外で、機体が住宅街の上空を飛ぶことはないということです。
海上保安庁では実験を来月10日まで行い、海難事故の捜索や、不審船の監視や取締りに活用できるか検証することにしています。
背景に“周辺海域情勢の緊迫化”
海上保安庁が無人航空機の導入を検討する背景には、日本の周辺海域の情勢が緊迫化していることがあります。
政府は、沖縄県の尖閣諸島周辺で中国公船による領海侵入が繰り返されていることなどを踏まえ、平成28年に「海上保安体制強化に関する方針」を定めています。
尖閣諸島周辺では、15日も中国当局の船が一時、領海に侵入し、ことしに入って15日までに、領海侵入は19件、隻数は64隻にのぼっています。
また、領海のすぐ外側にある「接続水域」を航行した日数でみると、ことし15日までに、265日にのぼっていて、去年の同じ時期と比べて46日、多くなっています。
実証実験は、こうした方針に基づいた取り組みだということです。
“パイロットの負担軽減”も
パイロットなどの負担軽減への期待もあります。
航空業務に携わる職員は海上保安庁の中でおよそ1000人いますが、尖閣諸島周辺や、能登半島沖の大和堆周辺の警戒や、近年相次いでいる大規模な災害での活動などで、業務負担が増しています。
遠方海域の監視業務にあたるジェット機の場合、最低でも5人が同乗して警戒にあたる必要がありますが、無人航空機では、コントロール施設で操作にあたる2人の要員で足りるということです。
また、無人航空機の場合は、有人機のように要員の交代に合わせた離着陸を必要としないため、業務の効率性も高まるとされています。
実験データは海上自衛隊にも
今回の実証実験には海上自衛隊が協力し、会場として八戸航空基地の滑走路や格納庫を貸し出しています。その背景には、自衛隊側の思惑もあります。
海上自衛隊は令和5年度までに無人航空機を3機導入することを計画しています。艦艇に搭載し日本周辺の海域での警戒監視に当たらせることを検討しているということです。
今回の協力によって、実証実験で得られたデータは海上保安庁から提供を受けられることになっていて、機種の選定や実際の運用方法を検討する際の参考にする方針です。
また、海上自衛隊には今回の協力を通じて、海上保安庁との連携を一層強化したいというねらいもあります。
海上自衛隊は、尖閣諸島周辺を含む東シナ海で活動を活発化させる中国海軍に対する警戒を強めていて、中国当局の船に対応している海上保安庁と情報共有などの面で連携を強化したい考えです。
防衛省関係者の1人は「『海の警察』である海上保安庁の中には、自衛隊との連携に慎重な意見も根強くある。こうした機会を通して組織間の垣根を低くし、現場レベルでの交流につなげたい」と話しています。
専門家 開かれた場での議論を
航空工学が専門で無人機の活用などに詳しい、東京大学未来ビジョン研究センターの鈴木真二特任教授は、今回の実証実験について「大型の無人機は、世界では国境の警備や海岸線の監視などで利用が始まっている。日本は海に囲まれ、広大な海域を持っているので、効率よく監視できる無人機は大きな意味があると思うが、日本では使用実績がほとんどないので、どこまで使えるかを見極めることに意義がある」と指摘しています。
一方、「機体はアメリカで認証を取っているが、実際の運航の中で衝突防止装置がどのように機能するのか、どのような安全上の注意が必要か、そうしたことをきちんと確認していく必要がある」と、何よりも安全性の確認が必要だとしています。
また、実証後の導入の判断については、開かれた場での議論が欠かせないと訴えます。
鈴木特任教授は「利用目的から、安全に運行するためのルール作り、海外との関係、安全保障上の問題など多くの視点がある。皆が議論し合う機会をしっかりと作ることが必要だ」と話していました。
「シーガーディアン」民間機との衝突回避装置なども
国内で過去には2年前に長崎県で「シーガーディアン」の類似機の実証実験が行われていて、今回、海上保安庁から委託を受けた航空測量会社が、2年前の実績などを踏まえて使用機体に決めました。
海外ではアメリカの税関・国境警備局などで使用されていて、安全対策として民間機との衝突回避装置のほか、無線通信が途絶えた場合は自動で航空基地に戻る機能を備えているということです。
シーガーディアンは軍事目的で作られた機体をベースに海洋調査用にしたもので、海上保安庁は「導入は実証の結果などを踏まえて検討するが、必要な能力・装備は海上保安庁の業務に必要なものに限られ、それ以外を検討する予定はない」としています。